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便利な物にも欠点はある



「こう、かな…?」


虎子の彼氏、金剛丸君にビビりちらした日の放課後。俺と虎子と水野さんはリングレコードのスタジオの一室に来ていた。


先輩たちは高校を卒業して遠方に行ってしまった人もいるので、放課後においそれとは会えない。だからといってアマチュアバンドコンテスト、ABCに向けての練習をしないわけにもいかない。ならばどうするか、ということで高性能のビデオ通話ができるアプリをパソコンにダウンロードして、それぞれの場所からリモート練習しております。


「も~!智夏パイセンちっがーう!こうして、ここを押して、こう!」

「はやいはやい。もう一回ゆっくりやってくれ!」

「もっかいやるからちゃんと見ててよ~」

「はい!」

「どっちが先輩なんだか…」


いつの間にか立場が逆転していた。あっちを押してこっちを押してって難しいんだよ。


『お、やっとつながったな』

『後輩君が手こずってたのが目に見えるわ』

『それで、虎子の彼氏はどうだった?一発殴ってやったんだよね?』


天馬先輩、陽菜乃先輩、すみれ先輩がパソコンの画面の向こう側に見えた。先輩たちはとうに準備を終えて話していたようだった。


「手こずりましたすみません…。あと、虎子の彼氏は戦闘力100万の真面目な良いヤツでした。殴ったら俺の手が粉砕します」

『どんな奴だよ…』

『後輩君、手は大事にね』

『虎子!写真みせてよ~!』


やいやいと開始早々に話し出していると、水野さんが咳払いをした。


「うおっへん!げほっ!ごほごほっ!」


正確には咳払いをしようとして本当にむせていた。


「水野さん、大丈夫ですか?」

『風邪っすか?』

『私の可愛い後輩たちにうつさないでくださいね?』

『マスクした方がいいですよ』

「君らがずっとしゃべってるから咳払いを――っていうか、俺の心配をしてくれるのは御子柴君だけ!?為澤さんなんて一番遠くに真っ先に避難したよ!?」


スタジオの隅にいつの間にか避難していた虎子がアンプの影からひょっこりと顔を出した。


「だって、風邪にうつりたくないし~」

「正直か」


知ってたけど。俺の周りには自分の気持ちに正直な女子が多すぎる。陽菜乃先輩はもう水野さんを揶揄うことに飽きたらしく、号令をかけた。


『とりあえず、練習始めましょうか!』

『だな』

『りょー』

「あ~い」

「はーい」


まだ本選用の『ホワイトデーの曲(仮)』は完成していないので、今日は予選用のアニメの曲の練習だ。


前回はカップルが成立して、時間が無くなりその場で解散だったので、全員で合わせるのは今日が初めてだ。


それぞれがそれぞれの場所でチューニングをする。俺もスタジオにある備え付けのキーボードの前に立ち、高さや音を調節し指を慣らしていく。一通り音を出し終えて、陽菜乃先輩が合図を出す。


『じゃあ虎子、カウントよろしく!』

「あいよ~!」


カッカッとドラムスティックがリズムを刻み、一斉にイントロを奏でだす、はずだったのだが。


「あれ?」

「なにこれ~」

『あ?』

『あちゃ~』

『ははっ』

「見事に音がズレたね」


リモート演奏で練習できるなんて現代ってすごい!と思っていたのだが、どうやら音が伝わるまでタイムラグがあるらしい。便利な物にも欠点はあるもんだな。話す分にはなにも問題はないのだが、演奏をしようと思うと致命的なタイムラグだ。


『このまま演奏を続けて、変な癖でもついたら嫌だから、一人ずつ発表形式でやっていこう。それじゃあまずは私が歌うわね。意見よろしく!』


一緒に合わせられないから一人ずつ、という流れになったが、やっぱり直接音を聞かないと伝わらないものもある。けれど、文句も言ってられない。なにせ全員で直接会って合わせられるのは、本番の動画撮影の日を抜いてたったの3日!踏ん張れ俺!


~執筆中BGM紹介~

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイより「閃光」歌手:[Alexandros]様 作詞・作曲:川上洋平様

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