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バドミントン

新章開始であります!



「お前ら座れ~」


我らが担任の吉村先生(ヨシムー)は今日も今日とてダルそうに朝の教室に入って来た。


「もう座ってるよ~」

「俺らのこと小学生だと思ってんのか~」

「馬鹿ヤロー、小学生はもっと教師のことを敬ってるだろが。お前らも小学生を見習ってちょっとは俺を敬え」

「「「無理」」」


生徒にナメられているヨシムーであるが、進路相談は意外と親身になってやってくれるし、ノリもいいしで、俺たちにとっては結構良い先生だったりする。なんて思っていると、今日の連絡事項を言い終えたヨシムーが「つーわけで、」と言葉を続けた。


「高校生活最後の球技大会が始まるぞ。金曜までに誰がどの種目に出場するのかリストにまとめて提出な~」


最後の球技大会!ラスト(L)球技(K)大会(T)


ヨシムーが教室から出て行き、1時限目が始まるまでの短い時間で、球技大会の話題であちこち盛り上がっている。


「なぜ2年生のときとは時期が違うの?チーちゃん」


――ポキポキッ


「うげっ」


プラチナブロンドの眩い髪を持つ美人な俺の幼馴染のエレナ・トルストイが俺の頭をグイッと後ろに倒した。首の骨が鳴る音ってなんでこんなに不気味なんだろうね。折れてないか心配になるんだけど。


「2年生までは冬に球技大会があったけど、3年生の冬は受験シーズンだから。被らないように春にやるんだ」

「早合点承知」

「”早”はいらないかな」

「合点承知!」

「ハラショー!」


ロシア語のハラショーはたしか”良い”とかそういう意味だったような。


高校3年生のイベントは全てに「最後の」と付くから、嫌でも終わりを予感させられる。高校生活が終わるのは嫌だし、受験期もピリピリと独特の緊張感が漂っていて苦手だけど、一番は不安なのは高校を卒業した後の自分の姿が想像できないことだ。








―――――――――――――――――――――






――びちゃびちゃびちゃびちゃ


「1年、2年と球技大会で2年連続顔面キャッチを披露してくれたしばちゃんがさ、今年はどんな顔面キャッチをお披露目してくれるのかと、めちゃ期待してたわけ」


俺の着ているTシャツの背中に書かれた”顔面キャッチが十八番(おはこ)”は伊達じゃない。


「俺も。今年こそは田中の顔面に送球するのを楽しみにしてた」


”実は田中はシスコンだってばよ!”とTシャツの背中に書いてある田中と窓の外を眺めながらため息をつく。


「「ハァ~」」




球技大会1日目。


本日の天気はバケツをひっくり返したかのような、大雨である。


2年生のときと同じく、俺たちは野球を選択していたのだが、グラウンドは水たまりだらけで今もなお雨は降り注いでいる。屋外の球技には雨が降ったときのために、もう一つ屋内球技が予定されていた。


「お前らバドミントンでも優勝すっぞーーー!!!」

「「「うぇーい…」」」

「テンションひっっっっく!お通夜か!」


球技大会になると血が騒ぐ鈴木が、教室の扉を開け放って叫んだが、教室内は空気も人もジメジメとしている。


元々屋内競技の生徒たちはそこまでテンションは低くないのだが、屋外競技組のテンションが低すぎていまいち盛り上がらないのだ。その点については申し訳ないと思うんだけどね、でも「二連覇するぞー!」と気合を入れて挑んだらコレだもの。テンションもそりゃ下がりますよ。


「みんな元気だそ?バドもきっと楽しいよ!」


”香織ちゃんのお通りだぁ!”Tシャツを着ながら、今年はバレーボールに出場予定の運動神経抜群女神系女子の香織がジメジメした俺たちを励ましてくれる。


「ジメジメといったら、なめくじみたいだな…」


今年からA組に仲間入りしたもとやんが、俺たちをなめくじに例えた。その背中には”ドジはチャームポイント”と書かれていた。


「そっか…」

「俺たちはなめくじなんだな…」

「塩かけたら消えるな…」


田中、井村、玉谷がジメジメと返す。正直言って、俺はみんなと一緒に楽しめれば野球でもバドミントンでもなんでも良かったのだ。


「しょうがない、ちょっと待ってて。呼んでくるから」

「「「誰を???」」」


なめくじ3人組に返事はせず、教室を出て目的の場所に向かい、ある人物を引っ張ってくる。


「おーい御子柴?なんで俺は連行されてんだ?」

「人柱になるためです」

「だれか呪いたいやつでもいるわけ?」


ガララ、と教室の扉を開けて目的の人物、ヨシムーと共に教室に入り教壇に立つ。


「総合優勝したらヨシムーがお寿司おごってくれるって!」

「「「まじで!?」」」

「え、まじで?おごらされる本人は初耳だけど?」

「尊い犠牲になってください」


下がったモチベーションを再び上げるには、新しい目標が必要だ。なめくじ達の目がキラキラと輝き始めたのを見て、ヨシムーが諦めたように頭をぼりぼり掻いた。


「ったく、手のかかるガキ共だな~。しょうがねぇから、総合優勝したら寿司でもおごってやるよ!だから優勝すんなよ!俺の(財布)ために!」


正直な大人である。なんだか可哀そうになってきたから、小声でヨシムーに提案を持ちかけることにした。


――ごにょごにょごにょ


俺の提案を聞いたヨシムーが天を仰ぎ、そして生徒たちに向かってさっきとは正反対のことを叫んだ。


「お前ら優勝しろ!なにがなんでも優勝するんだ!」


ヨシムーの変わり身の早さに若干生徒たちは引いていたが、それでもやる気は充分に引き出せたらしく、教室内に活気が戻ってきた。


ちなみにさきの提案の内容は…


「優勝した暁には香苗ちゃんのドレスアップした姿の写真を差し上げます」


香苗ちゃんごめん。帰ったら肩もみをさせていただきます…。


~執筆中BGM紹介~

はねバド!より「ハイステッカー」歌手・作詞・作曲:大原ゆい子様

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