ずばり
智夏たちが笑いあったり小突いたりしているとき、智夏と井村の彼女たちは親交を深めていた。
「彩歌たん彩歌たん。ずばり、ダブルデートの魅力ってなんだと思う?」
井村の彼女で大のアニメファンの久保蒼葉がさっきお店で買ったミルクティーを片手にさらに聞いてきた。
「こんな風に女子と男子に分かれちゃうのに、ダブルデートの需要が無くならない理由はなんでしょーか?」
言われてみればたしかに、愛読している少女漫画や小説でもダブルデートの場面はたまに見かけるっス。普通のデートとダブルデートの違いといったら、まずは人数。2人から4人に増えるからこそできること……ピコーン!思いついた!
「2ショットの写真を撮ってもらえるところじゃないっスか?」
普通のデートだと自撮りが主で、それもそれで良いものだが、やはり第3者に撮ってもらう写真もまた良いものだ。
「彩歌たん鋭い!それも正解だよ」
「他にもあるっスか?うーん…。大人数でわいわいすることができて楽しいっス!」
「可愛いすぎかよ!けどもう一声!」
ダブルデートの魅力、みりょく…
カフェオレを飲みながら考えていると、道の反対側でストリートライブでピアノの弾き語りをしている青年の姿が目に入った。荒削りの音に精一杯の思いを込めた歌声、決して上手いとは言えないが、それでも足を止めて見物している観客がいる。音楽は実力だけがすべてじゃないとわかる。
智夏クンと初めて出会ったのは『ツキクラ』の作中で使うレクイエムのレコーディングのとき。あのとき私、智夏クンのことを誰かスタッフの弟さんで、見学に来たのだと思い込んでて……。今思い出しても恥ずかしいっス。
それから何回も仕事で一緒になって。仕事に真摯に向き合う彼の姿が、最初に好きなった姿なわけだけど。少し後ろから付いてくる智夏クンたちを盗み見る。お友達の井村クンと話したりじゃれたり、高校生の年相応の姿だ。キリッとした仕事中の智夏クンもカッコいいけど、こういう年相応の姿もまた魅力的で、好きだなぁ…。
…あ!つまりこういうことっスね!
「久保ちゃん、わかったっス!ずばり、パートナーの新しい一面を見れること!」
「花まる大正解!ぴんぽんぴんぽーん!」
「やった~!」
バンザイしながら喜んでいると、横を通り抜けようとしていた男性とぶつかりそうになった。
ぶつかる…!
思わず、迫りくるであろう衝撃からぎゅうっと目をつぶると、ふわっと安心する香りに包まれた。
「ちゃんと前を見て歩かないと危ないですよ、彩歌さん」
上を見ると、私の体ごと自分の方に引き寄せて、ぶつからないようにしてくれた智夏クンの顔が。これを間近でみた久保ちゃんたちカップルがキャッキャ言っているのが聞こえた。
「え、ちょ、やばっ。かっこいい!なにあれ!永新もあれやってよ!」
「無茶言うな。俺たち大して身長差ないだろ」
「身長伸ばしていますぐに!」
「いいぞ、青い猫型ロボットをいますぐ呼んできてくれたらな」
2人の会話が聞こえて顔が紅潮するのが自分でもわかった。智夏クンはにっこりと笑うと、私たちが買った食べ物の入った袋を何も言わずに持ってくれた。
智夏クンが袋を持ってくれたから自由になった私の左手を、智夏クンの右手が掬い上げて握った。
「デートの続き、しましょうか」
「「はい!」」
あれ?いま返事が私以外にもう一人いたような…?しかも女の子の声じゃなくて低めの男の子の声だ。思い当たるのは一人だけ。
「井村を俺の彼氏にした覚えはないぞ」
「え~。い・け・ず!一つ屋根の下で夜を明かした仲じゃないの!」
「修学旅行で同じ部屋だっただけだろ。いかがわしい言い方をするな」
うんうん。智夏クンの魅力は老若にゃ、…噛んじゃった。老若男女問わず魅了するからね!
「彩歌たん。なんでドヤ顔してるの?」
「私の彼氏がカッコよくて!」
「うんうん!カッコいい!でも、うちの永新君にもカッコいいところがあるんだよ?自慢してもいい?」
「いいよいいよ!」
私と智夏クン、そして久保ちゃんと井村クンで手を繋ぎながら、楽しく話していた。
この時までは。
~執筆中BGM紹介~
荒ぶる季節の乙女どもよ。より「乙女どもよ。」歌手:CHiCO with HoneyWorks様 作詞・作曲:HoneyWorks様




