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ちょはっかい

12月になりましたが、作中では5月!



勝者がいれば敗者もいるわけで。


残念ながら一回戦敗退となってしまった大原さん、小南君の大小ペア。特にミスが多かった小南君の落ち込みようは、それはもう見ているこちらまで気落ちしそうなほどだった。


「じゅりあ…じゃなくて大原、ごめん。俺のせいで負けちゃって……」

「たしかに、小南のせいかもね」

「うっ…」

「でも、それは半分。もう半分はあたしのせい。ふふ、まったく、打たれ弱いのは相変わらずだね」

「大原……おれ、」


エンダァァァァイアァァァァ


いま、高校生カップルの復縁の瞬間の目撃者になった。これがつり橋効果ってものだろうか。死神スナイパーエレナによって命の危機に晒されたことで恋が再び生まれた、とか?


「死神でもスナイパーでもなくて、恋のキューピットだったのか…」

「ハァ?それよりさ、チーちゃん。見てよコレ」

「なにを?……っ!これって!」


エレナに見せられたのはスマホのトーク画面だった。表示されている会話相手のアイコンと名前は俺がよく知っている人物で、弾かれたようにエレナを見た。


「なんでエレナが彩歌(さいか)さんと…!?」

「なんでって、前に仲良くなったから?」


コテン、と首を傾げてエレナが答えた。前に…?……あ、そういえばエレナが転校してきた当初に彩歌さんと3人で話したことがあったな。あのときに連絡先を交換していたのか。


って待て待て。


さっき見たトーク画面にはエレナから彩歌さんに向けて一本の動画が送られていた。


「その動画って」

「へへ。チーちゃんの最後のショットをドーガで撮ってもらってたのを送ったんだ~」


ほほう。なるほどね。


「消せ!既読が付かないうちに消すんだ!」

「やーよ!さい(彩歌)ちゃんにチーちゃんのドーガを送るって約束したんだもん!」

「だもん、じゃなくて!」

「なんでダメなの!?チーちゃんかっこよかったよ!」

「そういうことじゃなくて…」

「もう!ちょっと来て!」


エレナに引っ張られて移動して初めて、自分たちが注目を集めていたことに気付いた。俺たちの次のグループの試合が始まり、俺たちが何を話していたかは歓声で周囲には聞こえていないだろうが、念のため場所を移動する。


誰もいない教室にエレナと戻ると、扉を閉めるなり正面から両肩を掴まれた。


「チーちゃんは悩んでるの?」

「いや…」

「嘘はダメ!」


肩を掴まれているため逃げ場はない。無理やり力づくで引き剥がせば逃れられるだろうが。でもなぜだが振りほどこうとは思えなかった。その代わりとでも言うように、言葉が零れ落ちる。


「彩歌さんと俺には、その、年の差があってだな」

「知ってる」


だからなんだと形の良い大きな瞳が問いかけてくる。この先を言葉にすると、なんだか自分がさらに情けなく思えてきて声が小さくなっていく。


「、、、ない」

「大きな声でハッキリと!」


ビリリと空気が震えるくらいに覇気の籠った声でエレナに注意され、幼少期の癖というか、反射的に答えてしまった。


「高校生の姿の俺を見られたくないんだよ!」

「……え~?なんで?」

「ガキだと思われたくないんだ!言わせんな!」


こういうことを考える時点でガキだということはわかっている。でも、男ってやつは、いつでも好きな人の前ではカッコつけていたい生き物なのだ。


「ダーダー。そゆこと」


俺の言葉にふむふむと頷いて、そして。


「バッッッッッカじゃないのー?」


力いっぱい馬鹿にされた。


「さいちゃんは言わないけど、ホントはチーちゃんから学校の話を聞きたいんだと思う」

「俺から?」


首を傾げる俺にため息をつきながら、エレナは女心についてレクチャーしてくれた。


「自分が知らないところで彼氏が何をしているか、知りたいと思うのは普通じゃないの?チーちゃんが学校でどういう風に過ごしているかわからないから、不安なのよ」

「不安…」

「だーかーら!他の女にちょはっかい出されないか心配でたまらないってこと!」


ちょはっかい…猪八戒…?うーん、あ、ちょっかいのことか!


他の女にちょっかいを出されないか心配、してくれているのだろうか。俺が彩歌さんと仲が良さげな声優さん達にやきもきしているのと同じように。


「チーちゃんは彼女を不安にさせてまで、意地を張りたいの?」


彼女の気持ちか、男の意地か。そんなの比べるまでもない。


「俺からも彩歌さんに、球技大会のことを伝えてみるよ」

「うむ、それがよい!」

「ありがとな」

「さいちゃんのためだからね」

「はいはい」


スマホを取り出して、彩歌さんにメッセージを送る。






――――――――――――――――――





アフレコが終わり、切っていたスマホの電源を付けると、エレナちゃんから動画が送られてきていたことに気付き、トイレに駆け込んだ。


個室に籠ってスマホにイヤホンを挿し、動画を再生する。


「~~~~~~っ!!カッコよすぎっス…!しかも最後の笑った顔!かわっ、かわよ!!」


貴重な動画を送ってくれたエレナちゃんに感謝の言葉を送りつつ、これを実際に見ることができなかったことに悔しさを覚える。


今度制服を着て潜入しちゃおうかな…、と半ば本気で考えていたとき、一通のメッセージが智夏から届いた。


『一回戦突破!』


たったの五文字。されど五文字。いままで智夏からはあんまり高校の話をしてくれなかったから、こうして話してくれたことに、自分でも驚くほどに心が躍った。


返事は何を返そうかな~。


~執筆中BGM紹介~

「I Will Always Love You」歌手:Whitney Houston様 作詞・作曲:PARTON DOLLY様

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