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待たせたな諸君

前半、智夏の口調が悪くなります。




9月の初めに学校祭でバンド、10月からスタートのアニメ『最後の恋を、君と。』の作曲活動。ビッグイベンドが並んでいる。

7月がもうすぐ終わる頃、俺は満開アニメーション株式会社のロビーにいた。そしてここに来る前に香苗ちゃんから言われた言葉が頭の中をループする。


『監督には気を付けてね。あんまりいい噂聞かないから』


気を付けろ、と忠告を受けたがどう気を付ければいいものか。


「お待たせしました、春彦様。案内しますのでこちらにどうぞ」


受付の人が呼びに来たので、大人しくついていく。ちなみに社長から仮面を付けていけ、と厳命されたので今は狐面を被っており、外向き春彦バージョンである。受付の人にはかなり驚かれたが、必死に説明したところなんとか追い出されずに済んだ。


案内された部屋に入ると、そこには男性が一人机に向かって何かを描いていた。こちらに気付いていないようなので、男性に向かって声をかける。


「佐藤監督、でしょうか?」

「はーい佐藤ですよー。あ、そのお面、もしかして君が春彦?それって本名なの?」


いきなりズケズケくる人だな・・・苦手かもしれない。香苗ちゃんの言っていたことはコレか?


「いえ、本名ではありません」

「へぇ~じゃあ本名は?性別は?」

「秘密です」


個人情報は年齢以外伝えていない。聞かれたら可愛く「秘密です!」って答えろ、と社長に言われたので、予定通りに答える。


「秘密なんだ。残念だなー」


ふくよかなお腹を叩きながら言った。


「じゃあとりあえず10曲、9月までに作って持ってきてー」

「わかりました」

「それじゃあもう帰っていいよー」

「え?あの、それぞれの曲のコンセプトとか、どういう場面で使うとかそういう指示は?」


五十嵐監督はかなり細かく指示を出してくれていたのだ。だから何の指示もない佐藤監督に焦る。


「は?そんなの小説読んで勝手に作ってよーこれだから学生は。仕事引き受けたからにはいつまでも学生気分でいるのはちょっとねー」

「はぁ」


小説を読んで勝手に作れ?アニメでどの場面を使うのか知らないのに?しかも俺だけの解釈だけで作れと?・・・はぁ?


「っていうかさー、俺は高校生を使うなんて反対だったわけよ。それなのに原作者がどうしてもって言うからさー、ほらこっちとしてはあんまり原作者の意向に逆らえないわけじゃん?」


それを俺に言って何がしたいんだこの豚は。いや、豚に失礼だこの贅肉野郎。

すーはー。すーはー。落ち着け俺。冷静に冷静に。


「あの、電話番号教えてください。曲作るときにいろいろ聞きたいんで」

「あ、ごめーん。僕ケータイ持ってないんだよねー」


どこのJKの断り文句だ、それ!俺そろそろキレてもいいよね?よく我慢した方じゃない?・・・でもドリボを背負ってここに居る以上、下手な行動はできない。


「それじゃあ一か月後にまたねー。あ、締め切り厳守だから。君のせいでアニメが台無しにならないといいねー」


そう言い残して贅肉野郎は去っていった。


・・・はぁぁぁあ!?アニメが台無しってそれお前がそうさせるんじゃないのか!?なんだよあの態度!?本名と性別教えなかったのがそんなに不満かよ!?


「ふっふふふふ、ははははははっ!!やってやる、やってやるよ贅肉野郎がー!!!」


競歩の世界大会レベルの俊足を繰り広げ、早々に満開アニメーションを出る。そして香苗ちゃんに電話を掛ける。


「夏くん、どうだった?」

「あの贅肉野郎とは合わなかった」

「やっぱりね。あの人、気に入らない子に嫌がらせ紛いのことをするんだよね」

「よくそんなんで仕事できてますね」


気に入らないから嫌がらせって・・・。


「そうねぇ。監督以外は優秀なのよ。私の方から音響監督に話しておくから」

「ありがとう、香苗ちゃん」

「こちらこそ、私たちのために色々我慢してくれたんだよね?ありがとう」


腹の中のぐつぐつと煮えたぎっていたどす黒い感情が霧散していく。電話を切って建物の陰に隠れる。誰も見ていないことを確認して狐面を外す。いくらか息がしやすくなり、肺に思いっきり新しい空気を送り込む。


前途多難な始まりだったが、全力で頑張ろう!あと、あの贅肉野郎をぎゃふんと言わせよう!





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「待たせたな諸君、とうとうキーボードを見つけたぞ!」

「おー」

「よろしく」

「よろー」


会長がいきなり家に来たと思ったら学校に連行された。どうやらいつの間にか秋人と執事男子が連絡先を交換していたらしく、俺のスケジュールを把握していた。「マネージャーは任せろ」とサムズアップした秋人の顔が忘れられない。


「それじゃあ自己紹介といこう!3年A組一条陽菜乃、生徒会長であり、このバンドのリーダーであり、ボーカルとギター担当!」

「あー、3年D組の西原(さいばら)天馬(てんま)。ベース担当」


どこか気の抜けた様子で話す男子。さっき音楽室に入って少ししか音は聞いてないが、この人かなり上手い。自分の思った通りの音が出せるレベルに達している。多分、他の人も。


「次あたしね!天馬と同じ3年D組の高比良(たかひら)すみれだよ。あっギター担当ね」


どうやら3人とも先輩らしい。西原先輩の肩をバシバシ叩いてるのを見るに、仲がよさそうだ。


「1年B組の為澤(ためざわ)虎子(とらこ)、ドラムたんとー」


前髪を頭上で結んでいるため、クジラの噴水のようになっている。虎なのに。


「2年A組、御子柴智夏です。キーボード担当です」


ぱちぱちとまばらに拍手が起こる。


「ようやく全員揃ったので、演奏する曲を発表することにします!じゃららららら~」


ドラムがあるのに口でやるのか。


「じゃじゃん!DARADARAの『(やいば)』です!」

「あれ?その名前どこかで聞いたような?」

「その曲って『月を喰らう』のオープニング曲じゃなかった?」

「よくぞ気付いてくれました!何を隠そうこの私、一条陽菜乃は『ツキクラ』の大ファンなのです!」


ここで『ツキクラ』の名前を聞くことになるとは。


「楽譜はこれねー」


楽譜を会長からもらう。ざっと見ただけでもアレンジしがいがありそうだ。アレンジダメかな?初めてバンドに入るので、キーボードがどういう役割なのかがあまり理解できていない。


「じゃあ一回合わせようか」

「「「え!?」」」

「ひゃーロックだね、会長」


会長の発言に驚いたのが俺と西原先輩と高比良先輩。なぜか嬉しそうなのが最年少の為澤である。


「大丈夫。私が自信をもって集めたメンバーだからね」


そんなに自慢げに言われてしまったら、やるしかないではないか。それぞれが楽器をもって配置に着く。ドリボでよく使っているシンセサイザーというつまみやスイッチが大量についているものではなく、シンプルなキーボードである。楽譜を並べて他のメンバーを見る。

誰も彼もリラックスした様子で、頼もしい限りである。このバンドなら、噂の香苗ちゃんのバンドを超えられる。そんな予感がした。




~第5回執筆中BGM紹介~

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインより「Rea(s)oN」歌手:神崎エルザ starring ReoNa様 作詞:ハヤシケイ様 作曲:毛蟹様

読者様からのおススメ曲でした!みなさんもぜひおススメの曲を教えてください!

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