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番外編 順位

次回で番外編は最終回です。



開会式でグラウンドに入場する姿を見てうっかり泣きそうになっていたら、田中たちには笑われたが、立派になっちゃて…って感動しちゃったんだよ。


校長先生のお話とか生徒代表の開会宣言とか色々聞いて、最初の種目がアナウンスされた。


「最初の種目は~6年生による~『豊かに実れ!6年生田んぼリレー』です~」

麻黄(あさぎ)ー!!気合入れろー!!!」

「『豊かに実れ!6年生田んぼリレー』?」


競技名から内容が想像できない…。


スピーカーから流れてくるアナウンスの音量に負けないくらいの声量で、田中が弟の麻黄君を応援する。その横では深凪ちゃんがビデオカメラを用意していた。


「深凪ちゃんは撮影係?」

「はい。…うわわ、旺義大人しくしてて。いまからお兄ちゃんが走るのです」


右手でカメラを構えて、反対の左手では3歳の旺義君を抱えているため大変そうだった。冬瑚の出番はまだだし、ここはひとつ”お兄ちゃん”の腕の見せ所ですな。


「旺義君、こっちおいで~」

「や!」


瞬殺。だが予想通り。ここで魔法の言葉を発動する!


「あーそーぼー」

「いーいーよー!」


ぴょん、と深凪ちゃんの膝から降りて、笑顔で俺のもとにやって来た。


「ふっ、見たか田中。溢れんばかりの俺のお兄ちゃん感が旺義君にも伝わったみたいだな。罪なお兄ちゃんだぜ」

「しばちゃん、旺義から目を離すとロケットのように走りだすから気を付けてな」

「ロケットってそんな大げさ……な!?」


パーッと走りだしそうになった旺義君の体をすんでのところで持ち上げる。まじで一瞬の隙にロケットスタートを決め込まれるところだった…。


「わ~っ!ヒコーキだぁ!」

「ヒコーキ?あぁ、飛行機だね。それ!」

「ビューン!!」


腕だけで高い高いを前後左右にやっていたら、競技が終わる頃には腕が上がらなくなっていった。


「さすが麻黄だな。ぶっちぎりの一位だ。長靴をはいてもなお早い足、ボールを盆から落とさずに走るバランス感覚、どれも完璧だった」

「そりゃ良かったな」

「旺義の相手、ありがとな。助かった」

「ちゃんと写真に撮っといたわよ~」


……撮ったのは麻黄君?それとも俺の醜態?どっちか聞きたいけど怖くて聞けない。


「続いて~3年生による『ズボンが大きくなっちゃった!2人で一つ!私たち元気な3年生!』です」


相変わらず競技名がユニークすぎて競技内容がよくわからないが、要するに大きなズボンに2人が入ってクラスごとにリレーをするらしい。


「そういえば冬瑚は誰とペアなんだ?りょうちゃん?」

「い~え~?りょうからは男女ペアって聞いてるけど~」

「だっ、」


男女ペア、だと…!?


この瞬間、雷に打たれたかのような衝撃に襲われた。冬瑚が、男子と、一つのズボンを履いて走る、だと!?そんなの、そんなの―――


「お兄ちゃん許しませんからね!」

「別にお兄ちゃんの許可はいらねぇだろ」

「ぐはぁっ!」


秋人が冬瑚から預かったカメラを構えながら、こちらに一瞥(いちべつ)もくれず正論パンチをかましてきた。心に100のダメージがぁ!


「ぁああああ秋人君、お兄さんにそんな言い方…」

「僕の名前はそんなに”あ”が多くない。それに、いつまでも妹離れしない兄貴は嫌われるぞ」

「「なんだって!?」」

「なんで田中さんまで反応してんすか」


なんでって、そりゃこいつもシスコンだから。りょうちゃんパパが「ははっ、お兄ちゃんは大変だな~」とのほほんと言っているが、他人事じゃないからな。あなたの娘さんも男の子とペアを組むんですからね。


「よーい、スタート!」


パァン、という破裂音とともに3年生ペアたちが走り出した。真っ先に先頭に躍り出たのは…


「よっしゃ!津麦!そのまま1位独占だー!!」


津麦ちゃんペアだ。一番初めに会ったときも木の上に登ってたりしてたから運動神経良いんだろうな~。走るのが早すぎてペアの男の子が可哀そうなことになってる…。


「うはは!津麦のやつ、ペアの男子引きずってやんの!」

「田中、指さして笑うのは可哀そうだからやめなさい」


次にりょうちゃんペアに1位のままバトン代わりの大きいズボンが脱いで渡された。なるほど、ズボンを脱ぎ着している時間をどれだけ短縮するかがこの競技のミソだな。もちろん体操服の上から履いてるからァ!……どこに対して怒ってんだろ、俺。


「なっ…。りょうが鼻タレ小僧と仲良く走ってるなんて…」

「「鼻タレ小僧」て」

「あの年頃の男子はほとんどが鼻水垂れ流しだろ」

「どんな偏見だよ」


りょうちゃんペアが次のペアにバトンを渡した。冬瑚の出番は一番最後、アンカーだ。


征義(せいぎ)ー!!走れー!!」


他のクラスにいる津麦ちゃんの双子の弟の征義君は大人しそうな女の子と仲良く大きなズボンの中に入って息を合わせて走っている。本来はこういう競技だよな。うんうん。…ん!?


ペアの子が転びかけて、それを察知した征義君が腕を伸ばして転ぶのを回避した。こ、これはまさしく…!


「転びかけたペアの女の子を咄嗟に支える王子様が現れたー!!」

「「「おおおぉぉぉおお!!!」」」

「「「キャ――――!!!」」」


お父様方の野太い歓声とお母様方の黄色い悲鳴が同時におきた。


「征義、お前いつの間にか大きくなりやがって……ぐすっ」


賞賛を集める征義君に目頭を熱くする田中。わかるぜ、その気持ち。場の興奮も冷めやらぬうちに、とうとうアンカーの出番がやってきた。


現在、冬瑚のクラスは2位。途中、ズボンの着脱に手間取ってしまい、順位を落としてしまったのだ。


冬瑚がズボンを受け取り、ペアの男の子と大きなズボンを履く。……大きいズボンだけど、距離近くないですか?だってズボンの片足ずつに人が入ってるんだからそりゃ近いよな。………うん、我慢しろ、俺。


「冬瑚ー!!頑張れー!!!」


1位の他クラスに追いつこうと必死に走る冬瑚ペア。その差はだんだんと縮まってきている。


「冬瑚ちゃ~ん!頑張って~!!」

「キャ――!冬瑚様ー!!」

「素敵ー!!!」


おや?一部からライブ会場の掛け声みたいな声が聞こえてきたぞ?って、そんなことより応援!


「徐々に1位との差が縮まってきているー!おっと!!ここで1位ペアが転倒だ!」


こんなドラマみたいな展開、ほんとにあるんだ!1位のペアが転んだ横を冬瑚ペアが通り過ぎ……ようとしたのだが、足を止めて転んだペアの元へ歩み寄った。その間にも他のクラスが次々とゴールしていく。


冬瑚が転んだ2人に手を差し伸べる。その姿はまるで女神のようだったと後に智夏は語る。


「なんて優しい世界だ…」

「順位より大切なものを教えられたよ…」

「心が、浄化される…」


転んだペアを支えながら一緒にゴールした冬瑚たちの姿を見た保護者達が、膝から崩れ落ちた。もちろん冬瑚の兄2人も例外ではない。


「「とぉぉぉぉこぉおおおおおおお!!!」」


~執筆中BGM紹介~

「I will Always Love you」歌手・作詞・作曲:ドリーパートン様

エンダァァァアアアイヤァアアアアアの曲です。名曲。

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