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良いタイトル

今日はホワイトデーですね。



横浜真澄ストーカー事件は、犯人だと思われた男は実は横浜さんのお父様だったという拍子抜けするような真実が判明して幕を閉じた。


その後、本腰を入れてアマチュアバンドコンテスト、ABC本選用の曲の練習に入った。


「歌詞はまだですか?」

「あとちょっと待ってね」


そのお返事、一週間前にも聞いたなぁと思いつつ、急かしても良いものは生まれないこともわかっているので、これ以上は何も言わないでおく。


「陽菜乃先輩、あんまり思いつめないでくださいね」

「そーだよ~。虎子が歌詞を書いてもいいんだよ~?」

「虎子の歌詞は幼稚園児レベルだから、俺が書いた方がまだマシだろ」

「まあまあ、虎子も天馬先輩も落ち着いてください」


数少ない合同練習で確実に演奏レベルは上がっている。ABC本選に俺たちと同じく出場した他のバンドの映像を見たが、この演奏レベルなら優勝争いができる。けど、決定打には欠ける。完全優勝するためにはやはり歌が必要だ。


1番が女性目線の歌詞、2番が男性目線の歌詞で悲しい恋の歌にする、とは聞いている。曲調もそれに合わせて少し変えた。


「それじゃあ歌詞の前に曲のタイトルを考えましょうか。ずっと『ホワイトデーの曲(仮)』だったので」

「あ、そうか忘れてた」

「タイトル考えなきゃじゃ~ん」

「はいはい!あたし考えてきた!……『冬の桜』どう?」


どこからか引っ張り出してきた会議用の大きいホワイトボードに赤字ですみれ先輩が曲のタイトル候補を書いた。


「季節外れの桜、春になったころには桜の花びらは散っている、という意味ですか」

「そう!さっすが曲を作ってる人なだけある!」


タイトルはすごく良いと思うが、それが歌詞に合わなければ意味がない。作詞をしている陽菜乃先輩に意見を聞かなければ。


「『冬の桜』……う~ん。”冬”って単語を入れたくないのよね」

「なるへそ。それなら虎子の案を見てもらおう!」


きゅきゅっと音を鳴らしながらホワイトボードにペンを走らせる虎子。


「『アングレカム』?」

「アングレカムは冬の花でね~、花言葉は祈り、いつまでもあなたと一緒っていう花言葉があるんだよ~」


さっきはタイトルを考えるのを忘れてた!って感じを出していたのに、どうやら虎子はしっかり考えてきていたみたいだ。


「『アングレカム』……もっとわかりやすいタイトルが良いわ」

「え~?わかりやすいよ~」

「じゃあ後輩君、アングレカムが花の名前だって知ってた?」

「すみません、わかりませんでした」

「というわけよ」

「ムゥ」


ほっぺたをリスの頬袋みたいに膨らませながら俺の背中に回り込み、頭をぐりぐりしてくる。


「ごめんて」

「じゃあ智夏パイセンなんか良いタイトル考えて」

「えっ。あー、あの、……そうだ!天馬先輩は?」

「俺!?」


急に話をぶん投げられてびっくりしていたが、この話が出たときからずっと悩んでいたみたいなので、なにかいいタイトルが浮かんでいると思う。


「一個浮かんだけど、でももう少し考えさせて、」

「いいえ。いま言いましょう。こういうのは勢いが大事なんで」

「……わかったけど、笑うなよ」

「笑いませんよ」


この後、虎子がにゃははと笑って天馬先輩からゲンコツをくらっていたが、タイトルは天馬先輩のそれに決まったのだった。






――――――――――――――――――





ステージから漏れてくる音を聞きながら、必死で息を整える。


あ、そうだ。マスクをしなきゃいけないんだった。


カバンから急いでマスクを取り出してつける。うわ!目の前が真っ白になった!?


「智夏パイセン、眼鏡は外した方がいいんじゃない?」

「眼鏡してたんだった」


どうりで視界が曇るわけだ。眼鏡を外すと、視界がクリアになった。


自分で思ってた以上にテンパっていたみたいだな。だって、本番前にあんなトラブルが起きるなんて思いもしなかったから。


「すみれ、天馬、後輩君、虎子」


ステージ脇に移動し、後は出番を待つだけになったとき、陽菜乃先輩が俺たちの名前を呼んだ。いや、俺だけ名前じゃないな。そういえばなんでだろ?


()せてやろう」


陽菜乃先輩がニヤリと笑い、特注の仮面をつけた。振り向いたのは一瞬だけ。それだけ俺たちを信じているということか。


「それでは、最後のグループに上がってもらいましょう!ヒストグラマー!!!」


陽菜乃先輩のあとに続いて、俺たちはABC本選のステージに上がるのだった。


「聞いてください、『春を前に君は散る』」


~執筆中BGM紹介~

GUNSLINGER GIRL-IL TEATRINO-より「doll」歌手:Lia様 作詞・作曲:麻枝准様

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