時間稼ぎ
前半は井村視点、後半は智夏視点でお届けです。
よっす!オラ井村!
鈴木とよくつるんでいるせいか、ニコイチに見られているあの井村だよ~!めちゃ不本意だけどな!
そんな俺だけど、今は美少女と一緒にいるぜ!ほら、まさに美少女が俺の腕を引っ張って―――
「井村!次はあの2人がターゲット!全力でいけ!」
「エレナさん!?俺、ロボットでもペカチューでもないんだ!もう体力ねぇです!」
ゼェハァと、息が荒くなってきて、肩で息をしているような状態だ。体力には多少の自信があった俺が、こんなに疲れているのには理由がある。
「無いなら出すのよ」
「…」
この目の前にいる脳みそまで筋肉で出来ているのかと思うほどのスパルタ脳筋女子、エレナさんが俺を囮に使うせいだ。こういう役割は御子柴のはずなのに…。
恨みがましい目で場外に出た御子柴を睨む。そんな俺の視線に気づいたようで、ひらひらと手を振ってきた。
「な~に笑顔で手ェ振ってんだよ!俺は怒ってんの!」
「私のチーちゃんになに勝手に怒ってるのよ。ケツ蹴るわよ」
「理不尽アンド理不尽」
だいたい、プラチナブロンドの儚げ美人が「ケツ」とか言うもんじゃないよ。
「ほら、鈴木が愛羽カンナの気を引いている今が、最大のチャンスなんだから!」
「へーい」
みんなが注目している、鈴木と愛羽さんの一問一答クイズはなかなか白熱している。いや、白熱するように仕向けている、と言うべきか。
最近、鈴木との勉強会を経て学力が上がってきているらしい愛羽さんだが、それでも入学してからずっと学年トップを維持し続けている田中ほどの学力はまだない。鈴木が本来の実力を発揮したら、この勝負はすぐに決まっていたはずだ。
終わらせない理由、それは時間稼ぎだ。
みんなの注目があの2人に注がれている今この瞬間が俺たちA組が逆転するチャンス!
「いけ!イムチュー!」
「イムチューって誰だ~。…あ、俺か。へいへい、行ってきますよーだ」
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井村に手を振った後、しばらくしてエレナが井村を囮に使ってしっぽを取っていた。
「お~。エレナがまたしっぽを取った」
「井村は良いように使われてんな~ハハッ」
「いいぞーもっとやれー」
俺たちの他にも徐々に、エレナと井村の暗躍に気付く生徒たちが増えてきた。
「カンナちゃん!みんなしっぽ取られちゃったよ!!」
「っ!?」
場外にいるクラスメイト達からの声で、カンナがようやく気付いた。自分がクイズに夢中になっている間に、確実に味方が減ってしまったことに。
鈴木の時間稼ぎの目的は2つ。
1つ目はB組の司令塔であったカンナの動きを止めること。その間に、エレナと井村が活躍し、確実にB組の人数を減らしていった。
そして2つ目の目的は―――
「残り30秒!」
時間切れだ。
「ど、どうしよう!?B組で残ってる人、もう誰もいないの!?」
「愛羽カンナ、あなた以外みーんな仲良く場外よ!観念して大人しくしっぽをこちらに渡しなさい!でないと痛い……痛い日?痛い目?を見るわよ!」
いまいち締まらないエレナの勧告に、カンナは好戦的な笑みを浮かべた。
「あと20秒もあるじゃない」
A組で残っているのは、鈴木と井村とエレナともとやんと松田さんの5人だ。対するB組はカンナだけ。残り20秒ほどで勝ち目などない、はずなのに。
気付けばコート内の5人に叫んでいた。
「逃げろー!!!」
完全に油断していた鈴木のしっぽがまず取られ、そして近くにいた松田さんのしっぽも取られた。残った井村とエレナともとやんが一斉に逃げ出したが、もとやんがすってんころりんと転び、無防備にさらされたしっぽをカンナが回収。
たったの10秒で3人のしっぽが取られてしまった。
「逃げろ!エレナ、井村ーーー!」
「あと8秒!」
「こえぇぇぇよぉぉぉおおおお!」
井村が泣きべそをかきながら必死にエレナから逃げているが、もうすぐで追いつかれてしまいそうだ。
「あと6秒!」
「こうなったら、私がしっぽを奪う!」
取られる前に取ってしまえ、とエレナが井村を追いかけていたカンナに向かって走り出した。
「5!」
「愛羽カンナ、覚悟!」
「4!」
「エレナ・トルストイ!今度こそ私たちが勝つ!」
まるで時代劇か、特撮でも見ているかのような緊張感だ。
「3!2!」
「「ハァァァアアアアアアアアアッッッ!!」」
「1!0!試合終了!」
エレナとカンナの手には、それぞれタオルが握られていた。
エレナ対カンナは、引き分け。そして、球技大会の総合優勝は、―――
「勝者、A組ーーー!!!」
球技大会、2連覇の瞬間だった。そして、最後の球技大会の全日程が終了した瞬間でもあった。
~執筆中BGM紹介~
BLEACHより「ALONES」歌手:Aqua Timez様 作詞・作曲:太志様




