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可愛い後輩たち

みなさんお元気でしょうか?作者は左肘が痛いです。

ブクマ登録、評価ありがとうございます!




最後に会長が歌いきり、初めての音合わせが終わる。それぞれの荒い息が響く。まず最初に沈黙を破ったのは西原先輩だった。


「ふ~っ、・・・すっげぇな」

「うん・・・すっげぇ、」

「「「バラバラ」」」


見事に音がバラバラだった。まるでソロ演奏を無理やりひとつにまとめたような、もはや音の殴り合いだった。


「いや~すごい演奏だったね!みんな協調性持ってよ!あはは!」


あなたが言えた義理ですか。というか、


「会長、ギターを今すぐ手放してください」

「ふぁ?」

「それは俺も思った。一条、悪いことは言わない。お前は歌だけにしろ」

「それなー」


結論から言おう。会長はめっっっっっっさギターが下手くそだった。歌は俺たちの音を食う勢いで凄かったのに。ギターはいただけない。


「だってだって、弾きながら歌うのカッコいいじゃん!」


すみれもそう思うよねっ?と、さっき唯一ギターを手放せと言わなかった高比良先輩に同意を求める。すると高比良先輩は聖母のような慈愛のこもった眼差しで会長を見ると、


「ギターに謝れ、このド下手」


と吐き捨てるように言った。よ、容赦ねぇ~。ギター担当の高比良先輩は俺たちよりもなおさらあの演奏が許せなかったのだろう。あれは酷かった。


「ううぅ、酷い!もう歌も歌わない!!」


ぷーん、といった様子で壁に向かっていじけている。うわぁめんどくせぇ。こんなとき、いじけた女性に対して男が取るべき行動はただ一つ。


「会長、歌()凄いですね」


しっかりとフォローを入れることである。ここでフォローを入れておかないと後々面倒だということは香苗ちゃんや社長で学習済みである。俺は失敗から学ぶ男だ。


「確かにかいちょー、歌()()()超すごかったー」


為澤も空気を読んで会長をヨイショするのに力を貸してくれた。会長の耳がピクピクと動き、口角が上がってきた。


「可愛い後輩たちがそこまで言うのなら、しょうがないなぁ。歌だけは歌ってあげよう。ふふん」


鼻が伸びてる会長の姿にそれぞれが似たようなことを思う。


(ちょろい)

(ちょろー)

(一条、可愛い後輩たちは歌を褒めることによりギターの腕前を貶すという高等テクを使っているぞ)

(そこに気付かないのが可愛いところだよね~)


バンドメンバー四人からの生温かい目に気付かないバンドリーダーなのであった。






「あ!このバンドの名前、どうする?」

「適当でいいだろ」

「DARADARAの曲を歌うTEKITO、うん。いいね!」

「いやそういう意味で言ったんじゃねぇぞ!」


TEKITO・・・いいと思うが、西原先輩はお気に召さないご様子である。すると最年少の1年、為澤が挙手をする。


「はい、虎子」

「一条グループ」

「派閥みたいだから却下」


お金持ちの家の派閥か。一条グループ、本当にありそうだ。次に高比良先輩が手を挙げる。


「はい、すみれ」

「烏合の衆」

「却下」

「もはや理由すら言ってくれないのね」


確かにさっきの演奏は烏合の衆だったかも。言いえて妙だな。


「じゃあ次は御子柴なんか出せ」


急に西原先輩に話を振られたので焦る。どうする、何も考えてなかった。お、落ち着け、何か、何かを言え・・・!


「・・・・・ヒストグラム」

「ヒストグラム?あの表の?」


会長が指さしたのは、音楽室の壁に貼ってあったポスターのグラフ。


「見たまんまじゃねぇか」

「なんの捻りもないね」


ええぇ?なんか出せって言われて咄嗟に出るだけよくないですか?目の前にあったものを言っただけですけど。


「いいじゃん!ヒストグラム!なんかロックって感じ」

「バンドの名前をその場にあったものにするってよく聞く話だしな」

「それじゃあちょっと捻ってヒストグラマーでどうかな?」

「うんうん!いいねいいね!びびっと来たよ!」


いつの間にやらとんとん拍子で話は進み、俺たちのバンドの名前は”ヒストグラマー”になっていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




放課後、お星さまカフェでとある人物と待ち合わせしていた。


「うちの佐藤がすみません!!!」


香苗ちゃんが話を通して会わせてくれた満開アニメーションの音響監督である、加賀純二さんが開口一番にスライディング土下座を決めてきた。


「加賀さん!?やめてください!顔を上げてください!」

「こちらから無理を言ってあなた様を貸していただきましたのに、あのような非礼を!申し開きもございません!」


ダァァァン!!と額を床に叩きつけながら土下座をやめてくれない加賀さん。


「とりあえず椅子に座ってください!土下座はやめてください!」

「誠に、誠に申し訳ありませんでしたぁぁあああ!!」

「ちょ、ちょっと!聞いてます?」

「なんとお詫びしたらよいか・・・!」

「おい、俺の話を聞けっ!」


謝罪と見せかけての嫌がらせか。人前でスキンヘッドのおっさんに泣きながら土下座されるとかどんな修羅場だよ。


「あらあら~こんなところに大きなごみが。いつまでも床に転がってたら(ほうき)でささっと掃いちゃうぞ?」


語尾にハートが付きそうなほど可愛らしい言い方だったにも関わらず、周囲の温度は氷点下に。寒いっ!凍え死ぬ!


星羅(せいら)さん、す、すみません。お騒がせしました」

「しししし、失礼しました。すぐ立ちます。秒で立ちます」


氷のような眼差しをもろに喰らった加賀さんは歯をカチカチ言わせながら残像が見える勢いで立ち上がった。


「あらぁ?狐面のお方は星羅のこと知ってるの?」


・・・はっ、しまった!今は外向き春彦の格好をしているんだった!!どどどどどうする!?


「・・・知り合いから、伺ってまして」

「そうだったのね。邪魔してごめんね~ごゆっくりどうぞ」


ふぁぁぁあなんとか乗り切ったぁぁ。気を抜いたらすぐボロが出るな、気を付けよう。


俺の決意など露知らず、外ではジリジリとセミが鳴いていたのだった。




~第六回執筆中BGM紹介~

攻殻機動隊より「ペットフード」作曲:菅野よう子様


みなさんのおススメも是非、教えてください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 烏合の衆、好きだけどなあ… センスある(笑)
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