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番外編 晴天

時間軸はL・K・T編とABC編の間です。



本日は晴天なり。


「夏兄!秋兄!はーやーくー!」


よく響く声が俺たちを呼んだ。


「そんなに急がなくても運動会は逃げないぞ」


今日は冬瑚(とうこ)の通う梅野小学校の運動会の日だ。父兄が見に気安いように休日に行われたのだが、我らが保護者の香苗ちゃんは午前中にどうしても外せない会議が入ってしまい、午後から参戦予定。そして俺たち兄弟の生みの母であるマリヤは風邪を引いてしまったようで、泣く泣く不参加になった。運動会があることを冬瑚から聞いたときから楽しみにしていただけに、マリヤの落ち込みようは相当だった。


「でもでも!早く行きたくて足が勝手に歩いちゃうの!」


冬瑚が靴を履いて玄関で足踏みをしている。運動会当日は体操服で登校ということで、動きやすさ抜群だ。ポニーテールの金髪が足踏みをするたびにふわふわと左右に揺れている。


「お弁当は持ったし、水筒は入れた。あとは……あ、紙皿と紙コップに割り箸も!」


秋人がクーラーボックスにあれやこれや詰め込んでいく。昨日の晩から今日のお昼のお弁当のために下準備をしておき、今朝は早起きをして彩り豊かで可愛いおかずたちを腕によりをかけて作っていた。


「はーやーくー!」

「「はーい」」


段々と早くなっていた駆け足の音が止まり、ひときわ大きな声が呼んだ。妹の声に秋人と顔を見合わせて笑い、返事をしつつ玄関に向かった。


「「「行ってきまーす!!!」」」







「冬瑚ー!!りょうー!!おっはよーー!!」

「おはよう!津麦(つむぎ)!りょうちゃん!」

「2人とも朝から元気だね。おはよ」



相変わらず仲が良いのは変わらないようで、5年ぶりの再会のようにハグを交わして挨拶をする冬瑚と津麦ちゃん、そして4月に転校してきたりょうちゃんの3人。1日ぶりの再会の邪魔をするのは忍びないが、しょうがない。


「冬瑚、津麦ちゃん、りょうちゃん、そろそろ行かないと遅刻だよ?」

「「「ヤバい!!!」」」


すったかた~と走り去っていった3人を見送り、残った保護者組は挨拶を交わす。


「おはよう、田中、深凪(みなぎ)ちゃん、旺義(おうぎ)君」

「はよっす」


俺に続いて秋人がゆるっと挨拶をする。最初は秋人がこんな挨拶をしたら注意でもしたのだが、直らないというか直す気が無いようなので諦めた。


「はよっっす!しばちゃん、秋人」

「ぉ、おはようございます。しばさん、秋人君」

「…」


いま3歳の田中家の末っ子、旺義君は深凪ちゃんの腕に抱かれながら人見知りを発動中だ。結構、顔を合わせているはずだが、毎回この反応だ。


田中家のご両親もお仕事があるらしく、いつ頃来れるのかわからないとのこと。津麦ちゃんたちは寂しそうにしているのかと思いきや、毎年のことらしいので特になんとも思っていないらしい。ご両親の代わりに素敵なお兄さんとお姉さんが応援に来てくれているからかな。


「しばちゃん、その腹立つ顔やめろ」

「良いお兄さんたちだなと思ってな」


田中家と御子柴家は家族ぐるみの仲なので、いまさら挨拶は不要なのだが、ほぼ初めましてなのがりょうちゃんのご両親だ。


山江(やまえ)りょうの母です~」

「父です。りょうといつも仲良くしてくださっているようで、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。冬瑚がいつもりょうちゃんに甘えているようで」

「うちの津麦の方こそ世話になっているようで」


ぺこぺこぺこと男3人で頭を下げる。りょうちゃんのお母さんはそんな俺たちの写真を撮っている。……なぜ?


「面白い画が撮れたわ~」

「こら、母さん。僕はともかく彼らのことを無断で撮っちゃダメじゃないか」

「そうだった。写真撮ってもよかったかしら?」

「「ど、どうぞ…」」


これはまた面白いタイプのお母様であらせられる…。


「場所取りはしてあるから行こうぜ」

「さんきゅ」

「ありがとうね~。ほんとに若いのにしっかりしてるわ~」

「何年も運動会やってますからね…」


田中が遠くを見ながら言った。何年も、というのはもちろん小学校を留年しているという意味ではなくて、弟妹が多いので自身が小学校を卒業してもずっと運動会に参戦し続けているというわけだ。


「田中家からは何人が運動会に出るんだっけ?」

「次男、小6の麻黄(あさぎ)、次女と3男、小3の津麦と征義(せいぎ)の3人」


征義君は津麦ちゃんの双子の弟くんで、しっかり者のとってもいい子だ。


「麻黄君とは初めて会うから楽しみだな~」


噂でしか聞いたことが無い。その噂というのも、この壁を壊したのは麻黄だ~とか、この前掃除してたら棚の奥から大量のテスト(どれも20点未満)が出てきて、それが麻黄の仕業だった~とか。やんちゃ坊主なのはわかった。


「野生のサルみてぇなヤツだから気を付けてくれ」

「弟に向かって野生のサルって…」

「ほら、あれ見てみろよ」


グラウンドの中央で整列している小学生たちの中で、変な踊りをしている子が1人。


「もしかしてあの面白い子?」

「そう。それがうちのサル」

「楽しい家族ね~」


りょうちゃんママがカメラをぱしゃり。


「あの…」


田中が写真を撮ったことに対して怒る、のかと思いきや。


「こんなことで写真をいちいち撮ってたらすぐにメモリがいっぱいになっちまいますよ」


麻黄君、恐るべし。


「大丈夫、替えのメモリー持って来てるから!」

「そっすか」

「明日、写真のデータ送るわね~」

「あざす」


田中もしっかりお兄ちゃんだよなぁ。


「冬瑚ちゃんの写真もたっぷり撮って送るからね」

「ありがとうございます!」

「シスコンしばちゃんめ」

「褒め言葉だ」


~執筆中BGM紹介~

「剣の舞」作曲:アラム・ハチャトゥリアン様

運動会でよく聞くトゥラタタットゥラタタットゥラタタタタタタッ~の曲ですね(わからん)

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