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鉄則

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マリヤとの距離がほんのちょっぴり近づいた母の日の晩。


家の小さな庭に出て、星の綺麗な夜空を1人、見上げていた。


今日はピアノを教えてくれた母の演奏を俺が初めて人前でピアノを演奏した場所で聴いて、自分の原点に帰った。家族や友人たちの気遣いのおかげで作曲のことを一日忘れることができて、モヤモヤしていた頭の中がスッキリしていた。


「今なら元通り、作曲ができる気がする」


このままピアノに向き合って、楽譜に音符を乗せていって、いつも通り作曲して。


「それで、いいのか…?」


スランプに陥った原因は、海外の伝統音楽の知識が俺の中で濁流となって押し寄せてきて、そのあまりのスケールの大きさに処理能力が追い付かなかったせいだ。このまま元通りに戻るということは、せっかくの新しい知識を活かすことなく、現状のままで停滞することじゃないのか?


「転んで、ただ起き上がるだけじゃもったいないよな」


転んでもただじゃ起き上がらない。それくらいの気概でいないと、超実力主義の作曲家という厳しい業界では生き抜けない。


夜の静寂に満ちた空気をめいっぱい肺に取り込んで、ゆっくりと空になるまで吐き出す。


「よし、やるか」


自分の部屋に、ではなくピアノの置いてある部屋に向かう。冬瑚たちはもう寝ている時間なので、足音を立てないように歩きながら、考える。




新しい知識を噛み砕いて自分のものにしろ。振り回されるな、主導権を握れ。


『四界戦争』に必要な音を選別しろ。キャラクター達に寄り添う音を編み出せ。”御子柴智夏”にしか創れない音楽を紡ぐんだ―――





――――――――――――――――――――――――





「ふぁああああああっ」

「でっかいあくびだな」

「おはよ、田中」

「はよ、しばちゃん」


朝のSH前に噛み殺せないほどのおおきなあくびをしていると、ちょうど登校してきた田中が笑いながらやって来た。そうだ、田中に会ったら言おうと思ってたんだった。


「昨日はありがと。花束2つ用意してくれて」

「礼を言われるほどのことじゃねぇよ。ちゃんと2人に渡せたか?」

「あぁ。……自分で花束を用意してたら、渡せなかったかもしれない。田中に背中を押されたよ」


マリヤに一度、花束は受け取れないと言われたときに、あの花束が自分で用意したものだったら渡せていなかっただろう。田中がせっかく用意してくれた花束だから、という気持ちはたしかに俺の背中を押してくれたから。


「ありがとう」


田中に礼を言うと、後ろから井村に肩を組まれた。横には鈴木もいる。


「あっれ~?俺たちに「ありがとう」はくれないのか?」

「けっこー頑張ったんだぞ~」


肩を組まれたかと思えば髪をわしゃわしゃと犬のように撫でまわされた。俺の知らないところで2人が頑張ってくれたようなので、とりあえず事情を聴くまでは為されるがままにしておく。


「鈴木は香苗さんにおもちゃにされてたよな」


なんでこの2人が香苗ちゃんのことを知ってるんだ?


俺の不思議そうな顔を見て、井村が昨日の出来事について詳しく説明してくれた。


「秋人君が『しんぶん部』に依頼しにきたんだよ。「1日だけ兄に作曲のことを忘れさせて欲しい」って」

「そっか、秋人が…。って、しんぶん部って依頼制だったのか?」

「俺らもこれ聞いたとき、御子柴とまったく同じ反応だったよ」


アハハと鈴木が笑いながら、聞いてきた。


「しんぶん部の正式名称知ってるか、部長さんよ?」

「しんぶん部が正式名称じゃなかったのか?」

「せい()()をぞん()()におうかする部」

「えっ。そんなふざけた部活名だったんだ」


部長初耳なんだけどその情報。そもそも俺がしんぶん部の部長だってことも後から知ったし。なんで俺には情報が後出しなんだろうか。今度会ったら穂希に説教でもしようかな。報連相は大事だぞ!


「違くね?せい()()をおもうぞん()()はっきする部だろ」


井村が鈴木の言った『しんぶん部』の正式名称を訂正するが、それをさらに田中が訂正する。


「な~に言ってんだよ。せい()()してあそ()()だよ部だろ~」


どれにしろふざけた名前の部活ってことはわかった。けど、井村と鈴木は納得いかないらしく、揃って俺に聞いてきた。


「「そうだっけ?」」

「俺に聞かれても」


正式名称があることもさっき聞いたばかりの人間に聞いても答えられるわけない。


「おはよーす」

「おはよう」

「玉谷、もとやんおはよ」

「「「はよー」」」


いつもは俺よりも早く登校してくるもとやんがこんな時間に来るなんて珍しいな。


「もとやんからさっき電話かかってきてさ」

「玉谷、その話は…」

「電話しながらスマホ探してたんだよ。ハハハッ」

「~っ」


電話しながらスマホを…。あれか、眼鏡を頭の上に乗せながら眼鏡を探す的なやつか。


玉谷に恥ずかしエピソードを暴露されたもとやんは顔を真っ赤にしてるから、なぜか俺まで恥ずかしくなってきた。


「ナイスドジ」

「今日も絶好調だな」

「それでこそ我らがドジっ子」


田中、井村、鈴木はサムズアップをしていたが。もとやんが可哀そうなので、話題を変えることにした。


「そういえば、昨日は井村と鈴木とー、あと穂希にも会えなかったけど」

「俺ら3人は香苗さんたちのドレスアップとか料理とかのお手伝いしてた」

御手洗(みたらい)は全体の指揮をしながらだな」

「コードネームとか決めてな~」

「あれは楽しかったな~」


みんなにサポートしてもらってたことに感謝する反面、自分もその輪の中に入りたかったことに悔しさを覚えてもいる。


「楽しそうだな…」

「お?しばちゃんが話を聞いてる。最近だったらこういうとき上の空だったのに」


上の空だったのか…。そのことに気付かないほどには視野が狭まっていたらしい。


「みんなのおかげで、作曲がまたできるようになったよ。ほんとにありがとう」

「そっか!良かったな!」

「ずっと心ここにあらず、って感じだったけど、うまくいって良かったよ」

「おめでとうございます」

「おめでとうって……いや、おめでたいから合ってるのか?」

「ここ最近悪かった顔色も良くなって…」

「良くはなったけど隈ができてんな」

「徹夜は美容の大敵ですわよ!」

「玉谷の裏声(笑)」

「(笑)は余計だよ」

「ふはっ。みんなうるさいな~」

「御子柴もその1人なんだぞ!」

「それは心外」


男子6人集まればうるさくなるのは自然の摂理。


「ちょっと男子、うるさいんだけど!」

「「「ごめん」」」


そして女子に叱られるのもまた鉄則である。


~執筆中BGM紹介~

中二病でも恋がしたい!より「INSIDE IDENTITY」歌手:Black Raison d'etre様 作詞・作曲:ZAQ様

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