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いた

~執筆中BGM紹介~

天空の城ラピュタより「君をのせて」歌手:井上あずみ様 作詞:宮崎駿様 作曲:久石譲様



執着心が薄いのは、いつでも手放せるようにか――。


「大小の差はあれど、執着心というものは個人の存在を繋ぎとめるものだと思うんだ。……いつか忽然(こつぜん)と何も残さず消えてしまうのではないか、とね」

「あはは。そんな儚げな印象ですか?」


よかった。今度はちゃんと笑えた。


儚げで許されるのは美少女くらいだ。俺には精々、影が薄いとかそんな言葉がよく似合う。


「校長先生のおっしゃるようなことにはなりませんよ」


心なしか三郎太の歩調もゆっくりになっている気がする。2人と1匹で穏やかな時間の中を歩いていく。


「今まで散々、周りに迷惑や心配をそれはもう申し訳ないほどにかけまくって、鈍い俺でもわかります。俺は、みんなから大切にされるような存在なんだってこと。勝手に消えたら、世界の果てまで探してくれそうな家族や友人、恋人がいるから。執着心が人の心を繋ぎとめるものだとしたら、俺を繋ぎとめてくれているのは、いつだって…」

「あーーー!しばちゃんいたーーー!!」


閑静な住宅街に良く響く大きな声を上げて、学校にいるはずの田中がものすごい勢いで駆け寄ってくるではないか。


「な、なんで田中がここに?」

「なんでって、おわっ!?」

「ガルルルルッ」


三郎太にめっちゃ威嚇され、若干ビビりながら田中がやってきた。


「なんでって、連絡もないのにしばちゃんが学校にいないから心配で探しに来たんだよ!クラスの皆で!」

「クラス全員で探しに来た!?」


いまとんでもない爆弾発言が聞こえたんですけど!?


クラス全員が校外に出ていると聞いた校長先生は怒るどころか笑ってるし。


「「「あーーー!御子柴いたーー!!!」」」


前から後ろから右から左から、あらゆる方向からクラスメイト達が俺めがけて走ってきた。


「ったく、どこ行ってたんだよ~」

「他の奴らにも見つかったって連絡しないと」

「きゃ~わんちゃん可愛い!」

「へへっへぅへぅ」

「ここで何してたの?御子柴君」

「サボりにせよなんにせよ連絡くらいしろよなー」

「玉谷なんて心配しすぎて腹壊したんだからな」

「いや、壊してねぇし!」


穏やかな時間が急にカオスな空間に…。


「いつもいる奴がいないと調子狂うんだよ」


鈴木が頭をぼりぼりと掻きながら隣にやって来た。みんなクラスTシャツを着て出てきているから、着の身着のままで飛び出したのだろう。その姿が容易に想像できて、とうとう堪えきれなくなった。


「ぷっ!くっ、あははは!」

「御子柴が壊れたぞ!」

「な~に笑ってんだよ!」

「そんな奴の眼鏡は没収だー!」


男子にもみくちゃにされて、ついでに眼鏡も取られたが、笑いは止まりそうにない。


「「「あー!御子柴見つけたーーー!!」」」

「ハハハッ、これ、さっきも見た光景なんだけど」

「あとこれ何回続くんだ?」

「さぁ?」






この後、あと2回同じような光景が繰り返され、その頃にはようやく俺の笑いも収まっていた。


「みんな頭良いのに馬鹿だよね」

「な~にをぅ?」


井村が顎をしゃくれさせて鬼のような形相になったので慌てて訂正を入れる。


「悪い意味じゃなくて」

「どっからどう聞いても悪い意味だろが」


たしかに。


校長先生は三郎太を家に帰すためにさっき別れた。今はクラスメイトたちだけで学校に向かっている。


「あぁっ、みんな!あと5分くらいで試合が始まりそうだって連絡が!」

「「「な~にをぅ?」」」

「しゃくれてる場合じゃないよ!」


一斉に走り出したクラスメイトの後を追いかけながら、近くにいた香織に走りながら話を聞いた。


「試合ってまだ始まってなかったのか?」

「うん!私たちは2年生のときに優勝したから、はぁ、はぁ、今年は、シード枠で、んっ、2回戦からなんだよ」


何がとは言わないが、うん、(なま)めかしいな。


それからは何も考えずにただひたすら走り続け――途中で競争になりかけたが、もとやんが派手にズッコケたのでやめた――正門、ではなく裏門に辿り着いた。


正門から行くと全員で外に出てたってバレて怒られるので、出たときと同じく、こっそりと入る。


最初は動きの速い運動神経抜群の数名が裏門に飛び込む。そして誰もいないことを確認して、俺たちに合図を送ってきた。


その合図がなぜかしゃくれ顔だったが。流行ってるのか?俺もしゃくれてみたほうが――、


「こらーー!!そこでなにしてるお前らー!」


3階の窓から目敏く俺たちを見つけた生徒指導の厳しい先生が怒鳴ってきた。


「やべ!早く校舎に入るんだ!」

「各自教師に見つからないよう、バラバラになって体育館に集合だ!」

「しばちゃんは30秒で支度しな!」

「えぇ~?」


たとえ俺がどこかに行っても連れ戻してくれる人たちがいる。それはときに煩わしく感じることもあるかもしれないが、自分の居場所があるという証明でもあって。


「幸せ者だよな~」


贅沢な幸せをかみしめるのだった。


「もう30秒たったぞ」

「ほんとに30秒で着替えろって意味だったんだ!?」



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