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おいた

最初は彩歌のマネージャー友永の視点です。



智夏が眠りから完全に醒めて、寝惚けてやらかした行動の数々に時間差で羞恥していた頃。


彩歌(さいか)、急いで!そろそろ出ないと遅刻…、ってどうしたの?」


走って車に乗り込んできた彩歌の顔を見ると、顔は真っ赤で涙目になっているではないか。


「そ、それは言えないっス…!……あっ。~っ!!」

「あーはいはい。ごちそうさま。それじゃあ仕事までには切り替えてよね」


心配して損した、と呆れてシートベルトを締める。


恥じらう乙女の顔をしていた彩歌は、咄嗟に赤くなった顔を隠し、彼シャツ萌え袖になっていたジャージから彼氏の匂いでもしたのか、くんくん、と鼻を動かし、そして無意識に行為に気付いてまた恥ずかしがっていたのだ。


「あ~あ。私も彼氏がほしーなー!」


マネージャーを務めて早数年。仕事と結婚するんだ、と決意を固めて入社したものの、今では老後の心配が止まらない。それになにより、恋愛をして素敵なパートナーに出会いたいと、恋愛浮かれぽんちな友人を片目にそう思うのだった。






――――――――――――――――――――






「チーちゃ~ん?」

「エレナさん顔が怖いです顔が。泣く子がさらに泣きじゃくりそうな顔です」

「だまらっしゃい!私はいつだって可愛いわ!」

「あ、はい。おっしゃる通りで」


保健室のベッドの上で正座をしている俺と、ベッドの正面で仁王立ちしているエレナ。この構図はまるでワンコがはしゃぎすぎて飼い主に叱られているかのような…。


「私の彩ちゃんをいじめてくれちゃったらしいじゃない?」

「い、一体何のことだが…」


これはあれだ、俺が彩歌さんにやらかしたことの大半がばれてるやつだ。だがしかし、そうとわかってはいても、かすかな希望に縋りたくなるのが人間というものの悲しい(さが)である。


「ちょーっと、()()()が過ぎたんじゃなくて?この駄犬!」

「わおん…」


ここで「寝惚けてて…」なんて馬鹿正直に言ったら首輪を付けられて犬小屋にぶちこまれそうなので口を固く閉じておく。


「でもまぁ、2人がラブラブで安心した」

「らぶらぶ」


第3者からそんなことを言われると照れるな~。へへ、と照れ隠しに笑ったら道端の糞を見るような目で見られた。解せぬ。


「彩ちゃんは年上だから~って変なブレーキかけてるし、チーちゃんはチキンだし」

「待て。もしかしてエレナの言う、チーちゃんってチキンのチーちゃんって意味じゃないよな?」

「…」

「え…」


沈黙は肯定ってやつですか?


「あ、そうだ。私たち、優勝したわよ」

「…あ!え?試合が途中で中断したのに結果が出たのか?」

「「あ!」って。もしかして試合中だったこと、いま思い出したの?」

「い、いや~」


起きたら彩歌さんが目に飛び込んできたから、試合中だったこととかポロっと零れ落ちてた。そういえば俺、試合中に倒れたんだった。そうだったそうだった。ラケットが飛んでくるとか超びっくり。


「アンドレイが真っ青になってたわ」

「全然大丈夫なのに、なんだか申し訳ないな」


皆の前で倒れちゃったからな~。わざとじゃないのは誰の目からも明らかだし、どう見ても事故なんだから別にいいのに。


「ちょっともっこりしてるわね」

「おでこがな」

「おでこ以外にどこがあるのよ」

「どこって………。教室の間のもこっと出た柱とか?」

「あれってもっこりって言うんだ~」


学校によって呼び方が違うらしいけどな。桜宮高校ではあの柱のことを「もっこり」と呼んでいる。呼び始めたのは俺じゃないから。……俺じゃないから!


「それでね、アンドレイが真っ青になったのを見て、坂井さんが棄権を申し出たの。だから私らエレ柴ペアが繰り上げ優勝ってわけ」

「そっか。なんか実感わかないな~」

「優勝は優勝なんだから、とりあえず」

「「おめでとう」」


パンっ


エレナとハイタッチを交わす。決勝戦はこんな形になってしまったが、準決勝までは一緒に頑張ってきたのだ。祝われるのも、祝うのも、最初はペアのエレナが良い。


「エレナの足を引っ張らなくて済んだか?」

「当然よ。チーちゃんは立派だったわ。お母さん感激」

「こんなお母さんやだなー」

「なにー!」


エレナと騒いでいたら、保健室の先生に笑いながら追い出されてしまったので、のろのろと教室に戻ることにした。この時間ならもう球技大会の1日目の日程は終わって、クラスメイトは誰も残っていないと思っていたのだが。


「しばちゃん!」

「智夏君!」

「師匠!」

「「「御子柴!」」」


友人たちが残ってくれていた。その理由は勿論、俺を心配してのことだ。


「ちょっとおでこが腫れただけで、あとはなんともないよ。心配かけてごめん。それと、待っててくれてありがとな。ずっと待ってて暇だっただろ?」


球技大会の終了時間から30分以上経っていた。


「いや全然。ずっとこれ見てたんだよ」


田中のスマホの画面を覗くと、それはよく知っている動画だった。


「『四界戦争』のPVを見てたんだ!やっぱりすごいね、智夏君!」


苦労して作ったBGMが使われた『四界戦争』のPVが公開されていたのだ。数時間前に配信されたにも関わらず、急上昇ランキングに入り、SNSでは『四界戦争』に関するワードがトレンド入りしていたのだった。


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