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A組に勝利を



「しっぽ取りゲームで必要なのはタオル一枚のみ。全員持ってるだろ?」


ヨシムーが自前のタオルを振り回しながら聞いてきた。そりゃ、「汗臭~い」なんて素直な女子たちから言われないように心がけて、昨今の男子は汗拭きシートとか汗のにおいを消してくれるスプレーとか持ってるんだからタオルくらい持ってますよ?当然、女子も使うから体育後の教室はいろんな匂いが入り混じって頭が痛くなるくらいですとも。


「そりゃあ持ってるけどさ」

「球技大会なのに球技じゃないじゃんよ~」


球技が大好きな丸刈り(おそらく野球部)が口をとがらせて文句をたれている。彼のズボンのポケットからはCMでやっている「さわやか男子は青春を制す」でお馴染みの制汗剤が顔を覗かせていた。


「あぁ?だいたい、お前らがはしゃぎすぎてボールが破裂したんだろうが」

「それはごめん!」

「素直でよろしい。つーかお前ら球技じゃなくても、とりあえず騒げればなんでもいいだろ、別に」


投げやりすぎないか?ヨシムーのあまりの言い方に他のクラスの生徒たちは唖然としている。が、こんな扱いにもすっかり慣れてしまったA組のメンツは意にも介さず、しっぽ取りゲームに意気揚々としていた。


「タオル?タオルで何をどうするの?殴ればいいの?」

「エレナちゃん、いったん、その凶器みたいに尖ったタオルを降ろそうか」


どう頑張ったらふわふわなタオルが凶器になるんだよ。香織がエレナを止めてくれなかったら被害者が出るところだったぞ。特に俺とか、格好の獲物だ。


「ま、ようするにしっぽみたいにタオルをズボンから出して、敵チームのしっぽをたくさん奪ったチームの勝利だ。時間無いからちゃちゃっとやるぞ~」


なるほどタオルをしっぽに見立てて、それを取り合うのか。だから合法的に女子の尻を追えるゲーム……いやいやいや、それはちょっと難しくないか?


「ふ、ふふふふふふ。己の手で勝利を掴み取るゲーム、いいわね。血が沸騰して筋肉が躍るわ!……チーちゃん!」


こういう風に日本語が不安なとき、エレナは俺に合ってるかどうか聞いてくる。この場合は間違ってはいないよな。


「だいたい合ってる。すごいなエレナ」

「もちあたぼーよ!」

「その日本語はちょっと古いかな」

「え!?じゃあ、ちょっぱやで!は?」

「それも古いんじゃないか?」

「ほんとに!?」


俺の言うことが信じられないのか、香織にも確認を取るエレナ。


「え?う~ん……確かにちょっと古いかもしれないけど、エレナちゃんがまた流行らせれば新しくなるよね!」

「かおちゃん天才!」


麗しき友情かな。


「お取込み中悪いが、試合を始めるぞー」

「「「うぇ~い」」」


A組の初戦の相手は、一回戦を勝ち上がったC組だ。女子が多くて(男子にとっては)なかなかに手ごわいクラスである。


「しばちゃーん。何してんだよ、はやくこっち来ーい!」


考え込んでいたら、いつの間にかクラスのみんなが円陣を組んでいて、田中に呼ばれた。一人分空いた空白は、俺の居場所だとはっきりとわかる。躊躇うことも、恐れることもなく、それが当然かのようにその空白に収まる。


完全な円ができたところで、鈴木が口火を切り、それに続くように食欲全開の掛け声を叫ぶ。


「今年も球技大会優勝して、ヨシムーの金で焼き肉食うぞー!!!」

「すき焼きー!!!」

「バイキングー!!!」

「ラーメン―!!!」

「寿司―!!!」

「串カツー!!!」

「ケーキー!!!」


食べ物しか頭にないな、これ。


「お前らそんなに奢るなんて言ってないぞこらー!」


俺たちの叫びが聞こえていたヨシムーが悲鳴を上げている。


「ヨシムーを破産させるぞー!」

「「「おー!!!」」」

「とんでもねぇガキ共だな」


頭を抱えるヨシムーにみんなニヤニヤしてる。実際は破産させる気なんてないのだろうが、こう言った方がヨシムーが面白い反応をするからだ。


教師と生徒の間柄だが、年の離れた友達みたいな距離感でもあって、なかなかに面白い関係性を築いているなと思う。特に俺なんて、ゆくゆくは身内になるかもしれないし。





「よーしそれじゃあ試合開始!」

「「「行くぞーーー!!!」」」

「「「オ―――――!!!」」」


さながら合戦のごとく、雄叫びをあげながら両チームが激突する。


C組は数少ない男子を前面に押し出して、女子は女子で守りを固めている。


「A組に勝利を!」


A組の切り込み隊長、鈴木が先頭を切ってC組の男子のしっぽを取りに行く。


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