ゴリラ一家
前回からしれっと使っている「ピアニカ」という言葉ですが、正式には鍵盤ハーモニカです。長いので作者が小学生の時に言っていた「ピアニカ」で通しております。「メロディオン」とも呼ばれるらしいですね。
学校祭でピアニカ吹きを務めることを承諾し、家に帰ってピアニカがあるかを確認する。
「香苗ちゃん、うちにピアニカってあったっけ?」
「ピアニカ?あるよ~。懐かしいな、私が小学生のときに使って以来だから化石になってるやも…」
香苗ちゃんが自室に戻ってガチャゴチャと押し入れを漁っている。
秋人もピアニカを使ったことがないから持っておらず、冬瑚は持っているが小学校で使っているので借りるのは難しい。
家に帰る前に楽器店に寄り、息を吹き込む長めのパイプと黒めの短いパイプを買ってきた。
「見つかった!化石発掘したよ夏くん!」
ピアニカが化石になっちゃったよ。
音が出るのか心配になってきた。香苗ちゃんが小学校に通っていた以来、触っていないらしいから、これはピアニカを購入しなければいけないかも…。
不安を抱えながら香苗ちゃんが発掘したピアニカが入った青いケースを受け取った。
「そもそも開くかどうかがちょっと、ねぇ?」
ぽりぽりと頬を掻きながら明後日の方向を向く香苗ちゃん。これは発掘したときに開けようとしたんだな。それで開かなかったと。なるほどなるほど。
ピアニカケースのストッパーを渾身の力を込めてこじ開ける。
「ぬぉおおおおおおおおおお!」
―――ぱちん
「キャー!夏くんすごい!ひとつ開いたわ!」
「ハァハァハァ、なんのこれしき…」
「残すはあとひとつね」
ピアニカを封印せし番人ことストッパーは2つ。ひとつを開けた時点で達成感が出てしまって、正直もう力が入らないが、気合を入れ直す。
「……ふんぬぅぅううううううう!」
かっっった!固すぎないか!?化石だよ、これ!まるで石を割ろうとしているかのごとき手ごたえの無さ!
「夏兄ー!がんばれー!」
「兄貴、ひっひっふーだ」
この中に一人、兄が出産すると思ってる人がいますー!力が抜けます誰か助けてー!
「ぐぅああああああああああ!」
―――ぱてぃん
「「「開いたー!!!」」」
若干、変な音がしたけど、開いた!いぇーい!
冬瑚と秋人と喜びを分かち合っていたとき、一番騒ぎそうな香苗ちゃんが大人しいことに気付いた。
「香苗ちゃ……あ、」
「あー!香苗ちゃん動画撮ってるー!」
「無断撮影はんたーい」
少し離れた所でスマホを構えて、ストッパーを外すところから開いて喜ぶまでの一連の流れを動画で撮影していたようだった。
「めちゃイイ動画撮れたから見て」
香苗ちゃんのスマホの画面を3兄弟で覗き込む。
『……ふんぬぅぅううううううう!』
「兄貴の顔がゴリラになってる」
「ブフッ」
「夏兄って、ゴリラさんだったの…?」
妹からなにを真面目に質問されているのだろうか。
幼い妹にも理解してもらえるように、ゆっくりと噛み砕いてこの世の真実を話す。
「人間はみんな、内側にゴリラさんを飼っているんだよ」
「そうなんだね…。だから冬瑚はバナナが好きなんだ…」
バナナ好きにゴリラさんは関係ないと思うんだ。
「冬瑚、それ兄貴の冗談だからな。信じるなよ」
「えー!?でもでも、秋兄もたまにゴリラさんになるよ!」
「もしかして僕、妹から悪口言われてる?」
珍しく秋人が落ち込んでる…。でも、俺のことを最初にゴリラって言ったのは君だからね?お兄ちゃんの気持ち、少しはわかってくれたウホ?
「言われてみれば確かにウホ」
「たまにゴリラになるよね、秋人はウホ」
「だよねー!ウホ!」
香苗ちゃん、俺、冬瑚に次々とウホウホ言われて秋人が耳を塞いだ。
「ウホウホうるさっ!このゴリラ一家め!」
「その一家の一員だろ?秋人も」
「ぐぬぬ…」
「そこは「ウホホ…」でしょ」
「僕は人間ウホ、ウホホなんて、そんなこと言わないウホ!」
「ウホホウイルスに秋くんも感染したみたいね秋くん!ようこそこちら側へ」
最終的にはかくかくしかじかで地球上の生物はすべてゴリラになったらしい…。
「冬瑚はそろそろ寝る時間だね」
「うん!秋兄からかうの面白かった!」
「今日は良い夢が見れそうだね」
「兄貴!冬瑚!聞こえてるからな!」
ゴリラの話が一段落して、冬瑚がゴリラの夢を見ている頃。
ガッチガチに固まっていたピアニカの鍵盤をいじっていると、珍しく秋人が部屋を訪ねてきた。
「秋人、どうした?」
「ちょっと、話があって」




