表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

240/467

番外編 綺麗な人

今回から数話、鈴木視点でお届けする、番外編であります!



中学3年生の冬のこと。


彼女を初めて見たのは、高校受験のときだった。


「桜宮高校には可愛い先輩がいっぱいいるんだってよ」

「受験当日にそんなことを言ってるのは合格に自信があるお前くらいだろうな、鈴木」

「はぁ?何言ってんだよ。受験の先に可愛い子がいるって思うから頑張れるんだろうが」

「なんで俺がキレられてんだよ」


なんでこんな奴が頭良いんだよ、世の中不公平だ、とぶつぶつ呟きながら井村と受験会場である桜宮高校に足を踏み入れる、その瞬間だった。


寒さで少し鼻先を赤くした彼女を見て、綺麗な人だと思った。黒髪の長い髪も、周りの視線をものともしない凛とした面差しも。


その後、高校受験に挑み、いつの間にか綺麗な同い年の女の子の存在は忘れていた。




晴れて桜宮高校に入学し、あの子の存在を思い出したのは廊下ですれ違ったときだった。


「なぁ井村、あの子って」

「1年B組の愛羽(あいば)カンナだよ。たしか声優の卵…だっけな。あのめっちゃ美人な生徒会長と我がクラスのマドンナ、花村さんの3人が三大美女って呼ばれてる」

「へぇー」


井村からその話を聞きながらも、目はずっと愛羽カンナを追っていた。受験のときよりも険しい目元になっていた彼女は、噂では声優のオーディションに落ちまくっているらしい。こんな噂が流れること自体、彼女を良く思っていない人がいるということで…。


「大変そうだな」

「何が?美人に生まれたってだけで人生ハッピーだろ。…おい、無視すんな」


他人事の感想しか出てこなかった。


学校中の男子が憧れる三大美女と、クラスの女子にウザがられる俺。接点なんて全くなかったはずなのに、不思議な縁で修学旅行のときには一緒にトランプをして遊んだ。まぁ、愛羽さんは俺の存在なんて全然認識してなかったけどな。


だから、ずっと俺の存在なんて認識されないまま卒業するんだと思ってた。




高校2年生の10月。


綺麗なオレンジ色からだんだんと夜の色に変わっていく空模様を中庭の木に登って眺めていたときだった。


「なーんで傷心中に告白スポットなんかに来ちゃったんだろ」


俺の登った木の下にあるベンチに座って、誰かがそう呟いた。傷心中、というパワーワードに興味を惹かれてこっそり枝の隙間から見下ろすと、


「っん、ひぐっ」


そこには普段の凛とした様子からは想像できないほど弱々しく涙を流す愛羽カンナの姿があった。


な、なんでここに!?どうして泣いてんだ!?あ、傷心中って言ってたな!!


思いがけない人物の思いがけない言動に動揺したせいだろうか、何度も登っていた木から初めて落ちてしまったのは。


ガサガサッべちゃ


痛ってぇ、これ尻へこんだわ………やべ。よりによって目の前に落ちたんだが。あーとりあえずアレだな。


「お、お邪魔しました~」


速やかにこの場から去ろう。こういう女子の複雑な心は俺にはわからん。回れ右をして去ろうとして……ガシッと腕を掴まれた。


「あなた、お名前は?」

「いやいや、名乗るほどの名なんて」


美女に名前を聞かれて超ラッキー♪なんて思えねぇ!めっちゃ怖い目で見てるよ俺のこと!美女に睨まれると3割増しで怖ぇえよぉぉぉぉおおおお!!


「名前は?」

「鈴木、博也(ひろや)です…」


愛羽さんは俺の名前を頭の中で検索し……御子柴の後ろにそんな奴がいたような気がするなぁ…みたいな顔をされた。


「そう。鈴木君、あなたここで何をしていたの?」

「えと、それは」


夕暮れの空を木の上から眺めるのが趣味で、なんて言ったら笑われるだろうか。と思って言い淀んでいたら、とんでもない誤解をされた。


「まさか、覗き?」

「違うけど!?真っ先に疑うのがそれ!?普通「木に登って降りられなくなった子猫を助けてたの?」とか「夕日が沈む風景をセンチメンタルに眺めていたの?」とかあるでしょうが!!」


肩で息をしながら叫ぶ。放課後の中庭によく響く、我ながら良い叫びだった。のだが、愛羽さんの顔は心情を如実に表していた。


「そんな「うわ、何こいつめんどくせー」みたいな顔しないで!!」

「ゼンゼン、シテナイワヨ」

「一ミリも感情が入ってないんですけど。機械かなんかなの?」


思わず男友達接するみたいなノリで言ってしまった。やっちまったかなーと思って愛羽さんを見ると、ほんのり充血した目からポロポロッと涙が零れて、己の過ちに慌てて、バカみたいな声を出してしまった。


「うぇええ!?ごめん!機械みたいって言ったの傷ついた!?俺バカだからそういうのよくわからなくて!あの、その、とりあえずハンカチ使う?」

「~っ使う!!」


制服のズボンのポケットからハンカチを取り出しながら聞いたら、愛羽さんが奪い取るようにもぎ取っていった。そのまま涙を乱暴に拭いて、鼻をかんだ。


「あ、そのハンカチあげるよ」


そのぐちょぐちょのハンカチをこのままポケットに戻す勇気は俺には無い。


「なによー!!私だって好きで鼻水垂れ流してるわけじゃないのよ!」


さっきから思ってたけど、()()()が愛羽さんの素の姿なんだろうな。俺に対してか、それとも彼女を振った男に対してか、支離滅裂に怒り続ける。


「傷心中なんだからちょっとは優しくしてくれても罰は当たらないじゃない!!~っ好きだったの!大好きだったの!大好きだから振られたの!」


「私が一番最初に好きになったのに!!」


「でも、もう疲れた………。だって全然振り向いてくれないんだもん。押せ押せで振り向かないなら引いてみるかって、ほんの思い付きだったのに。その間に智夏は私じゃない誰かに恋してた」


やっぱり相手は御子柴か。泣きながら気持ちを吐き出す愛羽さんの言葉を聞いて、断片的な情報を繋げていく。つまり、愛羽さんはさっき御子柴に告白して、そんで振られたと。そういうわけだな。


「あーもー!くーやーしーいー!」


持っていたハンカチをぶんぶん振り回して悔しさを爆発させている。普段の凛とした、クールな姿よりも、こっちの自分の感情に素直な愛羽さんの方が親しみが持てる。


「愛羽さんて、ほんとはそういうキャラなんだな」


数学の難問が解けたときのようにすっきりとした気持ちで言った言葉だった。特に何も考えずに思ったことが言葉に出たのだが、そんな俺を愛羽さんは驚いたように見ていた。


「カンナでいいわよ。私も鈴木って呼ぶから」

「前半はともかく後半は俺のセリフじゃね?」

「気にしないで」

「いや、それも俺のセリフ…」


この日初めて、愛羽カンナの本当の姿を知った。



~執筆中BGM紹介~

色づく世界の明日からより「17才」歌手:ハルカトミユキ様 作詞:ハルカ様 作曲:ミユキ様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一話から一気読みした感想だがストーリーは面白い [気になる点] 主人公がよくある人が良すぎる系。自己犠牲の精神が過ぎていて違和感を感じる。 [一言] 展開などは面白い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ