格好の獲物
本作をお読みくださった読者の皆様に感謝申し上げます!
影が薄い、これは時と場合によっては良い意味になる。某バスケ漫画にも影が薄いことを利用して、すんごいパスを出して活躍する主人公もいるくらいだ。
そして俺もいま、影が薄いことを最大限に活用中である。
「キャー!こっち来た!!」
「あともう少しで取れたのに!」
「俺の屍をこえて、いけ……うわぉ!?」
「死体がいつまでも転がってんな!蹴るぞ!」
「そう言いつつも場外まで出してあげる優しさを持つ彼は攻ね」
「いやいや。受でしょ」
「逃げろー!腐女子が来たぞー!!」
決勝戦の舞台では、一方では戦場が、もう一方では腐女子劇場が繰り広げられていた。A組男子とB組男子が一緒くたになって逃げている。あれ、これクラス対抗のしっぽ取りゲームじゃなかったっけ。
よし、じゃあこの隙に。
腐女子から一心不乱に逃げている男子達にスーッと影を薄めて合流し、B組男子の横に移動。そしてそのまま右手を伸ばして…
よし、取った。このまま残りのB組男子達のもとへ向かい、さっきの男子と同じようにタオルを抜き取っていく。
これは俺たちを追いかけている腐女子たちからだと丸見えなわけで。
「御子柴君、打たれ弱そうなヘタレに見えるのに」
「実はSの素質を持っていたなんて」
「これはおいしいでありますなぁ」
「「「でゅふふ」」」
聞こえてる、聞こえてますよー!!!
「それはそれ、後でおいしく料理するとして。今は試合中だから」
A組の腐女子、松田さんが一歩下がり、両脇のB組の女子のしっぽを華麗に抜き取った。
「すまんな、同志よ」
「「松田氏~」」
女子たちの嘆く声でようやく、逃げていた男子達が足を止めた。
「ふぅ、なんとか逃げ切ったか…」
「危なかったぜ……って、俺のしっぽがない!?」
「お前取られてたのかよダセェ」
「おめぇのしっぽも取られてるぞ」
「はは、そんなわけ……あれ?ない。俺のしっぽがないー!」
こんな風に影の薄さを利用するわけでございます。
「タオル、返すよ」
取ったタオル3枚をそれぞれ返していく。
「あ!御子柴君じゃん!」
「俺、ファンなんだよ!サインくれ!」
「じゃあ僕のにも!このタオルにサイン!」
タオルをピーンと伸ばしてサイン色紙のように差し出された。この3人、あんまり周りが見えてないんだろうな。だからこんな、自ら死地に飛び込むようなことができるんだ。
「えっと、ありがとう。とりあえずペン持ってないから、後からでもいいですか?それと、3人で囲むのはちょっと…」
「ごめん!そうだよね」
「あ、怖がらせたならすまん!」
「お前ら顔が怖いんだよ」
3人は俺が囲まれて怖がっていると勘違いして謝ってきてくれたが、違う。違うんだよ。怖いものはもっと別にいるんだよ。
「3対1って、そんな、そんなこと…!」
「待って、心の準備がまだ!」
「御子柴君はハーレムをお望みなのかな?でゅふ、ふふふ」
3人ともようやく自分たちが腐女子たちの格好の獲物になっていることに気付き、そそくさと場外に退場していった。
去って行くB組の男女の背を見送りながら、隣に残った松田さんに言っておく。
「松田さん、俺で遊んでたでしょ」
「日常のあらゆるもので遊べるのが腐女子という生き物」
「それはすごい」
「でしょ?羨ましくなっちゃったでしょ?この世には腐った男子、いわゆる腐男子という生き物も存在するのです。御子柴君もこちら側に来る気は?」
「ないです」
「振られちゃった」
松田さんの恐怖の勧誘を断ると、彼女は「新たなカップリングを求めて旅立つよ!」と元気に走って行った。何をする気なのか気にしたらいけない。深く関わったらいけないんだ。
コート内を見渡すと、A組とB組の数は4対6といったところか。さっきまで五分五分の戦いだったが、どうやらA組が押されてきているらしい。
女子の司令塔だった香織が場外にいるのは手痛いな。
香織が外に出てからというもの、統率を失った女子たちのしっぽが次々と取られていく。B組を動かしているのは間違いなくカンナだ。
俺たちの切り札であるエレナはB組の運動部男子たちに囲まれて、すぐに動けそうにない。だから、誰かがB組の司令塔であるカンナを止めないと。
「そうだろ?鈴木」
「うぇっ!?突然なに!?俺、いま必死に逃げてきたんですけど!?」
カンナを止めるのは俺の役割じゃない。
~執筆中BGM紹介~
劇場版 呪術廻戦 0より「逆夢」歌手:King Gnu様 作詞・作曲:常田大希様




