自分で決めたこと
「夏兄コレ見て!この前の図工の時間で描いた絵なんだけどね、」
「どれどれ~このお兄様に見せてごらん?」
「おにいさまー!」
いつも通り学校に行って、放課後にドリボで『ツキクラ』の映画で使う曲の手直しなどを行い、そして家に帰る。リビングに入ってすぐに冬瑚が学校で起きたこと、図工の時間に描いたという絵を楽しそうに話しながら見せてくれる。
台所で夕食の準備中の秋人は、俺が帰ってくる前にすでに冬瑚から話を聞いていたようで、たまに会話の中に入ってくる。
いつも通り。
「、ぇ、、、てる?夏兄ってば!」
「へ?あぁ、聞いてる聞いてる。学校の中にカラスが入って来ちゃったんだろ?」
「そうなの!それでね、」
マリヤの病気のこと、寿命のことはこの家では俺と香苗ちゃんだけが知る事実。秋人と冬瑚には言っていない。
あのとき病室で告げられたお願いを思い出す。
『やり残したことがあってね。秋人と冬瑚と一緒に最後に楽しい思い出を作りたいの。母親として何もできなかった、してあげなかった分、最後くらいはいい思い出を作りたいっていう私の我が儘、聞いてくれる?』
母と過ごした時間が兄弟の中で一番短い秋人と、母に強い憧れを持つ冬瑚に”母親との楽しい思い出”を作りたい、作ってあげたい。俺はピアノを通してマリヤからたくさんの愛情をもらっていたとわかったから、もう十分だ。
『あの子たちには内緒にしてほしいの。病気の母親との最後に思い出作りじゃなくて、母親との楽しい思い出にしたい』
『わかった。秋人と冬瑚には言わない。母さんのやりたいことを全力でサポートする。けど、香苗ちゃんには言っておく』
『うん。ありがとう。大好きよ、智夏』
あんなに都合の良い”大好き”を言われてもなー。悪い気はしないけども。
冬瑚と一緒に夕食で使うお皿を食器棚から出しながら、可愛い弟妹に向き合う。
「秋人、冬瑚。週末に母さんと遊びに行こう」
「え!?行く行くー!!」
「急になんだよ?まぁ、行くけどさ」
「よし、じゃあ決まりな」
秋人も冬瑚も、いつか真実を知る。そのとききっと俺は責められるけど、多分後悔はしないんだろうな。
「秋人も冬瑚も大好きだぞ」
「冬瑚も夏兄と秋兄のこと大好きー!」
「いきなりなにさ」
「えー?秋兄は冬瑚たちのこと嫌い?」
「嫌いとは言ってないだろ」
「じゃあ好き?」
「…」
「あー!秋人、赤くなってるー」
「なってるー」
「あぁもう、うるさい!さっさとお皿出しちゃってよ!」
「「はーい」」
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「『ヒストグラマー』が本選に出場決定したことに伴い、メンバーの名前を考えなくてはなりません。題して、『メンバーのお名前考えちゃおう作戦~!』いぇい!」
本選出場が決まったときからいやにハイテンションな水野さんに少し引き気味なヒストグラマーの面々。
今日は平日なので、大学生組はパソコンからリモートで参加している。今日のために借りた会議室にはハイテンションな水野さんと、若干というかかなり引き気味の俺と虎子の高校生組がいる。
「名前~?本名じゃダメなの?」
「為澤さんが本名で活動してもいいならそれでOK。でも、御子柴君や一条さんは素性を隠しながらだから、本名をそのまま出すわけにはいかないだろう?」
「『はっ、確かに!』」
「2人とも気づいてなかったんだ……」
あれやこれやとやることが多すぎて、素性を隠してヒストグラマーのキーボードをやっていることがすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
いまやってること、やらなければいけないことは…
まずは学生の本分
・勉強
・進学先の決定
・学校祭の準備(そろそろ始まりそう)
サウンドクリエイターとして
・劇場版『ツキクラ』の曲の手直し、精査
・『四界戦争』の曲作り
御子柴家での
・家族の思い出作り
ヒストグラマーとして
・ABC本選に向けての練習
・名前決め ←NEW
……まぁ、なんとかなるって。うん。全部自分で決めたことだから、文句はない。けど、いまやってるサウンドクリエイターの仕事が終わったら、一旦仕事量をセーブしないとな。なんてったって受験生だもの。うぎゃー!現実が辛い!一生高校生でいたいけど、彩歌さんに見合う大人の男にも早くなりたい!
~執筆中BGM紹介~
「Till I」歌手:優里様 作詞:cAnON.様 作曲・編曲:澤野弘之様
キルラキルの劇中歌「Till I Die」のリアレンジ曲です。




