まいごのまいごの
球技大会2日目………の朝のこと。
「学校に行く前に懸賞のはがき出してきて」
「けんしょう…?」
「ぎゅうじるしの牛乳パックのバーコードを20枚集めて応募すると、抽選で商品券がもらえるんだ」
「どおりで最近、牛乳が入った料理がよく出てくると思ったら。さっすが秋くんね!」
秋人は朝ごはんを食べ終わって洗った食器の水気を布巾で拭いて、香苗ちゃんはお化粧という名の武装をし、俺は冬瑚の髪を三つ編みに編んでいた。
ホワイトシチューやらグラタンやら白い料理が多いと思ったらそういうことか。俺はてっきり秋人の身長が最近伸び悩んでいることが原因かと――
「まだ成長期だし!兄貴なんてすぐに追い越すんだからな!」
ありゃ?もしかして、
「心の声、漏れてた?」
「だばだばに漏れてたよ、夏兄!」
「その擬音はなんかやだな」
ありきたりな、いつも通りの日常。
この時までは、そう思っていた。
「は、はは、はっは~はがきをポ~ストにイーン」
テキトー極まりないリズムを口ずさみながらポストにはがきを入れた。これで秋人からの任務完了っと。
俺が知っているポストのある場所は、いつもの通学路から少し外れたところにあったので、今日はいつもとは違う道から学校に向かうことにしたのだが…。
後ろから突然、制服をギュッと引っ張られてよろめいた。
「うおっ!?」
慌てて後ろを振り返るが、誰もいない。うそだろ、まさか心霊現象とかそういうあやふやな類のあれが俺の身にも!?
「へっへっへっへっ」
「うん?」
心霊現象かと一瞬期待したのだが、心霊とは真逆の、生命力にあふれた活発な息遣いが聞こえてきた。振り返った視線をそのまま下に降ろすと、アーモンド形の黒々とした瞳とかち合った。
「わんこ?」
「ワン!」
「いったいどこからやってきた……んわぁ!」
きなこ色のラブラドールレトリバーが口角を笑っているように上げながら、勢いよく俺に飛びついて来たのだ。不意打ちだったから(と思いたい)支えきれずに歩道に座り込んだ。
べろべろべろべろ…
「なまあたたかいよぉ…」
俺の顔面にエサでも塗りたくられているのかと思うほどに一心不乱に舐めまくるわんこの前足の下に手を潜り込ませ、腹筋に力を入れて持ち上げる。
「はっはっはっはっ」
抱っこのような状態になってもなお尻尾をぶん回しながらにっこり笑っているわんこの首には、赤い首輪が付いていた。
「お前、もしかしなくても脱走してきたな?」
「ワフッ!」
いつもと違う道を通ったら、まいごのまいごのわんこちゃんに出会いました。
―――――――――――――――――
智夏が犬にびちょびちょに舐められている頃。
「球技大会2日目、気合入れていくぞー!」
「目指せ焼き肉!」
「お好み焼き!」
「バイキング!」
「あれ?寿司じゃなかったっけ?」
徐々に登校する生徒が増えてきて、高校生活最後の球技大会にむけて教室の温度が徐々に上がっていく。
「おやおやおや~ん?しばちゃんは?」
「御子柴?………いないな。いつもならとっくに登校してる時間だろ?田中と違って」
「井村は俺に厳しくないかい?」
「御子柴が甘やかすからな。俺は厳しい担当だ」
「そんな担当いらねーよ!」
遅刻まで残り12分。
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「飼い主らしき人は見つからないなー」
「わふん」
「匂いとかでわかんないのか?」
「へへっへっへっ」
照れたように笑うわんこのリードを持ちながら、周辺を歩き回って飼い主を探すが、いまのところ収穫ゼロだ。
「照れ笑いみたいな顔すんなよ。褒めてないからな」
「ワン!」
うちには猫がいるから、犬と関わったことはあまりなかったが、可愛いなぁ。横にぴったりくっついてくれるし。ハルは飽きたらすぐにどっか行っちゃうから新鮮だ。
「あの高校生の子、犬と喋ってる~」
「か~わ~い~い~」
き、聞かれてた……。
「キャウン」
「おまえもしかしてオスだな?」
女性を前にして急にしおらしくなりやがって。まっくろおめめがキュルルンしてやがる。
「うん?首輪になんか書いてある…?」
数字が書いてある。これは…。
「電話番号か!」
10分くらい脱走犬と散歩してようやく手がかりが!まさに灯台下暗し。
遅刻まで残り10分。
~執筆中BGM紹介~
銀魂より「反抗声名」歌手:あゆみくりかまき様 作詞:TENGUBOY様 作曲:APAZZI様・U.M.E.D.Y.様




