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優先順位

メリークリスマス!!イヴ!!!


だけど作中は5月です!球技大会2日目!


前半は田中視点で進みます。



俺たちの前の試合で使用していたボールの空気が抜けてしまったらしく、新しいボールを探している間、俺たちは暇になってしまった。だから「30秒で支度しな」なんて言わなくても良かったのだが、言ってみたかったのだから仕方ない。


更衣室に駆けこんで急いで着替えているしばちゃんを外で待ちながら、さっきの言葉を思い出していた。


「自分が幸せ者だって、普通言えねぇよなー」


俺だったら恥ずかしくて言えないようなことを言ってのける親友は、本当に良い奴だ。良い奴過ぎて、ときどき心配になる。


「壺を買わされる前に俺が止めないと…」

「何を言っているんだ?独り言が大きい奴だな」


他の人に言われたらイラっとして一発殴っていたかもしれないが、言い方に何の悪意も感じないしそもそも心からの純粋な疑問っていうのはわかる。わかるんだけど…。


「……もとやんじゃなきゃ殴ってたかんな!」

「なぜだ」


そんなに正直者だといつか痛い目を見そうだな。と思って気付いた。


「もとやんとしばちゃんはなーんか似てるよな」

「そ、そうか?照れるな…」

「ハァ…」


そういえば、もとやんはしばちゃんのことが大好きなんだったな。男の照れ顔なんて正面から見るもんじゃねぇや。


零れたため息に訝しげな表情をされたが、それについては説明するのも面倒くさいのでマルっと無視することにした。


「もとやんから見て、しばちゃんはどんな奴だ?」

「そうだな…」


俺のふわっとした質問にも真剣に考えてくれているようで、腕を組んで肘を指でとんとんと当てながら教えてくれた。


「師匠は、良い人だと思う。誰にでも優しいし、頭もいいし、神様に愛された人って感じなんだろうな」

「?」


なんだか含みのある言い方に、疑問を覚えた。しばちゃんを師匠と仰ぐもとやんなら、肯定する言葉を即答して終わりだと思ったのに。


「けど、師匠の欠点をあげるとするなら、それは自分の価値がわかってないこと。他人から愛されている、大切にされているとわかってはいても、自分だけが自分を愛せず、大切にできていない」


もとやんは普段はとんでもないドジっ子だけど、たまにとてつもなく鋭いときがある。


「しばちゃんはさ、自分が嫌いってわけじゃないんだ」

「あぁ」


空を飛ぶ1羽の鳥を見ながら、ひとりごとのように呟く俺に、もとやんは相槌を打ってくれた。


「自分の中に優先順位ってあるだろ?俺だったら自分が最優先事項。そんで、家族、友達って感じなわけ。もとやんもそんなもんだろ?」

「言われてみれば、たしかにそうだな」

「でも、しばちゃんの優先順位の中で、自分は一番最後なんじゃないかな」


家族、友人、仕事仲間から果ては赤の他人まで。


「昨日の、アンドレイ君のラケットが当たって怪我したときだって、しばちゃんはアンドレイ君の心配をしてた。友達でもない、話したこともない相手なのにな」


この話をエレナさんから聞いたとき、心底怖いと思ったんだ。


いつの間にか空を飛んでいた鳥がいなくなっていたことに気付いたとき、背後の扉がガラッと開いた。


「そういうことは本人には聞こえないところで話す方が良いと思うよ」

「なーんだ。聞き耳立ててたのかよ?しばちゃん」

「ぬえっ!?師匠、いつからそこに!?」

「「最初から」」


1人だけ驚いているもとやんには悪いことをしてしまったとは思ってる。すまん。


「田中は俺に聞かせるためにわざと話してただろ」

「えぇ~?」

「えぇ~?じゃないよ、まったく」


そうは言っても、とっくに着替え自体は終わっていたはずだから、やっぱり聞き耳を立ててたんだろうな。


「それで?俺らの話を聞いて、しばちゃんはどう思ったよ?」





――――――――――――――――――――





「それで?俺らの話を聞いて、しばちゃんはどう思ったよ?」


田中のニヤケ顔、腹立つなぁ…。


聞き耳を立てる必要もないくらいに更衣室の扉はうっすいので、最初から最後まですべからく聞こえていた。


「俺がアンドレイ君の心配をしたのは、俺が倒れた後にアンドレイ君の顔が真っ青だったって聞いたからだよ。田中の言う優先順位がどういうものなのか、俺にはよくわからないけど…。でも、さすがに自分自身の優先順位が一番下なわけないじゃん」

「へぇ?じゃあしばちゃんの優先順位の中で一番下って誰?」

「……………犯罪者とか?」

「…」


もとやんと田中の視線が痛い…。


自分でも苦しい言い分だとは思いますとも。でも、思い浮かばなかったんだからしょうがない。それはつまり、田中の言う通りということなのだろう。


「自分を粗末にしてるつもりは、ないんだけどなぁ」

「だろうな」


知ってる、と言って空を見上げていた視線を俺に落とし、田中は笑った。


「まぁ、長い人生だし、気楽にいこうや」

「急に雑だな」

「は~い、もとやん静かに!先生そろそろ怒っちゃうよ?」

「誰が先生だ」


長い人生、気楽に、か…。


「田中は気楽に生きすぎだと思う」

「なにをぅ?」

「しゃくれるのは流行ってるのか?」


遠くからA組のメンバーを招集する声が聞こえたので、そろそろ試合が始まるのだろう。執着心が薄いとか優先順位が低いとか、今日一日で好き放題言われて絶賛悩みまくっているが、とりあえず。


「LKT頑張りますか!」

「「おう!!」」


いまは全部忘れて、目の前のラスト球技大会に集中だ!目指せ、ノー顔面キャッチ!


~執筆中BGM紹介~

「All I Want For Christmas Is You」歌手:Mariah Carey様 作詞・作曲:AFANASIEFF WALTER N様 / CAREY MARIAH様

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