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滝に打たれに

誤字報告ありがとうございます!



智夏が田中兄妹に連行される数日前の放課後のこと。


桜宮高校の『しんぶん部』の部室には、智夏以外の部員と秋人が集まっていた。


「今日は、頼みがあって。しんぶん部に来ました」

「頼み?」

「あ、もしかしてさっき言ってた依頼って」

「御子柴弟からの依頼か」


井村の言葉に秋人がコクリと頷いて肯定した。


「最初、田中さんに相談したら、しんぶん部のみんなにも協力してもらおうって言われまして。……あ、お兄さんの方です」


田中と深凪に分散した視線を見て、秋人が訂正をする。それに伴って、田中に視線が集中した。まるで「しんぶん部の内容を知ってたんかい!」とでも言いたげな視線である。


「俺はしんぶん部の副部長だから知ってて当然だろ?」

「では部長である師匠も知っているということか」

「いや、しばちゃんは知らない…と思う」


どうだ?と田中が発起人に視線を向けると、語尾に「きゅるるん」とでもつきそうなくらいに可愛い子ぶった穂希がいた。


今さら俺たちの前でそんなきゅるるんきゃぴきゃぴしても意味ないだろ、と考えたときに秋人がこの場にいたことを思い出す。


「穂希にしんぶん部の内容を聞いてきたのは田中先輩だけだよっ!」


つまり知っていたのは発起人の穂希以外では田中だけだ、と。


(((聞いたときに教えてくれよ!)))

(師匠も知らないのか)

(このお菓子おいしいわ)

(兄上殿は面白がってわざと黙っていたでありますな)


若干一名のお姫様だけ話よりお菓子だった。話が本筋から脇道に逸れそうな気配を察知して、この場の最年少が場の支配権を一言で握った。


「話を進めても?」

「「「あ、すみません」」」


中学生に睥睨(へいげい)され、一瞬で押し黙る高校生たち…。


話しやすい環境が整うと、威圧的な態度が鳴りを潜め、ほんの少しだけ眉尻を下げて秋人は質問を投げかけた。


「兄がいま、スランプ中なのは知ってますか?」


この問いかけに最初に反応したのは智夏と同じ教室で生活する、鈴木たちクラスメイトだった。


「悩んでるのは知ってる」

「スランプなのは初耳だったけどな」

「授業中も休み時間もずっと上の空だったもんな」


次いで反応したのは1年生の女子たちだ。こちらは智夏の珍行動の目撃証言だったが。


「そういえば電柱に頭をぶつけているのを見たわ」

「そしてぶつかった後に電柱に謝っていたでありますな」

「ハァ…」


なにやってんだよ、と無意識にため息が出てきたが、電柱に謝るくらいならまだマシかもしれない。


智夏の話題になり、ずっと気になっていた疑問を井村が口にする。


「そういえば御子柴は?」

「兄は……た、、うに」

「え?」


ここに来てから一番の小さい声で秋人がぼそぼそと言うので玉谷が聞き返した。すると、秋人はすべての感情をこそぎ落としたような表情で言った。


「兄は滝行に」

「…え?」

「滝に打たれに行きました」


おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に、そしてお兄さんは滝に打たれに行きましたとさ………。


一同絶句。


「相当焦ってるんだと思います。普段もバカですけど、特にここ最近はバカに拍車がかかってるんで」


秋人の言葉はかなり辛辣だが、それでも瞳には心配の色が浮かんでいる。家でも学校でもずっと作曲のことで頭がいっぱいで、睡眠もろくにできていないことを秋人は知っている。だから心配で心配でたまらなくなって田中に相談したのだ。


何も言えなくなった秋人と変わるようにして田中がとうとう本題に入る。


「それで、だ。俺たちへの依頼というのは”御子柴智夏に作曲のことを忘れさせる”こと」

「次の日曜に兄を外に出すので、その日だけでも兄に作曲のことを忘れさせてあげてくれませんか!お願いしま、」

「頭を下げる必要はないよ~、秋人くんっ。そうでしょ?みんな!」


台から降りて頭を下げようとした秋人をずっと静観していた穂希が止めた。


「お兄さん達に任せな!」

「そーそー!」

「大船に乗った気分で待ってなさい!友達2号の弟!」

「友達2号…?」


やんややんやと高校生たちに囲まれ、もみくちゃにされる秋人。


兄貴の友達って基本的に良い人だけど、みんな変人なんだよな…。と諦めたような目でされるがままになる秋人だった。





――――――――――――――――――――――





「ということで、しばさん。奥にどうぞ」

「どういうこと?花屋さんに入って開口一番に「ということで」って言われても何もわからないんだけど!?」

「お~。今日もツッコミ絶好調だな、御子柴」

「ツッコミをしたくてしてるわけじゃ…、あれ?玉谷?なんでここに?」


右に田中、左に深凪ちゃん、そして花屋の奥から玉谷が出てきた。


「ここ俺ン家」

「え!?玉谷の家って花屋だったんだ」

「そ。花屋とあと、美容室もやってる」


玉谷が今さっき出てきた奥の通路をクイッと親指で指しながら言った。どうやら奥の通路の向こうには美容室があるらしい。


「そういうことなので、奥に行って御髪を整えるでありますよ!」


だから、どういうこと~!?


~執筆中BGM紹介~

海賊王女より「海と真珠」歌手:JUNNA様 作詞・作曲:梶浦由記様

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