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アルファ




冬瑚の癒しパワーをもらっても、1週間経った今でも思うように曲作りができない状況にあった。この1週間の間に氷雨さん達に話を聞きに行ったり、写経をしてみたり、滝に打たれてみたりといろいろしてみたのだが、どれも不発に終わった。


家やドリボでピアノに向かっていても焦りだけが募っていく。


そんな俺を見かねて、香苗ちゃんと秋人がとある提案をしてくれた。


「マリヤさんの所に行って来たら?」


最近会いに行けていなかったし、気分転換も兼ねて生みの母マリヤが療養している病院に向かうことにした。


「それじゃあ行ってきます」

「「「行ってらっしゃい~」」」


家を出る前に秋人や冬瑚も誘ったのだが、用事があるとか何とか言って断られてしまったので1人だ。みんな忙しいんですね。お兄ちゃん寂しいよ!







――――――――――――――――――――――






1人とぼとぼ玄関を出た智夏をしっかりと見届けて、秋人は電話をかけた。


「ターゲット、自宅を出ました」

『こちらアルファ、了解した。情報提供に感謝する』


10秒ほどで通話を終了する。秋人の後ろでは香苗と冬瑚がそっくりな悪い顔で笑っていた。


「自分で言っといてなんだけど、まるで殺し屋みたいだな」


兄の情報を流しているあたり、悪の片棒を担がされている気分だ。そんな秋人の気も知らず、御子柴家の女性陣は楽し気に会話を弾ませる。


「”殺し屋秋人”、開業しちゃう?」

「じゃあ冬瑚は”女スパイ”ね!」


”女スパイ”なんて言葉をいったいどこで覚えてくるんだか…。


「”殺し屋秋人”なんてやるくらいなら”小料理屋秋人”でも開くかな」

「「それめっちゃ良い!!」」

「そーですかい」


それじゃあ今度、小料理屋っぽく出してみようか、とレシピを考えながら、外出の準備を進めていくのだった。






――――――――――――――――――――――






一方、アルファこと『しんぶん部』発起人の御手洗穂希(ほまれ)はスマホを驚異的な速さで操作し、『しんぶん部』のメンバー達に手に入れたばかりの情報を流す。


「あーテステス。こちらアルファ(穂希)。外部協力者からたったいま連絡が入った~。ターゲット(智夏)は予定通りに自宅を出発したようであ~る」


スマホの向こうから「もっとシャキッと喋らんかい」ってツッコミが入ったが、そんなの無視するに決まってるよね。うへへ。自分良ければすべてよし!


『…了解であります。こ、こちらはベータ(深凪)と、』

デルタ(田中)だ。了解した。ターゲットが到着次第、花束作戦を決行する』


緊張気味に応じたのは穂希と同じクラスで『しんぶん部』の部員の田中深凪(みなぎ)と、この作戦に案外ノリノリの兄の田中の兄妹2人だ。


「花束作戦は第一陣だから必ず成功してねぇ?」

『深凪にプレッシャーかけんなコラ』

「深凪じゃなくてベータ、だよ?お兄ちゃん?」

『誰がお兄ちゃんだ。貴様に義兄(おにい)ちゃんと呼ばれる筋合いはなーい!』

「デルタじゃなくてシスコンをコードネームにした方がよかったかも~」


適当に冗談を言い合って時間を潰していると、静観していた深凪が緊張感を漂わせながら報告した。


『2人とも、無駄話は後にするでありますよ。ターゲット(智夏)が来ました』

『え、どこどこ?』

『あそこでありますよ』

『えぇ?…あ、ほんとだ』

「……しっかりして~?」


必要以上に緊張している深凪と緊張感の欠片もない兄の会話に、思わずため息が出る穂希だった。


最初の作戦をこの兄妹に任せたのはミスったかな?でも、この2人が適任だし。う~ん、いまさら悩んだってしょうがない!なるようになるよね!






――――――――――――――――――――――






母マリヤの元へ向かうためバスに乗って空いている座席を探していると突然話しかけられた。


「あー、誰かと思ったらしばさんではありませぬかー」


棒読みの世界大会があったら優勝間違いなしってくらいに棒読みで話しかけてきたのは、田中の妹の深凪ちゃんだ。その隣には「ヨッ」と片手を上げている田中もいるではないか。


いろいろと聞きたいことはあるのだが。まずはこれだろう。


「深凪ちゃんの棒読みはどうしたの?田中にいじめられでもした?」

「おいおいしばちゃん。俺が目に入れても痛くないほどに可愛がっている妹をいじめるわけがなかろう?」

「ぼ、棒読みでありましたかっ!?」


田中はいつにも増してウザいし、深凪ちゃんは棒読みだとバレて挙動不審だし。


「2人とも、まさか…」

「「な、なに…?」」


ごくり、と2人そろって息を呑む兄妹に小声で告げる。


「なにか良からぬことでも考えてるんじゃ…」


俺の言葉に田中は一瞬気の抜けたような顔をした後、ニヤリと悪い顔で笑った。


「そうだなぁ。確かに良からぬことを考えてるな」

「兄上殿!?」


え、ほんとになにか悪さをしようとしてたのか?と戸惑いと驚きも束の間、田中が近くの「ここで降ります」ボタンを押した。


「そういうこった。ちょーっと付き合ってもらうぞ?しばちゃん」

「へ?」


戸惑う俺をよそに、田中兄妹に左右を固められる。


「諦めてくだされ、しばさん」

「へ?」


諦めるってなにを?説明なし?君ら無言でどこかに連れてこうとするの怖いんだけど!?




それから田中兄妹に促されるまま、連れて来られたのは花屋だった。


~執筆中BGM紹介~

「花束」歌手:back number様 作詞・作曲:清水依与吏様

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