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どんぶり

最後の方は彩歌さん視点でごわす。



「あのとき、エレナさんしか見えていなかったのが私の敗因ね」

「でも、一対一の勝負では悔しいけど引き分けよ。それと、エレナでいいわ。私もカンちゃんって呼ぶから」

「カンちゃんはちょっと…」


高校生活最後の球技大会を優勝、2連覇という華々しい形で終わらせ、俺たちはこってこてのおいしいラーメン屋さんに来ている。


A組のクラスメイト全員と、なぜかカンナもついて来た。さっきからエレナと2人で感想戦に花を咲かせている。


「ラーメンお待ち!!」

「ありがとうございます!」


きらきらと輝くスープにつややかな麺、我こそが主役といわんばかりの存在感を放つチャーシューに煮卵。見た目と香りのすべてで食欲を掻き立ててくる。


思わずゴクリと喉が鳴った。


クラス全員分と先生とカンナの分のラーメンを用意している大将はてんてこ舞いだが、顔は嬉しそうだ。


「この店、味はうまいのに立地が悪いし料金は格安ってんで潰れかけてたんだ」

「へぇ、だから大将が嬉しそうな顔をしてるのか」


お店は満席どころか座席が足りなくて、数人は立ち食いをしたり、女子同士だと一つの椅子に2人で座っていたり。みんな不満そうな顔はしておらず、おいしいラーメンに皆良い表情をしている。


「いただきます!」


割り箸を割って、さっそく麺をすする。


「…!うまっ!」


麺の一本一本、スープの一滴までもがへとへとになった身体に染み渡って、活力になっていく。


気付けば器は空っぽになっていた。なんという満足感。


「美味しいものを食べられるって幸せなことだよなぁ」

「俺、人間に生まれて良かったって思う」

「このラーメンを食えるのは人間だけだもんな~」

「しかもヨシムーの奢りだからなおさら旨く感じる」


ヨシムーは生徒たちに囲まれてもみくちゃにされていたが、ふと何かを思い出したように立ち上がると、俺の傍にやって来た。


「例の物をよこしな」


およそ教師の発言とは思えないな。だがまぁ、約束は約束だ。全員分おごってもらうんだし、しょうがない。


スマホをぱぱっと操作して、ヨシムーに例の物こと香苗ちゃんのドレス姿の写真を送る。


あ、そうだ。これも言った方がいいかな。


「ちなみにですけど」


送った写真ををガン見していたヨシムーが画面から顔を上げて俺を見る。あまり大きな声で言わない方がいいかなと、耳打ちをする。


「昨日、香苗ちゃんにこの写真を先生に送っていいかどうか聞いたんですけど、ちょっと恥ずかしそうに「いいよ」って言ってくれました」

「……そーかい」


なんてことない、って感じで答えたヨシムーだったが、俺に顔を見られたくないのか、頭をわしゃわしゃと撫でまわされた。


「あー!!!みんなで乾杯するの忘れてた!」


鈴木がムンクの叫びみたいなポーズをしながら叫んだ。なにもそこまで残念がらなくても。


「じゃあやり直せばいいんだよ」


幸いにも、まだ誰も帰っていないからクラス全員が揃っている。


「そーだぞ、忘れたならやり直せばいい」

「御子柴いいこと言うなー」

「コップで乾杯するの?」

「せっかくラーメン屋に来てるんだし、どんぶりで乾杯しようぜ」

「それ良い!」


どんぶりで乾杯って斬新すぎないか。スープを残していた数名の生徒たちが、それを聞いて慌ててスープを飲み干している。地球にやさしいね。


「そんじゃあ、改めて!」

「ラスト球技大会優勝おめでとう&二連覇最高だぜお前らー!カンパーイ!!!」

「「「カンパーイ!!!」」」


どんぶり同士がぶつかる、鈍い音が店内に溢れた。俺たちA組に負けて優勝を逃したB組のカンナもちゃっかり乾杯に参加していた。






ラーメンを食べて解散した後、向かった先は彼女の家。


昨日、彩歌さんが着た俺のジャージを洗って返してくれるとのことだったので、こうしてやって来たのだ。


何回か来ていると言っても、玄関前に来るとやっぱり緊張する。


「スー…ハ――…よし!」






―――――――――――――――――





洗濯した智夏クンのジャージをたたんでいると、自然と昨日のことが思い出された。


保健室で2人きり、色っぽい顔で「そそりますね」なんて言われちゃったっスー!!!


「うひゃぁ…」


恥ずかしさのあまり、手に持っていたジャージで顔を覆うと、ふわっと智夏クンの香りが鼻をくすぐった。


………智夏クンが来るにはまだ時間があるだろうし、ちょっとだけ。


くんくんくん


「ふへへ」


彼氏の匂いにニヤケが止まらない。どうしよう、智夏クンにこんな姿を見られたらドン引きされるっス。


―――ガタッ


「ひゃっ!」


後ろから物音がして、驚いて振り返るとそこには口元を手で覆った彼氏さんの姿が。あわ、あわわわ!どうしよう!?


「彩歌さん」

「……ひゃい」


恥ずかしくて顔を上げられない…。墓穴を掘っていると分かりながらも、ジャージで顔を隠さずにはいられない。


智夏クンは私が持っていたジャージをぺいっと取り上げて、両手を広げてこう言った。


「そんなものより、こっちの方が良いと思いますけど」


「そんなもの」とは今さっきソファーに置いた智夏クンのジャージのこと。そして「こっち」とは智夏クンの腕の中。


制服姿の智夏クンが照れくさそうに手を広げて待っている。こんなの、飛び込まない方が無理っ!!


「球技大会お疲れっス!」

「彩歌さんも。お仕事お疲れ様!」


ふぁ~。今日も彼氏がかっこかわいい…。



~執筆中BGM紹介~

あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。より「青い栞」歌手:Galileo Galilei様 作詞・作曲:尾崎雄貴様

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