何がとは言わないが
パソコンを買い替えている間にブクマ登録が100件に!作者びっくり!皆様本当にありがとうございます!
カンナとのデート(仮)から数日後の8月上旬のこと。俺とカンナはドリボの社長室で床に正座していた。
なぜこんなことになったのだろう。冷房が効いているはずなのに嫌な汗が止まらない。
「どうしてこんなことに、って思ってそうな顔をしているな?」
紫の蝶が描かれた黒い扇子を開いたり閉じたりしながら、俺と多分カンナの心を読んでくる社長。今ばかりはカンナの元気も鳴りを潜めている。ここは覚悟を決めて、おずおずと挙手をする。
「発言は許可しない」
一刀両断、乾竹割。まさに取り付く島もない。パチン、パチンと扇子を開閉する音だけが響く。ど、どうすればいいんだ!?
「まぁ落ち着け。とりあえずこれを見ろ。話はそれからだ」
社長はそう言うとデスクの上に開きっぱなしで置いてあったノートパソコンを起動し、こちらに液晶画面を見せる。
画面に映っていたのは世界最大の動画投稿サイト『Yeah!Tube』に投稿されたであろう動画。どうやらスマホで急いで撮ったような様子で手振れは酷いしどこにもピントが合っていない。しかし音声はしっかりと拾っているようで、雑音が混ざりつつも鮮明に歌声とピアノの音色が聞こえてくる。
およそ1分ほどの動画が終わり、社長がそっとパソコンを閉じる。カタカタッと隣から音が聞こえたのでちらりと窺い見ると、カンナが小刻みに震えていた。
あ、これヤバいやつ。そう察した瞬間。
「まずはカンナ。この歌声、カンナにそっくりだねぇ?」
うん?と聞きながら扇子をカンナの顎下にあて、くいっと持ち上げる。普通の人がやっても様にならないだろうが、社長がやると絵になるというか、女王様降臨というか。とりあえずこんな人が身近にいたら近づかないレベルの人である。危険度MAXだ。
「そそそ、そうですかね?」
「というか、カンナだよね?」
疑問形で聞いているはずなのに断定しているように聞こえるのは気のせいだろうか。
「次に智夏。ピアノ弾いてるのは誰だと思う?」
そう来たか・・・。
「えーーーと、誰、でしょうね?」
「智夏だよね?」
眼力に耐えられずそっと目をそらしたら扇子でカンナの如くあごクイされた。いやこれ怖っ!喉元に剣先を突き立てられているみたいだ。・・・突き立てられたこと、ないけど。
「経緯を説明しな。問題児ども」
「「はい・・・」」
数日前にカンナと共に街に繰り出したこと、最後に立ち寄った洋食屋に置いてあったピアノを俺が弾いて、カンナが即興で歌ったことを洗いざらい吐いた。
「智夏、君はともかくカンナは声優としての自覚をもっと持ちなさい」
「はい、軽率でした。すみません」
カンナが正座したまま頭を下げる。
「元はといえば俺がピアノを弾いたことが原因です。すみませんでした」
俺も頭を下げる。ただ、あの演奏を後悔はしていないのもまた事実だ。
「反省しているならよろしい」
良かった~。全身が弛緩していくのを感じる。
「と、言いたいところだが、少々厄介なことになった」
油断していたところにカウンターが来たので受け身が取れなかった。え、厄介なことって・・・。もう手一杯なんですけど。
「あの動画、投稿から今日で3日だが、再生回数がもうすぐ100万回を突破する」
3日で100万回再生、と言われても凄いことなのかどうかわからないので、カンナの反応を窺う。すると、驚きに目を見開いているカンナの姿が。そんなに凄いことなのか、ミリオン再生は。
「さっき見せた動画は削除依頼を申請しているが、ここまで話題になってしまった以上、この曲の存在を有耶無耶にしてしまうのは非常に勿体ない」
あ、嫌な予感。
「あの曲、作詞作曲をきちんとして、売り出そうと思う」
ToDoが増えていく・・・
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ザザーン!と波が押し寄せては引いていく様を、砂浜に座りながら何も考えずに見つめている。
俺は今、『ヒストグラマー』のメンバー4人+執事男子こと山崎信の合計6人で会長が持つ別荘に合宿に来ていた。
「なぁ御子柴よ」
「なんでしょう、西原先輩」
隣にはベース担当の3年生、西原天馬が座っている。神妙な面持ちで両腕を組みながら話しかけてくる。口数が少ないクールなイメージだったので、話しかけられて少し驚く。
「一番でけぇの、誰だろうな?」
俺たちは今、会長の別荘に隣するプライベートビーチの浜辺に水着で座って待っている。待っているのは勿論、女子が水着に着替えてやってくるのを、である。
つまり、この場面での「でけぇ」の意味とは、あれのことである。
「そんなもの、お嬢様に決まっているではありませんかっ!」
愚問です!と山崎先輩(3年生だった)が真面目な顔をして叫ぶ。
「お、山崎もこういう話題、いける口?」
「僕も従者の前に、健全な18歳の男の子ですから」
「それは健全と言ってもいいのですか」
むしろ不純では。
「バカ野郎、これが健全な男子高校生だよ。つーかお前は結局どうなんだよ?」
うえ、このまま逃げられると思ったのに。
誰が好みだ?うん?と腕を俺の首に絡めながら絡んでくる。もはや誰が大きいかではなく、誰のが好みか、という話題にすげ変わっている。
「・・・みんな違ってみんないいじゃないですか」
「え~そういうこと言っちゃう?まな板でもいいの?」
クールで無口な先輩とか言ったやつ誰だ。俺か。酔っ払いのおっさんみたいな絡み方してくるんですけどこの人。
「誰の胸がまな板だって~?」
「げっすみれ・・・ってイタタタタタっ!」
高比良先輩にぐりぐりとこめかみを拳で押されて悲鳴を上げる西原先輩。まさか本人に聞かれるとは。あ、いや別に高比良先輩のが小さいと思ったわけでは。
「ねぇ、いま御子柴君も私の胸が小さいって思ったよね?」
「え!?いやこれは不可抗力というか・・・あ」
「バカめ。自ら白状するとは」
「みーこしーばくーん?」
ニコニコと笑顔で両手をポキポキと鳴らしながら高比良先輩がこちらに向かってくる。や、ヤバい。このままじゃ頭蓋骨割られる。
「た、高比良先輩、水着めっちゃ似合ってますよ!先輩、足長いですよね!」
女性はとりあえず褒めろ!
「ウエストもかなり細いですし、スレンダーで綺麗です!」
「そ、そうかしら?えへへ、なんか照れるなぁ」
顔を少し赤くしながら頬に手を当て嬉しそうにしている。よし、これで俺の頭蓋骨は守られた!
「可愛い後輩君、私たちも褒めてくれる?」
振り返ると、真っ白のビキニが眩しい会長と、真っ黒のオフショルダーのヒョウ柄ビキニが異様に似合う為澤が二人並んでいた。お察しの通り、どちらも高比良先輩より大きい。何がとは言わないが。
~第9回執筆中BGM紹介~
曇天に笑うより「ONMYOJI」作曲:やまだ豊様
前書きでもちょこっと触れましたが、執筆に使っていたノートパソコンがご臨終し、執筆活動が止まっていました。すみません。現在3台目の相棒を新規購入し、そちらで執筆活動を行っています。新しい相棒のキーボードはなぜか光ります。