「「「球技じゃないじゃん!!!」」」
球技大会の2日目はクラス全員参加型の、ドッヂボールが毎年開催されるのだが、今年は一回戦から白熱しすぎて、なんとボールが破裂したのだ。シード枠の俺たちA組は2回戦から参加予定だったが、代わりのボールが見つかるまで待っていたのだ。
第一体育館に3年生全員が集められ、審査員をしていたヨシムーが体育館のステージに立って言った。
「ドッヂボールで使ってたボールの予備は、体育館倉庫の奥から卓球部顧問のオッサンのヅラの中まで探したけど、残念ながら無かった」
お歳のわりにはふさふさだと思ってたけど、卓球部の顧問ってヅラだったのか…。次に会ったときはもう、頭にしか目が行かないな。
「ボールが無いならどーすんの~……ですかー?」
A組の女子が教室でしているようにタメ口でヨシムーに質問しようとしたが、他のクラスの生徒たちもいる手前、体裁は保たねば、という謎の理性が働いて残念な敬語になってしまった。
一方、敬語だろうが敬語もどきだろうが気にしないヨシムーは説明を続ける。
「エアードッヂボールでもやっとけって言いたいところだが、」
(((エアードッヂボール…?)))
エアーバンド的なあれか?投げるふり、避けるふり、当たるふりをしろってことだろうか。想像するとかなり面白い光景だけど、間違いなく決着はつかないよな。
「…それは無理だろうからな。だから、代わりの競技をやってもらうことに決定した」
「「「お~」」」
「ちなみに1回戦で負けたチームはそのまま負け判定だからな」
代わりの球技と言うと、なんだろうか。しかもドッヂボールみたいにクラス全員が参加できるような球技となると…。
「これからやってもらうのは、しっぽ取りゲームだ」
「「「球技じゃないじゃん!!!」」」
しっぽ取りゲームってなんだろう?みんなが総ツッコミしてるから、有名なゲームなんだろうとは思うけど。
……まさか、動物のしっぽというしっぽを掻っ攫う非人道的な遊びか!?
「2人が想像してる遊びとは違うと思うぞ」
しっぽ取りゲームに戦慄していると、田中が呆れながら否定してきた。毎回心を読むのはやめてくれと…。
「ふたり?」
「しばちゃんと…」
俺を指した人差し指がスーッと横に移動し、斜め後ろで止まった。
「エレナさん」
あぁ……なるほどな。
世間知らずと留学生だけが知らない感じですね。
「しっぽとりげーむってどういう遊びなの?」
指さされても我関せず、といった様子でエレナが会話に入って来た。田中が答えようと口を開くと、横から鈴木がニヤリと笑って割り込んできた。
「しっぽ取りゲームはな、聞いて驚け。合法で女子の尻を追いかけられる素晴らしいゲームだ」
「「…」」
何言ってんだ、こいつ。俺と田中が絶句していると、どこからかひんやりと冷たい風が吹いてきた。
「鈴木マジ最低」
「キングオブ最低」
「鈴木最低クズ男」
鈴木のセクハラ発言を聞いていた女子たちが団結して白い目を向ける。最後なんかはもはや名前みたいになってたな。
こんな空気になっていても気にしないどころか、新たな緊張感をもたらしてくれるのがスナイパー・エレナだ。
「それはつまり、私たちが野郎どものケツを追える絶好の機会ということね?」
周囲の野郎どもがケツを咄嗟に手で抑えて震えあがった。
ミサイル並みの衝撃をもたらしたエレナの発言で、周囲一帯が静寂に包まれてしまった。まったく、お嬢様が変なことを言うからみんな驚いたじゃないか。
「お嬢様がケツって言うのはいかがなものかと俺は思うぞ、エレナ」
「「「そこじゃねぇ(ない)!!!」」」
「へ?」
ケツって言ったことがダメだったんじゃなかったの?それにしてもこの学校というか、特に俺のクラスはみんな息ぴったりだよな。なんか疎外感が…。
「おっほん!ルールを知らない奴がいるだろうから、めんどくせぇけど説明すっぞー。耳の穴かっぽじってよく聞けよ、御子柴ー」
「なぜ名指しした」
「私もいるのに」
そしてエレナはなぜ羨ましそうに俺を見るんだ。3年生全員の前で名前を呼ばれたって良い事なんてなにもないぞ。
~執筆中BGM紹介~
「藍才」歌手・作詞・作曲:Eve様




