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番外編 ワンコ

今回で鈴木が主人公のお話は終了です!次回から本編に戻ります!多分。



「どうよコレ」

「ん?」


終業式の後に、カンナさんから呼ばれて数学科準備室に行くと、入って早々にドヤ顔で紙を渡された。その紙はよく見覚えのあるものだ。俺も今日渡されたし。


「愛羽カンナ史上、最高の成績よ!ふふんっ」

「お~」


改めて、受け取った成績表を見ると、以前見せてもらったものよりもたしかに成績が伸びていた。


「ねぇ、すごいでしょ?すごいよね?すごいって言ってよー!」

「構ってほしいワンコか!」


俺の周りをちょろちょろしながら褒めろと催促してくる姿は、まさしくお利口に留守番出来て偉いでしょ?と褒められ待ちをするワンコだ。


よく今までクールキャラで通せているよな…。


「はいはい。すごいなー」

「うん…!」


明らかに棒読みの心のこもっていない褒め方だったのだが、それでも嬉しそうに頷いた。女子を面と向かって褒めるなんてイケメンなこと、俺にはできない。だから、これが俺の精一杯だ。ポケットから取り出したものを取り出して、顔も見ずに渡す。


「ん」

「なにこれ?お菓子…?」

「この前、食べてみたいって言ってたろ。「キャラじゃないから買えない」とかなんとか言ってたやつ」


イチゴとチョコの可愛らしいパッケージのお菓子が気になっているけど、クールキャラが邪魔して買えないって言ってたから。たまたまコンビニで見つけたから、なんとなく買ってみたのだ。それがたまたまポケットに入っていたから、渡したというだけの話。


「うそ。覚えててくれたの?」

「た、たまたまな!偶然見つけただけだ!」


人気商品で何軒もコンビニを周ってようやく見つけたとか、そんなことはどうでもよくて。ただ、喜ぶ顔が見たかった。それだけだ。


「ありがと。…博也(ひろや)

「…ん。うん?なんて?」

「聞こえてるくせに」

「名前で呼ばれた気がしたのは気のせい?」

「気の迷いよ」

「そこまで言わなくてもよくね?」


あげたお菓子を頬張りながら、彼女は満足げに笑っていた。


冬休み明けもよろしくね、とほぼ一方的に約束を取り付けられたが、悪い気はしないのだった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





高校に入って3度目の4月がやって来た。


「よっす」

「よっす」


片手を軽く上げて、カンナと挨拶を交わしたのは、いつもの数学科準備室ではなく、人通りの多いショッピングモールの前だった。


どこかの野球チームの帽子を目深(まぶか)にかぶって、普段は下ろしている髪も帽子の中にしまった姿は、学校で五大美人ともてはやされる姿とは似ても似つかない。


「服装で変わるもんだな」

「でしょ?」

「じゃ、行くか」

「あれー?今日の服可愛いね~とか、そういう気の利いたセリフ、言えないの~?」

「あーはいはい。超かわいー」


冬休み前の期末試験以来、俺から褒める言葉を引き出させようと、こうして俺を挑発するようなことをちょくちょく言ってくるようになったのだ。俺は棒読みで褒めて、カンナが具体的な内容を聞き出すまでが一連の流れ。


「どの辺が?」

「頭のてっぺんから眉毛の上まで」

「うんうん。頭のてっぺんから……って、それ帽子のことでしょ!」

「そんなに騒いだら正体バレるぞ」


カンナの帽子のつばを指先で掴んで下げる。帽子で隠していたとしても、美しさというのは隠し切れないものだ。この無防備なお嬢さんはそれをわかっているのかね?


「何やってるの?早く行くよ!」


今日はカンナが2年生最後の試験で、B組でのクラス順位が2位(1位は現在は同じクラスのもとやんだ)になったから、そのご褒美で今日はやって来ていた。決してデートではない。勘違いするなよ、俺!これはデートとかいう浮ついたあれじゃないからな!浮足立つなよ俺!




このショッピングモールに来た目的を発見したようで、興奮した様子で俺の右腕を掴んだ。


「あれよあれあれ!わぁー!すごい数!」


やってきたのはゲーセン……の横にあるガチャガチャコーナーだ。


()()カンナがガチャガチャがやりたい、なんてなー」

「なによー。ガチャガチャは何歳でも楽しめるようにできてるの。人類はみなガチャガチャが好きなように神様に設計されてるのよ」

「まじかよ。神様どんだけガチャガチャ好きなんだよ」


雑談をしている間に、カンナがとあるガチャガチャに100円玉を2枚入れて回し始めた。


「女子はもっと迷って決めるものだと思ってた」

「女子の中でも即断即決する人くらいいるわ。…あ、落ちてきた」

「なんだそれ」

「テレビのリモコン型キーホルダー」

「なんだそれ」


聞いてもわからん。どこに需要があるんだよそんなガチャ。


「次はなににしよっかなー…っ!やば!」

「どうし、っ!」


正面から桜宮高校の制服を着た男女数人が話しながらやってきたのだ。やつらはまだ俺たちに、というかカンナに気付いていないみたいだが、まっすぐこっちにやってくる。なんだよ、ここにはガチャガチャしかないぞ!カンナの言う通り、人類にはガチャ好き設定がされてるってことなのかよ!


仕方ない。


「逃げるぞ」

「へ?」

「まだ邪魔されたくないしな」


細い手首を掴んで、走りだす。行き先なんて決めてない。ただ、やつらが見えなくなるまで彼女を連れてひたすらに走る。


「ふっははっ!たーのしー!!」

「愛の逃避行ってやつだなー!」

「寝言は寝て言えー!」


走りながら笑う彼女はきっと、俺の渾身の告白には気づかない。4月の少し冷たい風が、顔の火照りを冷ましてくれることを願いながら、彼女の手を引いて走るのだった。



皆の前では「彼女が欲しい」とか「女の子大好き」的な発言を大っぴらにしている鈴木ですが、本当に好きな人にはぶっきらぼうになっちゃいます。不器用ですね。

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