次回予告
彩歌さんから爆速で激励の返事が返ってきた。
「子供っぽいって思われて……ない?」
「当たりまえ~。むしろかっこかわいいって思われてるはず」
高校生っぽいことを伝えるのは未だに抵抗感があるが、彩歌さんの不安が軽くなるのならやぶさかではない。そう気づかせてくれたのがエレナだってのはなぜか悔しいけど。ずっと面倒見てきた妹に突然、諭された感じ?そうだ、きっかけといえば。
「ところでさ、さっきの動画って誰が撮ってたんだ?」
俺が最後に得点を決めたところが動画に撮られていたが、エレナは俺とコート内にいたので除外するとして。そうなると誰が撮っていたのだろうか。
「それは…」
「それは?」
キョロキョロと視線を泳がせているところから察するに、情報源は言えないってことだろうか。エレナはなにか意を決したように拳を握ると、上目遣いでポーズを決めた。
「ゆ・る・し・て?」
最近流行りのCMのセリフであることはわかる。「あますぎても、ゆ・る・し・て?」って人気女優さんが恋人に向けて言うように、はにかみながら言ってくれるチョコ菓子のCM。
「…………………そろそろ第二試合が始まるから、先行ってるぞ」
「せめて笑いなさい!!!」
顔が真っ赤になるくらい恥ずかしいならやらなければよかったものを。居た堪れなくなって教室を出ると、理不尽な要求と共に飛び蹴りが文字通り飛んできた。
「ッぶね!試合前に病院送りにするつもりか!」
「チーちゃんが笑わないからいけないんだよ!」
「俺のせい!?」
ギャーギャー言い合いながらも、試合に遅れないように体育館に向かう足は止めない。生徒たちの熱気で気温が3度くらい上がった体育館に足を踏み入れる。
「お前らどこ行ってたんだよ?俺の華麗なるヘアピンショットが炸裂したってのに」
体育館の入り口のすぐそばであぐらをかいて休憩していた田中に早速絡まれた。
「作戦会議?」
「なぜ疑問形」
正直に「女心についてお説教されてました」なんて言ったら彼女がいること自体バレてしまう。だから嘘をついたのだが、後ろめたさが出てきて最後に疑問形になってしまった。
エレナは体育館に入るなり「素振りしてくるわ」と背中に炎を背負いながら去っていった。
「歴戦の猛者か」
「ただの祭り好きだよ。「江戸っ子の血が騒ぎますわ!」って言ってたし」
「江戸っ子て。エレナさんはそもそも日本出身でもないだろ」
「魂は江戸っ子なのさ」
「どういうこっちゃ」
けらけらと笑いながら体育館に目を向ける。
「いっっっけぇ!!」
「俺にパス、持ってこーい!」
「スマーーッシュ!!」
みんなテンションがおかしいくらいに上がっている。受験前のイベントをめいっぱい楽しみたい、という気持ちの表れなのだろう。
「そーいえば、田中は勝ったのか?」
たしか、俺らのすぐ後に田中たちのチームが一回戦だった気が。
「もち」
「そっか。おめ、」
「負けた」
「負けたんかい!」
ドヤ顔でサムズアップしながら言うな、紛らわしい。
「友の屍を超えて…。次回、御子柴、死す―――!」
「それ俺負けてるし死んでるし。次回予告風に殺すのやめろ」
屍にしては元気すぎる田中と騒いでいたら、放送で名前を呼ばれたので、コートに向かう。コートにはすでに江戸っ子ロシア人のエレナがスタンバイしていた。
「血を流さずして勝つ…!」
「うん。それが普通なんだわ。良い子はスポーツマンシップに則って楽しくプレーしましょうね」
死神スナイパーエレナに敵う猛者はコート内にはおらず、2回戦、3回戦、準決勝とどれもストレート勝ちで進んでいった。
ちなみにコートの外では3回戦で応援に来ていた香織に、ふにゃんふにゃんになっていた。香織は猛獣使いの称号でも持っているのだろうか。テレビのアニマル特集でたまに見かける、ライオンがまるで猫のように人間に懐いている姿。エレナが香織に手懐けられている姿はまさしくそれだった。
そんなこんなでエレ柴ペアは決勝まで残ったのだ。
「誰も欠けることなく、この決勝の地まで辿り着くとは。我らの道のりは決して平坦なものではな、」
「中二病か己は。急に日本語ペラペラになりよって」
エレナの日本語レパートリーは一体どうなってんだか。平坦とか意味わかって使ってるんだろうか。2回戦から向こう、毎回こんな感じでエレナが中二病を患うのでツッコミが面倒になってきたのだが、今回は決勝戦だからか、俺にツッコまれて終わりではなかった。
「つべこべ言うな雑兵が!」
「雑兵じゃねぇよ!」
「試合始めまーす」
そんなわけで、ぐだぐだな決勝戦開始!
~執筆中BGM紹介~
遊☆戯☆王デュエルモンスターズより「あふれる感情がとまらない」歌手・作詞・作曲:生沢佑一様




