コアラ
3月になりましたね。
今日は無理やり作った完全なオフの日。
マリヤとの約束通り、昨日は家族で屋内レジャー施設に遊びに行った。みんな楽しそうに笑っていて、俺はマリヤに事前に頼まれていた写真を撮るのに忙しくしていた。笑うのは健康に良いって聞くし、少しでも長く一緒にいられることを願わずにはいられない。
ここまでは昨日の回想。そして今は布団の中。いつもの癖で早朝に目が覚めたが、即座に二度寝を決め込んだ。いつ以来だろう、目覚まし時計をかけずに好きな時間に起きる日がくるのは。
カーテンの隙間から陽光が零れ落ちるくらいには、太陽が昇っている時間帯なのだが、この身体は覚醒する気は一切ないようだ。
―――惰眠をむさぼる
最高の休日だ。
そろそろ3度寝をかまそうかと思っていたとき、静かに部屋のドアが開いた。
「ハル、シーっだよ。夏兄ねてるから」
「みゃ」
どうやらコソッと部屋に入って来たのは天使な妹、冬瑚と癒し系白猫のハルらしい。
俺を起こさないように慎重に音を立てないようにベッドに向かってくる。
これはあれか。寝起きドッキリ的なそういうあれですな。察しの鋭いお兄さんは妹たちの微笑ましいイタズラに気付いてしまったよ。仕方ない、ここは大人しく驚いたふりをするか…。
「うんしょ、うんしょ」
「にゃー、にゃ」
掛け声から可愛いんだけどうちの子やばすぎない?可愛さと可愛さと可愛さでできてるんじゃない?
薄目を開けて妹の姿を見ると、腕に抱えられたハルも一緒に掛け声を上げている。ズキューンと胸を射抜かれた。可愛いが可愛いを連れてやってきた。この可愛さの前に語彙力はなくなったと言っても過言ではない。
お兄ちゃん、渾身の驚きを披露するから楽しみにしててな…。
寝起きドッキリのリアクションを必死に考えていると、冬瑚はベッドに辿り着き、ためらうことなく布団に潜り込んできた。
………。
横向きで寝ていた俺の正面に移動し、コアラのようにしがみついてそのまま数分後…。
「すー、すー」
眠りについた。
しっかりと両手は俺の服を掴んだまま、すやすやと眠っている。ここまで一緒に来たハルは頭上で丸くなってこちらも眠っている。
え、え?
一緒に寝たかったから潜り込んできたのか?甘えんぼさんだなー。
こども特有の高い体温にあてられ、段々と眠気が襲ってきた。
「あらまー。気持ちよさそうに寝ちゃってるわ」
「写真撮って母さんに送ってやろ」
「秋くんナイスアイディアだわ。私は彩ちゃんに送る」
木にしがみつくように兄にしがみつきながら幸せそうに眠っている末っ子と、若干寝苦しそうだが全然起きる気配のない兄と、その頭上で丸くなって眠る猫のスリーショットを撮りまくる香苗と秋人だった。
昼前にようやくベッドから抜け出した。
「ふぁ~おはよ」
「はよー」
「もう昼だよ~夏くん、冬ちゃん、おそよだね」
「「おそよー」」
しがみついたまま離れない冬瑚を抱っこしたままリビングに入ると、上機嫌な香苗ちゃんと秋人に迎えられた。何かいいことでもあったのかな?
「顔洗っておいで~」
「「はぁい」」
寝惚け眼の冬瑚と洗面所に移動する道すがら、冬瑚の寝癖を手櫛で直す。
朝ごはんを食べる時間はとっくに過ぎて、もうすぐお昼の時間だ。だいぶ寝てたんだなー。
洗面台の前に立つと、冬瑚以上に芸術的な寝癖の俺が鏡に映った。この中途半端な髪の長さは寝癖が付きやすくて面倒だ。いっそのことバッサリ切るか?でも前髪は長い方が落ち着くからなぁ。
家出は伊達メガネをかける必要はないので部屋に置いてきている。眼鏡が無いと長い前髪が眼球に突き刺さって痛いので、前髪を上げてヘアピンで留めている。
顔を洗って歯を磨いていると、なんだかリビングが騒がしい。
「香苗ちゃんがまた窓ガラスを割ったのかな?」
「窓ガラスが割れた音はしなかったけどなー。でも香苗ちゃんだし」
この前ダンスを踊るとかいきなり言い出して何故か窓ガラスを割って秋人に怒られてた。怪我が無くてよかったけど。
リビングに戻ろうとすると、冬瑚がそれを阻止して両手を伸ばしてきた。
「夏兄、ん!」
「今日は甘えんぼさんモードだな」
これを断らずに受け入れるところがシスコンと呼ばれる所以だろうか。
再び冬瑚コアラを抱っこしてリビングに戻ると、人数がいつの間にやら増えていた。
「「「え、誰?」」」
俺と冬瑚、そしてサングラスをかけた男が同時にお互いの顔を見て疑問をぶつけた。
~執筆中BGM紹介~
東京リベンジャーズより「ここで息をして」歌手・作詞:eill様 作曲:eill様 / Ryo'LEFTY'Miyata様




