恋心と友情
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今回はカンナ視点です。
両親がアニメ好き。馴れ初めもアニメイベントだったほどで、筋金入りのヲタクである。そんなヲタク同士の間に生まれた子供はどうなるか。それは火を見るよりも明らかである。私は自他ともに認めるアニメヲタクに、さらには声優ヲタクにもなった。
小学校に上がったころだった。私の母の親友が、アニメ制作会社の社長をやっているらしいと聞いたのは。それから母の親友であるドリームボックス社長の滝本渚に頼み込み、アニメ制作現場の見学をした。
そこは楽園であり、戦場でもあった。様々なアニメの制作工程の中でも特に惹かれたのが、声優という職業である。元から声優に興味があったが、それは憧憬のようなものであった。だが、この瞬間に声優は私の目標に変わった。ドリボで声優デビューをする、そう心に決めたのだった。
そこからは、目標に向かってひた走った。そして中学二年生のときに声優事務所に入ることができた。しかし仕事はもらえなかった。いくらオーディションを受けても落ちて落ちて落ちる。自棄になって、ドリボ以外のオーディションも片っ端から受けまくったが、どれも結果は同じ。小さな役ですらもらうことはできなかった。そんな日常が続き、気が付けば高校生になっていた。久しぶりに受けたドリボのオーディションの結果が待ちきれなくて、社長室に駆けこんだときだった。あいつと出会ったのは。
「渚さんっ!!オーディションの結果どうだったっ、っておっととととっそこどいて~~~!!」
扉の前には誰もいないと思っていたので、勢いを止めることができずにその人もろとも床に倒れこんだ。
「うわっ」
「ぐへっ」
ちなみに色気の欠片もない「ぐへっ」という悲鳴が私である。解せない。というかなんで扉の前なんかに立っているんだ、と駆け込んだ自分のことは棚に上げて自分の下敷きになっている男を見る。その瞬間、「目が奪われる」という現象に初めて襲われた。遠くで渚さんが何かを言っている気がするが、頭に入ってこない。ただひたすらに、目の前の人物に目を奪われる。
異国の血を思わせる深い青色の瞳、日本人に比べて高い鼻、きめ細やかな肌、色気が漏れる口元、神の最高傑作と言っても過言ではないほどの顔の造形。
「イケメンだぁあああああ!!」
「あらほんとう、びっくりするほどイケメンだわ」
「いまさら気づくなんて遅いなーナギちゃん」
今まで二次元の男にしかときめかなかった心が、こんなにもキュンキュンするなんて。でも、すぐに印象は最悪になった。
あの渚さんが、実力至上主義のドリボの社長が、必死にスカウトしているのだ。彼女がスカウトするなんて滅多にない、いや初めて見た。それだけの実力をこのイケメンが持っているということだろうか。そう思った瞬間、心の汚い部分が嫉妬した。私は100回くらいオーディションを受けて、落ちているのに。この男は同じ高校生でありながら、渚さんにスカウトされている。しかも、あまり乗り気ではなさそうだった。意味が分からない、なんで?なんでこんなやる気もない、無気力な奴に肩入れするの?今まで溜まっていた感情が爆発した。
「ずるい!私は努力しても届かないものに、アンタは才能だけで手が届く!!やりたくないならやるな!!本気で頑張っている人たちに失礼だ!!!」
そう叫んで社長室を飛び出した。人があまり使わない階段に向かう。一人になって冷静になると、後悔が押し寄せた。
ずるいのは、私じゃないか。醜い嫉妬で、彼に八つ当たりして。
後日、彼が正式にドリボに入ると聞いて、犬飼さんに頼んで防音室に入れてもらった。彼に謝罪するために。予定では彼が来てすぐに謝罪するつもりだったのだが、タイミングを見事に逃してしまった。しばらく二人の会話を聞いていると、先日会った彼の雰囲気が随分と柔らかくなっていることに気付いた。何といえばいいのだろう?人形が人間になったかのような。そんな感覚だ。
「サウンド、”本気”で作らせていただきますので、これからよろしくお願いします」
こんなことを言われてしまったら、受け入れざるを得ないではないか。私のあんな八つ当たり紛いの発言、聞き流してくれればよかったのに律儀に覚えていてくれていたなんて。
その後すぐに犬飼さんが私を呼んで、隠れていたことがバレた。
「さっきのあなたの言葉、胸に来た。昨日は言いすぎた、ごめん」
思ったよりもすんなりと謝罪の言葉が出てきたことに驚いた。
「こちらこそごめん。昨日の俺の態度は確かにアニメを愛する人たちに失礼だった。それから俺に怒ってくれて、ありがとう」
「そ、そう。まぁわかればいいのよ。えぇ」
そして真摯な態度に、真っすぐにこちらを射抜いてくる瞳に、思わずドギマギしてしまった。顔が赤くなったのがわかったので、思わず顔をそらす。
すると、頭に温かい手が置かれ、なでなでされた。大事なことだからもう一度言おう、なでなでされたのだ。
「な、ななな」
わけがわからない!どういう状況なの、コレ!?ふわぁ、撫でるのめっちゃ上手じゃん・・・って違う!!
「なに頭撫でてくれちゃってんのよー!!!」
そこから先の記憶はない。いつの間にか家にいた。あいつに、御子柴智夏に撫でられた頭にそっと触れる。胸のドキドキがいまだに止まらない。思い出すだけで顔が熱くなる。あぁこれは、この現象は。違うと否定したいけれど、今まで散々見てきたアニメがそうだと言っている。この感情は、『恋』だと。
「~っ好きだなぁ」
言葉にすると、より現実味を帯びて。傍にあった抱き枕を強く抱きしめるのだった。
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初恋は叶わないもの?そんなの誰が決めたのだ。私は諦めない女。高校二年生の今は、声優の仕事も順調に増えてきた。しかも、目標のドリボで声優デビューを達成することができたのだ。しかもそのアニメのサウンドクリエイターは『春彦』こと、智夏で。初めての共同作業だー!と少々浮ついていたが、そこは許してほしい。
智夏はどうやらかなりの美女ホイホイらしい、と気づいたのは花村香織が智夏に迫っていたとき。三大美女の二人を惚れさせるなんてさすが私の惚れた男だわ。でも、ライバルができて胸中は複雑だ。
私と花村さんと智夏と・・・田中?佐々木?とお昼を食べた。その時分かったことがある。私たちの最大の敵は、田中であると。女子力完備、常に智夏の隣を歩く田中は最大の障壁である。ということで敵の敵は味方という結論に至り、今では花村さんとはお友達である。そんな彼女が終業式の日に泣きついてきた。
「智夏君が生徒会長に持ってかれたよー!!」
「なんですって!?」
生徒会長といえば、三大美女で唯一三年生の、智夏に惚れていない人である。いや、あったというべきか。まさかこの学校の三大美女三人を惚れさせるなんて、しかも毎回知らぬ間に。なんという男だ。でも、負けない。たとえ相手が三大美女であろうとも、尊敬する声優の先輩であろうとも。
「悔しいからクレープ食べに行こう!」
「えぇ、そうね」
この関係が、いつか壊れるものとわかっている。きっと、高校を卒業するころには、こうして彼女と出かけることも、4人で勉強会を開くこともできなくなっている。そのきっかけは、私か、それとも彼女か。でも今だけは、この友情に身を置いてもいいだろうか。
「ごめんなさい」
思わず出た謝罪の言葉は、自分でも驚くほど震えていて小さくて。隣を歩く彼女にさえ聞こえないほどだった。それでも言わずにはいられない。自分の恋心と友情。どちらも大事にしたいなんて、我が儘すぎる。ごめんなさい、どうか私を許さないでね。多分私は恋心を優先させてしまうから。
~第4回執筆中BGM紹介~
終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?より「Always in my heart」歌手:山田タマル様 作詞:山田タマル様 作曲:加藤達也様
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