表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

287/467

努力は必ず

後半は西原天馬くん視点です。



バンドメンバー全員が知っていて、なおかつ演奏したい曲という条件で残ったのは1曲のみ。


ABCの予選の曲は、死後の世界を舞台としたアニメの作中のガールズバンドの曲に決まった。


「私たちはアニメの曲に(えん)があるらしいわね」

「あと、学校祭のときのもコレもどっちもガールズバンドの曲ですね」

「言われてみれば!よく気づいたね」


俺がガールズバンドマニア、というわけではない。まずアニメを思い出す→バンドで使われている楽器を思い出す→使われている楽器と共に女性キャラしかいないことに気づく→キーボードがいないことにも気づく


こんな感じに連鎖的に思い出しただけだ。


「たしかこのバンドって、ギターボーカルでしたよね?」


ギターボーカルとは、その名の通り歌いながらギターを弾く人のことだ。けれど、うちのボーカルは楽器全般が控えめに言ってド下手くそだ。


俺の言葉に、全員がうちのボーカル、陽菜乃先輩を見た。


「悔しいけれどまだ人前で演奏できるレベルには至っていないわ…」

「幼稚園児のお遊戯会の演奏レベルより幾分か――」


幼稚園児のお遊戯会って、ザキさん辛辣だな。でもまぁ、前回はお遊戯会にも出れないレベルだったから、成長したと思えば…


「――下です」

「「「下なんかい!!!」」」


成長どころか、一歩も前に進んでない。いや、むしろ退化しなかったことを喜ぶべきなのか。


「ネバーギヴアップ、努力は必ず報われると信じて毎日頑張ってるわ」


陽菜乃先輩の相変わらずのポジティブ思考に、俺も頑張らなきゃな、と引っ張られる。






――――――――――――――――――






それぞれが努力を胸に掲げるなか、置いていかれている者が1人だけいた。


(努力は本当に報われるのか?だったら、なんで俺はこんなにも…)


水野さんがパン、と手を叩いて言った。


「よし!じゃあ予選の曲も決まったことだし、本選で演奏する『ホワイトデーの曲(仮)』について話を詰めようか」


(御子柴が作ってくれたこの曲を初めて聞いたとき、鳥肌が立ったんだ。心に直接響いてくるみてぇな、そんなすごい曲を作れるヤツが同じバンドの仲間なんて…)


嫉妬。


汚くて醜い、どろどろした感情が俺の弱い部分から溢れ出して止まらない。


(俺を慕っている智夏に、俺がこんなことを思っているなんて知られたら幻滅するだろうな)


新たな挑戦にキラキラした目をしている智夏を一瞬見て、視線を水野さんに戻す。


「まずはこの曲に歌詞を付けなきゃいけないんだけど…」

「それは私が責任をもって書きます」

「他にやりたい人は……いないみたいだから、一条さんお願いしますね」

「はい」


一条が自信に満ちた顔で立候補した。ここで他のヤツが立候補したなら、不安の声も上がったかもしれない。俺も含めてみんな、わかっている。一条なら必ず良い歌詞を書いてくれると。そしてその歌詞の魅力を最大限に引き出す歌声を持っている。


(一条の歌唱力はもはや化け物レベルだ。化け物について行くには、周りもおんなじ化け物になるしかない。一条と同じレベルに達しているのが智夏。そんで化け物レベルには至ってないが、それに必死に食らいついて何とか演奏できる超人レベルにいるのがすみれと為澤。そんで足手まといの凡人が俺だけ……ダサすぎて笑えてくる)


「スタジオが一つ空いているけど、使うかい?」

「使う使う~です!」

「虎子、ちゃんと敬語を使えるように頑張ろうな…」

「使わせていただけるなら是非!」

「お願いします」


為澤、智夏、すみれ、一条がそれぞれ返事をする。


(あぁー行きたくねぇ…)


俺の音を聞いて落胆するみんなの姿が目に浮かぶ。特にあいつには、聞かれたくない。


体長が悪いとかでっちあげて帰ろうかと思ったとき、ザキがおもむろに立ち上がり、俺と智夏の腕を掴んで言った。


「僕たち男子組はちょっくら青春をしてくるので、ここで失礼させていただきます!」

「はぁ?何言ってんだよザキ」

「ザ、ザキさん…?」

「「「行ってらっしゃ~い」」」


腕を掴まれた俺と智夏が困惑してザキを見るが、涼しい顔をして意外と強い力で引っ張られる。


女子たちと水野さんは止める様子はないし、むしろ追い出された気がする。


ぐいぐいと引っ張られながら会議室を出て、ビル内を出口に向かって歩く。


「あら仲良しね」

「男の子3人で腕組んで可愛い~」

「腕組んでっていうか、連行されてない?」


すれ違う人たちにひそひそと言われ、隣で同じように引っ張られている智夏は「もうどうにでもなれ」って言ってるし。


外に出て、隣にあった公園内に入ると、そこでようやく解放された。


「おーい、ザキ?いったいどうしたんだよ?」


いっつも機械みたいに正確なザキが急にどうしたよ?ご乱心か?


「どうした、はこっちのセリフですよ、天馬」

「…!」



~執筆中BGM紹介~

「My Dear Fellow」歌手:ももいろクローバーZ様 作詞:前田たかひろ様 作曲:しほり様 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ