一味と七味
誤字報告ありがとうございます!
お恥ずかしい限りです…
(*ノωノ)
宝城さんと追いかけっこをしたその日から、智夏の頭の中には海外の音楽や楽器の音色でいっぱいだった。
「た~らたったらたった~」
「それ、なにかの曲?」
「へ?口に出てた?」
昼休みに教室でお弁当をつついていると、後ろからぴょこっと香織が顔を出してきた。
「うん。気づいてなかったの?」
「全然気づいてなかった……って、言ってくれればよかったのに」
一緒に弁当を食べていた田中ともとやんに言うと、なんでもないように2人は言った。
「ここ最近暇さえあれば口ずさんでるからな、しばちゃん。もうツッコむのも疲れたんだわ」
「師匠は作曲をしているだけあって歌が上手だな、と思いながら聞いていたが」
コンビニのパンをかじりながらもとやんが飾り気のない言葉で褒めてきたものだから、照れてしまう。
「いや~そんな。真正面から褒められると照れるわ」
「くねくねすな」
「ふふっ。相変わらず智夏君は面白いね?」
ね?って言われましても。
「しばちゃんは食事中には飲み物を飲まないから面白いね?」
田中が香織の声真似をしながら小首をかしげてきた。ぼきっと骨が鳴る音がしたが大丈夫だろうか。
「えっ。師匠、食べてるときに飲み物飲まないんですか?」
「えー?いや、どうだったかな…」
田中に言われて、食事中の記憶を辿ると、たしかに食事中に飲み物を飲んだ記憶は……無いような。
「たしかに無い、かも。てか、なんで俺でも知らないことを田中が知ってんだよ。素直に怖いわ」
「そこは感心してくれよ」
いやいや。恐怖しかないぞ。こいつはもしかしなくても俺より俺のことを理解しているのでは?
ゾゾッと恐怖に震えていると、俺たちの話を聞いていたクラスメイトの松田さんがグフフと笑いながらやって来た。
「田中って……御子柴のことよく見てるよね」
「よく見えるっつーか、勝手に目に入っただけだ………って、待て待て待て。俺たちで変な妄想すんな!」
「グフッ。御子柴と田中の2人の固い絆の間に突如として現れた元山というスパイスがどう作用するか。見ものですなー!!!」
松田さんが何を言っているのかは、正直言ってほとんどわからなかったが、良からぬことを言っているのはわかった。むしろそれしかわからん。
一方、聞いているのかいないのか、話題に出されたもとやんが「スパイス」という単語から何かを思い出したようだった。
「スパイスといえば、一味と七味を間違えて買って来て怒られたことが…」
「もとやんのそれはいつも通りだ」
「通常運転」
「それでこそもとやんだよね」
田中、俺、香織がそれぞれコメントすると、もとやんは不服そうにパンを大きくかじった。
「みんなは僕のことを一体なんだと思ってる、」
「「「ドジっ子」」」
「…」
俺たちだけでなく、近くにいたクラスメイト全員がハモった瞬間だった。
学校にいるとき以外、ずっと海外の音楽を聴いて聞いてききまくって。どっぷりと異国の音楽に浸っていると、自分でも作りたくなってくるのは当然と言えば当然だろう。
手始めにケルト音楽風の曲を作ってみた、のだが。
「五番煎じみたいな曲だな」
いかにも某有名冒険RPGのBGMを混ぜてみました~みたいな曲だ。
「ぷふっ、五番煎じって」
「うわっ。香苗ちゃん、いつからそこに?」
「うわっ、って酷いな~」
誰もいないと思っていた背後から声が聞こえたら誰だってそうなる。
「宝城さんから見せてもらったいろんな国の民族音楽やら楽器やらの映像に触発されて、作ってみたまではいいんだけど」
「五番煎じな曲ができた、と。アハハッ、そりゃすごいね!」
「笑い事じゃないですよ…」
そう。笑えないことが起きてしまったのだ。
「うん?そんな地球滅亡みたいな顔してどうしたの?」
「……………『四界戦争』の作曲をしようと、あれこれ作ってみたんですけど」
「うんうん」
「伝統音楽の影響がもろに曲に入ってしまって…」
「まぁ、曲が良ければいいんじゃない?」
「良ければ、よかったんですけど」
「え」
何曲か作った曲を実際に聞かせる。
「なんというか、誰でも作れるようなありきたりな曲?」
「うぐっ」
「なんのメッセージ性もない、ただの音の集まりだね」
「ぐはっ」
忌憚の無いご意見、ありがとうございますぅぅぅ…。
「香苗ちゃん…」
「なんだい?」
「俺って、今までどうやって作曲してましたっけ?」
「…オーマイガー!」
既存の曲を混ぜたような曲しか作れなくなっちゃったんですけどー!?
「香苗ちゃん!どうしたらいい!?」
「とりあえず…」
「とりあえず?」
「夜も遅いし、寝よう。そして明日また考えよう」
「…ハイ」
明日、起きたら作曲の仕方を思い出していますように…。
~執筆中BGM紹介~
ヴァイオレット・エヴァーガーデンより「Rust」作曲:Evan Call様




