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「ハッピー御子柴セットを呼び出した理由だが」

「そんな愉快な名前で俺たち呼ばれてたんですか」

「うそ~。めちゃセンスいいじゃない」

「え?」


ハッピー御子柴セット、つまり社内での俺と香苗ちゃんのことを指す言葉なんだろう。香苗ちゃんの感性には刺さったらしいが、俺にはいまいちピンと来ない。


「理由なんだが!」

「「はい」」


話が脱線しかけたところで、強制的に社長が話を戻した。まぁ、脱線しかけたのも社長の発言がきっかけなわけだが。それを指摘するとまた長くなるので黙っておくとする。


「『四界戦争』制作にあたって、私達ドリボにとある条件が課された」

「誰から?」

「一番のスポンサーから」


社長と出会って2年くらい経って。社長室に呼び出しをくらうことにも不本意ながら慣れてしまった俺の勘が告げている。


絶対ろくなことじゃない。面倒くさいことを言われる。


「そ、それは一体どのような…?」


ビビりながらその条件とやらの内容を聞く。


「バイオリンのソロ曲をBGMにすること」

「…」


やっぱ面倒くさいことだったー!!


「変わったな、智夏」


内心で嘆いていると、社長が今まで見たことのないような優しい目つきになっていた。


「初めて会ったときに比べて、表情がよく変わるようになった」

「そう、ですか?」


自分ではそのあたり、自覚しにくいところだ。


「あぁ。年相応になった。さっきだって「面倒くせぇ」って顔に出てたからな」


バレてたか。そういえば昔より感情の抑制ができていない自覚は確かにある。


「成長したねぇ」

「恋は人を成長させるんだな」


2人から生暖かい視線が向けられる。


「それよりも!」


この居心地の悪さを早々になんとかすべく、話題をさっさと変える、というか戻すことにする。


「バイオリンの曲を作るっていう条件の方ですよ。それって全曲バイオリンでってことですか?」

「いや違う。最低2曲だ」


全曲バイオリンで、って言われなかっただけまだマシか。でも、ソロ曲か…。


「スポンサー企業の重役の娘がバイオリニストで、そいつに弾かせたいんだと」


そいつって言っちゃったよ、社長。この変な条件に相当不満を持っているらしい。


「私達にだけその条件を付けるのは不公平だから、せめて他の3チームにも同じ条件を付けてくれと言ったんだが……。チッッッ!あの豚、こっちの話なんざ聞きゃしねぇ!」

「渚、落ち着いて。いま、一番の理不尽を被っているのは夏くんよ」

「…そうだな。すまない、智夏」

「いえ。最近ちょうどバイオリンについて調べてたので。バイオリンソロは作ったことがないので勉強が必要ですけど」


これは嘘じゃない。俺が作る曲の基本はピアノベースなのだが、氷雨さんたちに触発されて他の楽器がメインの曲も作ってみたいとは思っていたのだ。それを作るとして、絶対に確認しておかなければならないことがある。


「そのバイオリニストはどのくらい弾けるんでしょうか?」

「……コンクールで、入賞したことはあるそうだ」


賞を取ったことがあるなら、レベルは高いのだろうか。と推測したとき、突然香苗ちゃんが社長の後ろに回り、肩を揉み始めた。


「急になん、」

(なぎさ)?そのバイオリニストがコンクールで受賞したのっていつの話?」


友人の肩を揉んでいるほんわかしたシーンに見えるが、肩を揉まれている社長の目は完全に泳いでいる。バタフライでも泳ぎ始めるのかというくらいに泳ぎまくっている。


「そ、そうだなぁー。えーーっと。あ、いたたたた!」

「随分と肩が凝ってますね~」

「そこ痛い!あっ!あひゃっ!あぁん!」


………いたたまれない。ここに男子がいるってお忘れではないですか!?これなら生暖かい目で見られてたさっきの方が百倍マシだ!


「わかった!言う!言うから!……小学校時代の話だそうだ。ちなみに現在32歳」

「過去の栄光の話だったんですね」


俺を不安にさせないためにあえてそういう言い方をしたのだろうか。こういうのを詐欺って言うんだって、おれ、しってるぅ!


「それで全部?知ってること全部吐いた?」


香苗ちゃんが敏腕刑事に、そして社長が詐欺師に見えてきた。ここは職員室でも社長室でもなくて、どうやら取調室だったらしい。


「………その、バイオリニストは、横浜真澄の熱狂的なファンだ」

「だからウチに来たわけね。横浜君に会えるかもって思って!」

「そうとも言う」

「そうにしか聞こえないわよ!」


この日、社長室から社長が社員に怒られる声が聞こえるという珍事件が発生したのだった。



~執筆中BGM紹介~

地獄少女 二籠より「あいぞめ」歌手:能登麻美子様 作詞:ああ様 作曲:Takumi様

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