逆の効果
ABC本選の曲もできてきた頃のある日の学校でのことである。井村が見るからに機嫌が悪そうだった。
「井村はどうしてあんな不機嫌顔なわけ?」
井村のことは鈴木が一番知ってるだろうと思って、昼休みに聞いてみた。
「彼女と喧嘩中だってよー」
「あ~。それでピリピリしてるわけか。ちなみに喧嘩の理由は?」
「そこまでは知らね。本人に聞いたらどうだ?ぜってぇぶちギレられっけど」
「わかった。ちょっと聞いてくる!」
「それは蛮勇ってやつ…」
蛮勇だろうが勇者だろうが気になるものはしょうがない。貧乏ゆすりをして誰が見ても苛立っている井村に声をかける。
「井村~!なんで振られたんだ?」
「あ”?振られてねぇよ…」
「ごめんなさい」
怖い怖い怖い。井村の背中に阿修羅が見えたよ。すごすごと鈴木のもとへ帰る。
「御子柴ってときどき命知らずになるよな。なんで「振られた?」なんて聞いたんだよ」
「軽い冗談でも交えながら和やかに話そうと思って」
「逆の効果しか出てないな、それ」
「対話って難しい…」
「しょうがないな~。ここはひとつ、この鈴木様が手本ってやつを見せてやりますか!」
「おぉ…!」
阿修羅に向かって鈴木が声をかける。
「井村よ。振られる彼女がいるだけ羨ましいぜコンチクショー」
「だから振られてねぇって言ってんだろうがーっ!!!」
見にくい嫉妬が丸出しの言葉に井村がとうとう切れた。そのまま立ち上がった井村は鈴木のネクタイをギリギリと掴み上げる。
「このまま締め上げて窓から放り投げてやろうか…」
「ほんとにごめんと思ってる」
さすがに鈴木が可哀そう……にはなってないけど、とりあえず止めに入る。
「ごめんな、井村。でも、俺は前に井村に助けてもらったから、今度は俺が助けになりたいんだよ」
井村を含めしんぶん部の全員に、この前のスランプのときにはかなり世話になった。だから、今度は俺が井村の助けになりたい。
「だって、友達だろ…?」
「御子柴…。お前、そんなセリフを真顔で吐けるなんて、鬼メンタルすぎだろ…」
「そんなこと言えるなら実は元気だろ、井村」
鈴木と2人で愕然と俺を見るな。そして俺の心配を返せ。
「いや、彼女と喧嘩してんのはホントなんだよ」
「なんで喧嘩したんだよ?お前の本性でもバレたか?ちゃんと猫被っとけよな」
「鈴木、お前はいっぺん黙っとけ頼むから」
鈴木は頭は良いはずなのになー。なぜかバカなんだよな。そこがまた魅力のひとつ……でもないか。
「そろそろ彼女と付き合って3周年の記念日なんだよ」
井村が鈴木をヘッドロックしながら神妙な顔で語りだした。
「へぇ、そんなに長いんだ。好きなんだね、彼女さんのこと」
「そうなんだよ。それでちょっと高いブランドのヒールをプレゼントしたくて、最近バイトしてんだ」
「そういえば最近忙しそうだったような…」
顔も疲れてたし、たまに授業中に寝てたし。最近先生によく注意されている井村を見かけると思ったら、どうやら放課後から夜中までバイトをしているらしい。
「あ、バイトの許可取ってないから、学校にチクんなよ」
「わかってる」
俺は入学前からサウンドクリエイターとして活動することが決まっていたので学校に許可は取ってあるが、大抵の生徒は許可を取らない、いわゆる無断バイトだ。
学校にバレたら停学処分とかだけど、よっぽど厳しい先生じゃない限り、バイト先で出くわしても見ないふりをしてくれるらしい。結構緩いのかも、この学校。この前、職員室に行ったらヨシムーが他の先生とオセロしてたし。教師も緩い人が多い。
「彼女にプレゼントを買いたくてバイトを始めたんだが、そのせいで彼女との時間が取れなくて…。彼女には俺がバイトしてること、言ってないんだ。サプライズで渡したいから。で、最近、彼女と電話中に寝落ち、まともに会う時間すら取れず、チャットの返事を返すのも遅い、って文句言われてな。しまいには浮気を疑われたわけ。それで俺もカチンときちゃって、ただいま冷戦状態です」
だいたいの事情は分かった。わかったけど…
「そろそろ鈴木が限界っぽいよ」
「へるぷ…」
「あ、忘れてた」
ヘッドロックしっぱなしだった鈴木が、井村の腕の中でしおれていた。
「なぁ、御子柴。俺はどうしたらいいと思う?」
「そうだなぁ…」
恋愛相談、はじめました!
~執筆中BGM紹介~
イエスタデイをうたってより「籠の中に鳥」歌手:ユアネス様 作詞・作曲:古閑翔平様




