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どこのギャルゲーだ

左肘の痛みが治まったと思ったら今度は右肘がぁ・・・!




『お星さまカフェ』の隅で、スキンヘッドが眩しい加賀さんと向き合って話をする。


「つまり、佐藤監督は満開アニメーションの創設時にかなりの額を出資した人のお孫さんで、お飾りの監督である、と」


1時間ほどの話を要約するとこんな感じであった。というかほぼ愚痴だった。要はコネ入社というやつである。


「あっこれ社外秘の情報だから内緒ね」


口元に人差し指を当てながら、しーっとジェスチャーをしてきたが如何せん推定40過ぎのおっさんがやっても可愛くない。どこに需要があるんだ。

最初の印象が最悪すぎて、この人に対してはどうしても辛辣になってしまう。


「わかりました。口外しません」

「話が早くて助かるよ」


どこの悪役のボスのセリフだよ。


「では、作曲に関しては加賀さんに聞けばいいってことですよね?」

「そゆこと。遠慮なく聞いてくれ。そういえば春彦ちゃんは、」


最初は春彦様となぜか呼ばれていたので、呼び捨てで構わないと言ったところ、なぜか春彦ちゃんになった。


「春彦ちゃんは、恋愛アニメは初めてって聞いたけど、やれそうかい?」

「原作の小説を読んで、2曲ほど作ってみたんです。けど、ちゃんとできているか不安なので、聞いてもらっていいですか?」

「もう2曲も作ったの!?はぁ~最近の子は仕事熱心だね~」


感心感心、と言っている加賀さんに持ってきたイヤホンを渡す。スマホに入れておいた曲を再生する。まず最初に流すのは、主人公のヒロインとヒーローの出会いのシーンをイメージして作った曲。曲目は 『girl meets boy』、高校三年生になった翌日に事故に遭ったヒロインが、偶然同じクラスのヒーローと病院にて邂逅するシーンである。1分弱の曲を最後まで聞き、加賀さんが真剣な面持ちで口を開く。


「もう一回聞かせて」

「はい」


今度は目を閉じて、耳に神経を集中させて聞いているようだ。出会い頭の土下座の姿から打って変わって、歴戦の将の顔になっていた。さすがは『音の番人』と呼ばれているだけはある。

曲をリピートすること3回。曲が終わり、ゆっくりと口を開く。


「しっとりとした良い曲だ。だが、これでは足りない」


それは俺も思っていたことでもある。だが、何が足りないのかわからず、こうして持ち込んで直接聞きに来た。


「いや、足りないというか、減らすべきだ」

「減らす?」


それを聞いてハッとする。あぁ確かに、どうして今まで気づかなかったのか。


「おや、自分で気づいたようだね。さすが『泡沫の夢』の作曲者なだけはある」

「・・・」


嫌味にしか聞こえないのは俺の心が荒んでいるせいなのか。


「主人公の出会いのシーンでは、互いに心の中の大切ななにかが足りない状態だ。それを徐々に埋め合わせていくことで、物語は進んでいく。だから、出会いのシーンでこの曲は重厚すぎるんだよ」

「そうですね。ありがとうございます。では次はこれを」


次に流す曲はヒロインが虐められているときに心の中で独白をするシーンをイメージして作った曲である。これも3回リピートしたのち、1、2個アドバイスをもらった。


『月を喰らう』での曲作りとはまた違う面白さである。『月を喰らう』で作った曲は自分の過去の追体験、つまり自分に置き換えていた。それに対して『最後の恋を、君と。』では自分の感情は一切干渉していない。すべて小説の雰囲気、主人公たちの感情などをひとつひとつ丁寧に掬い上げ、手探りで作っている。


この話を社長から受けたとき、恋愛アニメという未知の領域に踏み込む恐怖があった。しかし今となってはもう、わくわくが止まらない。自分の知らない感情を知ることができる、自分の成長を感じることができる、これが面白くてたまらない。そんな感情が声に出ていたのだろうか、加賀さんが引いていた様子だった。解せない。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




バンドの練習もなく、ドリボのバイトもない本当の休日。久しぶりにゆっくりできると二度寝を決め込もうとしたときであった。彼女が布団を勢いよく捲りあげたのは。・・・ん?彼女?

重い瞼をこじ開けて俺の布団を持つ人物を見つめる。なぜだろう、俺の部屋にカンナの姿が見える。


「・・・夢か」


美少女が朝から起こしに来るとかどこのギャルゲーだ。これは夢、夢のはずだ。だが不思議なことに髪をいじられている感覚がある。それに、「ふふっ寝顔も可愛いわ」「髪さらさら」など幻聴まで聞こえる始末。


「ねぇ起きて、智夏。起きないと・・・・・・」

「起きないと何する気!?」


思わず飛び起きてしまった。言葉の途中で止まると気になっちゃうよね。いろんな妄想が爆発しちゃうよね。だって男の子だもん。


「デートに行くわよ。30秒で支度して」

「えぇ?・・・えーーーーーーっ!?!?」


デート!?デートってあの!?っていうか30秒で支度って・・・


「リビングで待ってるわ」


そう言い残して部屋を出たカンナ。処理が追いつかないから順を追って思い出そう。今日は休日→ひゃっほー二度寝だ→ちらりとカンナが見えた→夢かと思った→現実だった→デート行こう・・・どういうこっちゃ。わけがわからないけどとりあえず着替えよ・・・。

のっそりとベッドから降りてクローゼットに向かう。すると部屋の外から声が聞こえた。


「残り20秒よ」


リビングに行ったんじゃなかったのか。しかも10秒をきってからは1秒ごとにカウントされた。怖いわ。

急いで着替えて扉を開ける。5秒間くらいゼロのゼを伸ばしながら言ってくれたおかげで間に合った。というか伸ばしてくれるなら急かさなくてもと思ったが、口に出すと絶対面倒なことになるので言わないでおく。


「寝癖がついたままじゃない。まったく」


そう言って、カンナの白く細い指が俺の頭に触れる。カンナは寝癖に意識がいっており気づいていないが、現在かなりの至近距離にカンナの顔があった。それはまるで男女がキスをする直前の距離のようで。ふんわりと甘い匂いが鼻をかすめて、もうどうしたらいいかわからない。唐突に「据え膳食わぬは男の恥」という言葉が頭をよぎる。消えよ邪念!手を出したら最後、親衛隊に始末されるぞ!他のことを考えろ、あれだ!円周率を唱えよう。3.1415・・・あれ?ここから先がわからない。


というか、頭を撫でる心地よい感触がいつの間にか止まっている。意識を現実に戻してカンナを見ると、真っ赤な顔で静止していた。


とりあえず、よしよしと頭を撫でると涙目で抗議された。なぜだろう。





~第7回執筆中BGM紹介~

僕のヒーローアカデミアより「僕が君のヒーローになる」作曲:林ゆうき様


みなさんのおススメの曲をぜひ教えてください!感想欄にてお待ちしてます。(*- -)(*_ _)ペコリ

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