ただの幼馴染なら
歌って踊って笑って。
「キャハハハッ!」
「もう一回もう一回!」
「次はあたしの番だよ~!」
学生らしき男が3人、公園に遊びに来ていた子供たちに囲まれていた。子供たちと一緒に、でたらめな歌を歌い、近くの遊具を叩いたり足踏みをしたりしてリズムを奏でる。演奏とは言えないほど幼稚で、けれどそこは音楽の本質を体現しているかのような空間だった。
「次はバラード調でいってみるか?」
「ばらぁど?わかんないからヤダ!」
コーヒーを飲み終えて陽菜乃先輩たちの元へ戻ろうと思ったのだが、それを止めたのは西原先輩だった。理由は「なんでもいいから音を出したい」だった。楽器を持って出てきてはいなかったから、近くの遊具を楽器に見立てたり手足を使って男3人でリズムを作っていたら、いつの間にやら子供たちが寄ってきて、小さな演奏会が始まっていた。
「子供相手にバラードは難しいですよ、天馬先輩」
「ではここはラヴソングといきましょうか」
まるで折衷案のようにザキさんが言ったが、発音良すぎないか?天馬先輩も同じことを思ったらしく、若干引いていた。
「ラブじゃなくてラヴって言うあたりに恐怖を覚えるんだが」
「同じくです」
目が…本気なんだよな…。しかも両手を顔の横に、フラメンコの手拍子のように構えているから余計に怖いんだよな。
突然後ろから、呆れたような声が聞こえてきた。
「3人で何をしてるのかと思えば…」
「一条先輩」
「一条、こいつなんとかしてくれ」
「信が変なのはいつものことよ」
信……あ、ザキさんの名前か。ザキさんザキさん言い過ぎて忘れていた。たまにあるよな、こういうの。あだ名が先行しすぎて本名を忘れること。
「パイセンたち、な~んか面白そうなことしてんじゃ~ん?」
「虎子もやるか?」
「やる~!」
「ちょっ、後輩君!私も一緒に遊ぶから!」
虎子と陽菜乃先輩が小さな演奏会に新たに加わり、そして天馬先輩とすみれ先輩は2人で何かを話していた。
「天馬せんぱ、ふがぁ」
2人を呼ぼうとしたら、後ろからザキさんに口を塞がれた。なにゆえ!?
「わざわざ2人にしたのはわざとよ、後輩君」
わざと…?それってつまり、天馬先輩とすみれ先輩の2人だけの場を整えたということ………ハッ!?そういうことか!なるほどお2人の邪魔をするのは野暮ってもんですよね!気が利かなくてすみませんでしたぁぁあああ!
――――――――――――――――――――
子供たちと陽菜乃たちの楽し気な音楽を聴きながら、幼馴染の2人がかつてのように砂場の縁に座り込む。
「天馬、なんかすっきりした顔してるね」
「お前にも気づかれてたか…」
誰かが置いていったのであろうシャベルで、すみれはザクザクと無意味に砂を掘る。
「そりゃあね」
「……心配かけた。ゴメン」
「謝らないでよ。……あたしには、何も言ってくれないの?」
「あぁ」
掘った穴を再び元に戻し、シャベルを横にそっと置く。
「ふーん?ねぇ、天馬」
「なんだよ?」
「学校であたし、結構モテるんだよ?」
「え」
天馬の反応は気にせずに、すみれはなおも話し続ける。
「この前なんて年上から告白されちゃったし」
「な」
ちらっと天馬の反応を伺い、もう一押しかなと畳みかける。
「友達から週末、合コンに誘われてたな~。どうしよっかな~?」
「行くな…!あ」
天馬は思わずといった様子で隣に座るすみれの手を掴んだ。自分でも予想外の行動だったのだろう、天馬は自分の手を見て驚いていたが、それでも離すつもりはなかった。
「なんで合コンに行ったらダメなの?」
ただの幼馴染同士だったら、合コンに行くのを止める理由はない。
「そりゃ、危ないし…」
「友達と行くから危なくない。そんな理由なら行っちゃうから」
「すみれ…」
お互いに実家を離れて遠くの学校に通って、会話する回数も一気に減った。特に、天馬が落ち込んでいたここ最近は連絡すら取れていなかった。ただの幼馴染なら、これ以上は踏み込めない。だから
「言って。もう幼馴染のままじゃいられない」
「すみれ、泣くな」
「~っ!泣いてない!バカ!」
掴んだ手を離して、すみれの両頬に手を添える。
「好きだ。ずっと昔から好きだよ」
親指でそっと、すみれの涙を拾いながら、ずっとずっと心の中で降り積もってきた想いを伝える。
「…!」
「お前のことが好きだから、合コンなんて行くな」
「な、なんで泣いてて不細工なときに告白してくんのっ!」
「あ?いまそういう流れだったろ。それで、返事は?」
熱のこもった視線を正面からぶつけられて、すみれの顔が真っ赤に染まる。
「聞かなくてもわかってくるくせに……んっ!」
「往生際が悪ぃ」
視線から逃れようと俯いたすみれの顎を右手で持ち上げて、キスをする。
「て、てててんま!?」
「うっせぇ。好きか嫌いかどっちだよ」
「~~~~~~大好きっ!」
~執筆中BGM紹介~
宇崎ちゃんは遊びたい!より「ココロノック」歌手:YuNi様 作詞・作曲:YUC'e様
そういえば智夏が告白したのも公園でしたね。作者の秘めたる願望なんでしょうか…。




