表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

305/467

悔しさをバネに

2022年の2月22日はスーパー猫の日だそうで。今回は猫目線のお話………ではなく、天馬先輩目線のお話ですにゃん。



ABCに出す予選の動画でサブコーラスをするのは智夏に決まって、それに沿った練習をみっちりぎっちぎちにした。


今日の練習が終わり、俺はすみれと虎子を誘って、近くのファミレスに入った。


智夏のピアノの演奏技術は言わずもがなプロ級。そんでもって歌唱力もピカイチと来た。


「カミサマってほんと、ふこーへーだよなぁ」


注文した熱々のハンバーグをはふはふしながら頬張る。肉汁がじわっと口の中に広がり、熱さとうま味を同時に味わう。自家製のタレがどうのこうのとメニュー表に書いてあった気がするが、タレの味はよくわからなかった。


「天馬パイセン、それって何に対する不満~?」

「カミサマ」


カルボナーラを器用にフォークでくるくると巻き取りながら、虎子がいつも通りの軽い口調で重めの返しをしてきた。それをあえてぺらっぺらな答えで返す。


ホワイトソースが垂れないように気を付けながらフォークで巻いたカルボナーラをはむはむと食べる虎子は「ふぅん?」と何とも言えない返事を返すと、またくるくるとフォークを動かし始めた。


「”天才”なんてこの世にいないんだって言う人もいるけど、虎子はそんな風に思わない」


いつも能天気な虎子の本音を初めて聞くような気がして、一瞬ナイフを動かす手を止めた。が、そうすると虎子は話すのをやめてしまいそうな気がした。だからナイフをまた動かして肉を口の中に放りこむ。


「陽菜乃パイセンも智夏パイセンもいわゆる”天才”ってやつだ。努力を惜しまず、自惚(うぬぼ)れず、常に飢えてるみたいな”すんごい天才”」


自分の才能に思い上がることなく、ひたすらに高みを目指す貪欲な奴ら。まるで太陽みたいに輝いていて、近づくと焼ききれそうになるんだ。


巨大パフェを1人でつついていたすみれが「めちゃわかる」と同意して頷いている。


「すんごい天才が間近に2人もいるとさ、「あたしも天才かも!」ってありもしない錯覚を見ちゃうのよね。そんですぐに現実に打ちのめされる」


努力をすればするほどにわかってしまう。あいつらと俺は違うんだと。


凡人がひたすら努力して努力して。でも、天才もおんなじくらい努力してたら、俺たちはどうしたらいい?


そうして打ちひしがれるたびに思う。


「悔しいね。すっごくすーーーーーっごく!悔しくてたまらない!すんごい天才がなんぼのもんじゃい!って悔しさをバネにまた立ち上がるんだよね」


パフェのてっぺんのアイスにスプーンをぶっ差して、一口でパクリと食べた。


悔しいって思えたことにホッとするんだ。あいつらを叶わない存在としてじゃなくて、ライバルとして見てる自分がいるんだって。あぁ、俺はまだ諦めていないんだと、諦めるにはまだ早いんだと自分を奮い立たせる。


「虎子たちは音楽が大好きでしょうがない音楽バカだから、諦めるなんてできないんだよ」


好物を自分から嫌いになることなんてできねぇ。腹が減ったら飯を食うように、俺たちは音を奏でる。


()()()()を見ちまったからなー。俺たちはもう止まれねぇんだ」


学校祭で、そして俺たちの卒業ライブで見た、ステージの上からの景色。思い返すたびに腹の底から熱が沸き上がってくる。もう一度、いや何度だってあの景色を見たいと。俺たちの音で、観客を笑顔でいっぱいにしたいと思わずにはいられないんだ。


「それにあたし達、ものすごいスピードで成長してるって気づいてる?」

「そうか?」


言われてみれば確かに、一人で練習していたときより段違いにうまくなっているような気が…。


「虎子はパイセンたちが卒業してからもずっと智夏パイセンと演奏してきたからわかる。めちゃんこ成長してる~」

「ぬぁー!同じ学校っていうアドバンテージはでかいな!」

「だからあんなにドラムの腕が上達してたのね」

「智夏パイセンは違ったら違うってストレートにわかりやすく言ってくれるから、修正も練習もしやすいんだ~」


陽菜乃の指摘の仕方は感情型で、何言ってんのかわけわかんないときがあるが、智夏の指摘の仕方は具体的にどう違ったとか言ってくれるし、できたら褒めてくれるし、先輩として尊敬してくれているし、可愛いやつだし………え、とんでもなくいい奴やん。人類の宝か。






―――――――――――――――――――






ファミレスの窓の外、暗くなった街並みの中、電柱の影に隠れるようにして3人はファミレスの中の様子を窺っていた。


「『今度智夏と2人で練習してぇなー』『天馬ずるい!あたしも混ぜてよ!』『すみれパイセンそのパフェちょっとちょーだい?』」


ザキさんの読唇術で読み取っていた会話。正確かどうかはわからないが、まぁ概ね正解だと思う。


「帰ろうと思ったら陽菜乃先輩に突然拉致られたんで何事かと思いましたが、杞憂でしたね」


多分陽菜乃先輩はファミレスに行った3人が「バンドをやめたい」って話し出すんじゃないかと思って心配で、こんな犯罪じみた行為を隠れてコソコソやっているんだろう。


さぁもう帰りましょうと、陽菜乃先輩とザキさんの背中を押す。


「ちょっと待ってよ後輩君!あいつら後輩君のことばっかり褒めて!私も褒められた―いー!」

「はいはい、すごいすごい」

「気持ちが1ピコも籠ってない!」

「1ピコってミリの下の単位でしたっけ?」

「1ミリ、1マイクロ、1ナノ、そして1ピコですね」

「ザキさん物知り~」

「コラ!信じゃなくて私を褒めなさい後輩君!」


バンドメンバーに恵まれたことを感謝しながら、家路につくのだった。



~執筆中BGM紹介~

緋弾のアリアAAより「Bull's Eye」歌手・作詞:ナノ様 作曲:WEST GROUND様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ