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エレ柴ペア



「少年少女達の全力がぶつかり合う、ここ第二体育館では現在バドミントン男女ミックスダブルスの第一試合が行われております。実況は、バドミントンまったくの未経験者であるわたくし田中と、」


バドミントンのラケットのグリップを逆さに持って、マイクのように持つ田中がエセ実況をし始めた。そして突然マイクもどきを向けられ、巻き込まれたであろうもとやんが戸惑いながらも実況ごっこに参戦した。


「え?マイクに向かって喋れって…?お、同じく未経験者の元山です」

「未経験者2人だけのなんちゃって実況を始めていきたいと思います~。いぇ~い、ぱちぱちー」


田中ともとやんの2人が面白いことを始めたようだと、周りの試合待ちの生徒たちが集まってきた。田中め、余計なことを…!


「第一試合Dグループでは、東軍、A組エレナ&御子柴ペア!」

「有名なスポーツ選手のペアは名前をもじってペアの名前を作ってるよな」

「あ~、じゃあエレ柴ペアで!」

「「「エレ柴ペア…」」」


田中の思い付きで、新種の柴犬のようなペア名ができあがってしまった。


「頑張れよエレ柴ペア~!」

「期待してっぞエレ柴!」

「頑張って、エレ柴ー!」


バドミントンのコート内にいるエレナと俺は視線と声援に囲まれてしまった。エレナは満足そうに手を振っているが、俺は緊張がピークに至っていた。


「うぅっ…。灰になって消えてしまいたい…」


この後さらすであろう羞恥をこの場にいる全員に見られるのかと思うと、想像だけで滅べる。今のうちに自分の墓穴でも掘ってこようか。スコップスコッ…


「このチキン野郎が!」

「……エレナ!どこでそんな汚い言葉を覚えてきたんだい!お父さん許しませんよ!」


誰だそんな言葉を教えた奴!思いっきり目を逸らしたラケットをマイクにしていた野郎に怒鳴る。


「田中か!なんて言葉を教えたんだよ!エレナはそれはもうトイレットペーパーのように新しい日本語を吸収してくんだぞ!」


―――メリメリメリ


あれ、なんだこの音?なぜか俺の左肩からメリメリ聞こえ……あ。


「ちょっとチーちゃん?例えがおかしいってことはわかるんだからね?」


エレナの細い指が俺の肩にメリメリ食い込んでいた音だった。エレナさんはりんごを片手で潰せるタイプの女の子かな?


「……さーせん!」

「サァセン?」

「美しいエレナ様、大変申し訳ありませんでしたって意味」

「チーちゃんよくわかってる~」


パっと手が俺の肩から外された。死神が肩に乗っているような感覚ってこういうのを言うんだな。まさか平和な日本でこんな戦場のような体験をするなんてな。


そもそも、なぜコート内に待機しながら試合を始めていないのか、疑問に思ったことだろう。誰がって?それは、画面の前のみんn…


「先生やっと来た~!」

「すまん。前の試合が押してたんだ」


それは審判の先生がいなかったからだ。別に生徒だけでやってもよくないかとも思うのだが、公平な審査をするためとかなんとか。


まぁ要するに今から試合開始というわけだ。


「「よろしくお願いしま~す!」」


どちらが先にサーブかを敵方の女子とエレナがじゃんけんで決めている間に、忘れていたなんちゃって実況が復活する。


「我らがエレ柴ペアに立ちはだかるは、B組大原、小南の大小ペアだァー!!」


大原さんは小柄で小南君はめちゃ大きい。苗字と逆で面白いな。


「元B組のもとやん、何か大小ペアに関する情報はありますか?」

「ここだけの話ですが、」


いや、待ってもとやん。ここだけの話って、結構人がいますけど?


「大小ペアは元カップルです」

「もとやん…」


それ言っちゃいけんやつやん…。小南君が目を逸らし、大原さんはクラスの友人たちに手を振っていた。ひぇ、気まず。


「チーちゃん、はい、サーブ」

「へ」


ポーンと放物線上を描いて俺のラケットの上に落ちてきたシャトルを手に取ってコートの中央、サーブ位置につく。


狙う以前にサーブを、対角線上の敵チームのコート内に入れなければいけない。ラケットの前にシャトルを構える。


「試合開始!」


審判の声を同時にサーブを打つ。


カーン、とラケットの縁に当たった間抜けな音がしたが、なんとか敵方のコート内に入った。


「サーブを放ったのはA組の御子柴。球技全般というか体育競技すべてが苦手分野の彼がサーブを入れたという事実に俺はもう涙が零れそうです」

「ししょ…御子柴の顔が赤いですね」

「もう疲れてしまったんですかねぇ」


違うわ!恥ずかしいんだよ!


「御子柴のへっぽこサーブを返したのは、バスケ部の小南君だー!」

「噂によると、部活にかまけすぎて彼女を放置してしまったから振られたとか」

「私と仕事、どっちが大事なの!?の高校生バージョンですね」


小南君の大きな体がしゅんと小さくなっている。


それを見過ごすほどうちの死神様はあまくないんだよ!


「ドゥオラッシャァァァ!!!」


死神様、もといエレナのスマッシュが小南君の足元に決まった。


「よっ!エレナ!」

「かっこいいよ!」

「素敵!」


A組のメンツからの掛け声に満足そうにするエレナだが、ドゥオラッシャァァァて。それでいいのかお嬢様。


~執筆中BGM紹介~

ボールルームへようこそより「Invisible Sensation」歌手:UNISON SQUARE GARDEN様 作詞・作曲:田淵智也様

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