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スピード解決



パトカーはどうやら車同士の事故処理にやって来たようで、俺たちが出たコンビニの一本裏の通りで何やらドライバー同士が元気そうに大声で揉めていた。


「あー。玉突き事故だな。ケガ人はいないみたいだし、不幸中の幸いってやつだな」

「…」

「めちゃ揉めてんなぁ。自動車免許取りたいと思ってるんだけど、あぁいうの見てるとやっぱ怖いよなー……おーい?聞いてるか?」


ケガ人はいない、軽い事故だ。あのときとは違う。




コンビニ、2人、車の事故……


嫌でも瞼の裏に春彦の最期がフラッシュバックする。




これはあの日じゃない!違う違う違う!落ち着け!


「はっ、は、はー、はっ、」


深呼吸をしようとしても、泣きじゃくった後のように呼吸がうまくいかない。


「智夏?大丈夫か!?」

「っ、は、はっ、はー、」


横浜さんが何か言ってる……。そうだ、横浜さんだ。一緒にいるのは春彦じゃない。誰も死んでない。大丈夫、大丈夫……。


「すーー、はーーー」

「落ち着いたか?」

「な、なんとか……」

「よかった」


しばらくたって呼吸が落ち着いてきて、そのとき初めて横浜さんが俺の背中をずっとさすってくれていたことに気付いた。


「もう大丈夫です。ありがとうございます…」

「ん?別に礼を言われるほどのことはしてないさ。落ち着いたなら、さっさと家帰って風呂入って寝るかー」

「ですね」


事故現場を見て取り乱した原因を、横浜さんは俺に聞いてこない。気を遣ってなのか、単に興味がないだけなのか。その曖昧な優しさが、夜風に乗って心の中にそっと入ってくる。


「横浜さんは、兄に似てないけど、似てるかもしれないです」

「どっちだよ〜、てか兄ちゃんいたんね?このまえ御子柴家に行ったときには会えなかったけど」

「ずっと昔に事故で亡くなっちゃいました」

「そか」


この一言で済ます気楽さが、俺にはありがたい。


「やっぱ『お兄ちゃん』って呼んでもい、」

「却下」

「なんでだよ~」


ガサガサとコンビニの袋を揺らしながら、少し寄り道して横浜さんの家に帰る。


「いま横を通った車に乗ってたのが女優の@@でー、あのマンションの部屋にはこの前タレントの◇◇が住んでた~」

「個人情報ダダ洩れじゃないですか」

「漏らすような相手には行ってないからだいじょーぶ」

「そーですか。……じゃあ前から歩いてくる2人組は?」

「あー。あの2人は………え、」


適当に指した2人だったが、近づいてきて輪郭がはっきりとわかってくると、どちらも見知った顔だったことがわかった。


「カンナと香織!?」

「香織丸と愛羽さん!?」

「智夏と横浜さん!?」

「智夏君!?」


4人がそれぞれに驚いている。夜の道でバッタリと出会ったのは、同じ高校の2人で五大美人と敬われる愛羽カンナと花村香織だった。


「っておい!香織丸~!俺もいるのに無視すんなよな!」

「え~!智夏君がなんでこんなのと一緒にいるの!?」

「こんなのって言うない」


………そういえば、横浜さんと香織は幼馴染って言ってたっけ。幼馴染特有の容赦のない言い方が、香織の普段学校で見せる姿とは違い、どこか別の人のようだ。


「私の家に泊まりに来てるの、香織は」

「カンナの家もここら辺なんだ」

「えぇ。………智夏、顔色悪いけど大丈夫なの?あ、これは友達を心配してるだけなんだからね!」


カンナが目敏く俺の顔色に気付いたが、途中でツンデレみたいなことを言い出した。どこで恥ずかしがってんだ。


「えぇー!?」

「「!?」」


カンナと2人で話していると、香織と話していた横浜さんが突然驚きの声を上げた。カンナと俺はその声に思わず驚き、香織は物理的に横浜さんの口を塞いだ。


「近所迷惑でしょっ!」

「もごぉ!?わりぃ。いや、……え、それってマジのマジで?」

「マジのマジで」


一体なんの話をしているんだろうか。


「あ~、智夏。ストーカーの件、どうやら解決したっぽい」

「え」


なにそのスピード解決。怒涛の展開すぎてついていけない。香織って実は頭脳は大人の名探偵とかなのかな?


「ストーカーだと思ってたのは、どうやらうちの親父らしい……。本当にごめん!」

「何がどうなってそうなった…?」

「実は…」


横浜さんが芸能界入りするのを反対していた親父さんだが、横浜さんが乗った小さな雑誌の記事もスクラップしたり、出演したテレビ番組は全て録画して何回も見たり、陰ながら応援していたらしい。そんな姿をずっと見てきた横浜さんのお母さんから、いい加減仲直りしなさい、と息子の住所を教えて親父さんを送り出したらしい。


「そして親父は俺の前に現れる勇気が出ず、電柱の影から話しかけるタイミングをうかがっていたらしい」


本物のストーカーじゃなくて良かったですね、とか、親父さんシャイなんですか?とか色々聞きたいことはあるが、とりあえずこれだけは言いたい。


「つまり明日には冬瑚たちの元に帰れるってことですね」

「ブレないな~」


一週間も冬瑚達に会えないなんて寂しすぎるからな、一瞬で終わって良かった~。

~執筆中BGM紹介~

ジョゼと虎と魚たちより「心海」歌手・作詞・作曲:Eve様

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