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その他諸々



その場しのぎで捻りだした「ダブルボーカル」という言葉だったが、想像以上に盛り上がる。


「メインボーカルの一条以外で誰がサブボーカルの座を勝ち取るかって話だが。ここはやっぱりベース担当の俺、」

「はいはいはいはーい!!!高比良すみれ立候補します!」

「虎子もやりたーい!」


2人……いや3人がサブボーカルの座に立候補した。さっき水野さんにダブルボーカルの話をしたところ…


『ちょっぱやで行く!』


という少々ジェネレーションギャップを感じるお返事を頂いたが、それでいいのか社会人。まだ正式に契約すらしてない俺たちにそこまで時間と労力を割いてしまっていいのですか。


しかも水野さんの到着を待たずしてサブボーカルの座を巡って火花が散っている。


すみれ先輩と虎子の自己アピール合戦の間に挟まれながらも、天馬先輩も負けじと頑張っている。


それに巻き込まれないように遠巻きに観戦していると、陽菜乃先輩が後ろからぴょこっと覗いてきた。


「私以外で立候補していないのは、あとは後輩君だけだけど…。もしかして音痴(おんち)というわけでもないよね?」

「思い出してみてください。俺はマスクをしながら演奏するんですよ?」


陽菜乃先輩の特注の仮面舞踏会みたいなものと違って、ドラッグストアで販売しているような市販の黒いマスク。


ボーカルには確実に向いていない装いだ。


「あ~。マスクで歌うのは辛いわね。そうだ、口のところだけ穴をあけたら?」

「それだとマスクで顔を隠している意味ないですよね」

「言われてみれば確かに」


はっ、とマスクに穴をあけるという行為が本来の顔を隠すという目的から逸脱していることに気付いた陽菜乃先輩。この人、頭は良いのにな…。


「遅れてごめん!みんなお待ちかねの水野が来たよ!!」

「男女ボーカルの方がいいって!」

「陽菜乃と一番息が合うのはあたしをおいて他にいない」

「虎子も歌いたーい」

「ドンマイです、水野さん」


出鼻を挫かれた水野さんを慰めつつ、室内に案内する。今回集まったのは防音ばっちりのレンタルスタジオだ。隣のスタジオではデスメタル風な装いの4人組が真面目に話し合っていたのを目撃してしまった。見てはいけないものを見てしまった気分。


「一条さんのメインボーカルの他にボーカルを増やすというアイディアには賛成だけど、予選の曲もダブルボーカルにするつもりかい?」


水野さんの言いたいこともわかる。なんせ予選の曲を練習できるのは今日で最後、明日は貸しスペースで予選で送る動画の撮影だ。つまり本番の前日でボーカルを増やすという、見方によってはかなりの暴挙に出る。


ハマれば余裕で予選突破、ガタつけば予選敗退。


一か八かの大勝負?いやいや、そんな賭けに出るような行為をするつもりは俺たちはない。


「水野さん、大丈夫です。『ヒストグラマー』なら絶対大丈夫です」


ずっと静かに見守っていたザキさんが口を開いた。これには火花を散らしていた3人も驚いて振り返る。ヒストグラマーとして集まっているときは遠慮をしてか、なかなかザキさんは話さない。そのザキさんが「大丈夫」と言った。それは当事者の俺たちが言うより何倍も信憑性があった。


「そっか。山崎君が言うなら大丈夫だね。それじゃあサブボーカルは一体誰に…」

「はい!」

「はいはい!」

「はいはいはい!」


話し合いは平行線。ならば実力で勝ち取るしかあるまい。


「これより、第1回!サブボーカルオー―――――――ディションを開催します!」


陽菜乃先輩の宣誓にそれぞれが口笛やら歓声やらをあげる。水野さんはもう心配することはやめて、完全に楽しむ気だ。こういう切り替えの早さが大人になるってことなのか…。


「審査員はメインボーカルの一条陽菜乃とその他諸々です」

「その他諸々て」


俺とザキさんと水野さんの3人はまとめてその他諸々に分類されてしまった。燃えるごみと粗大ごみとプラスチックごみを一緒くたにするようなものですよ!………ごみで例えるのは良くないな、うん。


「背番号4番、西原天馬!心を込めて歌います!」


エントリーナンバーじゃないんだ。


こうして自由すぎる即席オーディションが始まったのだった。


~執筆中BGM紹介~

進撃の巨人 The Final Season Part2より「悪魔の子」歌手・作詞・作曲:ヒグチアイ様

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