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金剛丸



「な~んかいい感じに丸く収まったみたいじゃない?」


歌えや踊れのどんちゃん騒ぎを子供たちとしている間に、どうやらカップルが成立したようだった。陽菜乃先輩はまるで自分のことのように喜んでいた。


「あ~あ、これでお(ひと)り様が2人も減っちゃったわね」

「お独り様?」

「非リアのことだよ~」


非リア、非リア充の略で、お付き合いしていない人のことを指す。対義語、リア充。


ふむふむ、なるほど。


良い子は帰る時間になり、お子様達とは別れた後も、なんとなくできたてほやほやカップルのもとには近寄りがたく、遠目で眺めていた。


「でも陽菜乃パイセン!虎子はお独り様じゃないよ~?」

「あら、そうなの………え!?そうなのーーーー!?」


そうなのー、うなのー、なのー、のー…


俺たちだけになった公園によく響く声で陽菜乃先輩が叫びがこだまする。俺もザキさんも声には出さないがかなり驚いていた。


「なんだなんだ?」

「どしたの、陽菜乃?」


あまりの叫び声に天馬先輩とすみれ先輩もこちらにやって来た。


「あ、この度はおめでとうございます」

「ありがと!」

「智夏、お前からかってるだろ。……で?一条はなんで断末魔をあげたんだ?」

「虎子にお付き合いしている人がいることを知って驚きの声をあげてました」

「自然のエコーが良い感じでしたね」


たしかに良く響いてた。響きすぎてご近所さんに怒られそうなほどに。


「へぇ。為澤、お前いつの間に大人の階段登ってたんだ?」

「学校祭で演奏した後に告白されたから付き合ってる~」


ノリ軽っ。


「告白してきた人のこと、虎子は知ってたのか?」

「クラスメイトだから名前は知ってたけど、あんまし喋ったことはなかったよ~」


お付き合いってお互い好き同士になってからするものだと思ってた。カルチャーショック…。急に末っ子に見ていた虎子がとんでもない大人に見えてきた。


「虎子!大丈夫?悪い男に騙されてない?」

「だいじょぶ!変なヤツだけど悪い男じゃないよ!」


だ、大丈夫か本当に…。


「「後輩君!」」

「「智夏!」」


先輩たちが一斉に俺を呼んで振り向いた。怖すぎィ!


「いま、虎子の彼氏が直接確認できるのは智夏、お前だけだ!」

「後輩君!虎子が悪い男に騙されてないかきちんと確認して!」

「任せましたよ智夏!」

「悪い男だったらぶん殴ってやって!」


先輩たちの熱い思いをぶつけられ、俺の中の使命感も燃え出した。


「任せてください!悪い男だったら***(ピー)###(ピー)して\(^o^)/(ピー)してやりますよ!」

「後輩君、あなた見ないうちに男らしくなっちゃって…」

「お姉さんたち感動した!」


陽菜乃先輩とすみれ先輩は「その意気だ!」と背中を押してくれたのだが、男性陣はそうではないらしい。


「お兄さんたちは肝が冷えたけどな」

「智夏……恐ろしい子」


男性陣は規制音の内容に恐れ慄いていた。






―――――――――――――――――





後日。


「パイセン!この人が虎子の彼氏だよ~?」

「おっす!自分、金剛丸(こんごうまる)龍蔵(りゅうぞう)と申します!虎子さんとは同じクラスでお付き合いさせていただいてます!柔道部に所属しています!」

「お、おう…」

「よろしくおねがいしゃーーーーーーす!!!!!」

「ヨロシク…」


身長は190あろうかというほど。苗字のように金剛力士像なみにムキムキの体に、猛々しい顔、柔道部で鍛えられた声帯から出る大声。


すみれ先輩、金剛丸君を一発ぶん殴るとか俺には無理でござる…。い、いや諦めるな俺!金剛丸君に勝てる要素が俺にもどこかあるはずだ!


「自分、御子柴先輩のお眼鏡にかなったでしょうか!!!」


金剛丸君に勝てるところ、それはつまり眼鏡!


「そ、それはまだわかりませんぞ!!!」


クイッと眼鏡を上げてマウントを取る。なんのマウントかは知らないが。


「虎子のどんなところが好きか答えてもらいましょうぞ!!!」


語尾がおかしくなっているのはしょうがない。金剛丸君に対抗して大声を出そうと思ったら別人格になってしまうのだ。


「はいっっっ!!!!!自分がまず最初に虎子を見たとき、それは高校受験のときまで遡ります―――」


虎子との出会いから惚れたきっかけ、好きなところをそのシチュエーションから話してくれた。



……3時間ほど。



結論、虎子の彼氏は悪い男じゃなかったです。

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― 新着の感想 ―
[一言] つまり陽菜乃先輩だけおひとりさま……まぁ強烈な片思い?されてるけどw
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