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秘密です



「で?その後は?」

「それで、自然と仲直りできたらしいです」


彩歌さんの家に行ってから2週間後。再び劇場版の『月を喰らう』のアフレコ現場に来ていた俺は、休憩時間にじろぴょんこと赤川さん、主人公の声を担当する多田さん、そして冒険の仲間の声を担当している茂木さんと俺の4人で話していた。


話題は俺と彩歌さんの顛末(てんまつ)………じゃなくて、俺の知り合いとその彼女のその後の話をしていたのだが、茂木さんがニッコリと「で?」と聞いてきた。


「御子柴君……の知り合いが喧嘩中の彼女の家に行って、仲直りして、それで?」

「それだけですけど…」

「え!?うそだろ!?ありあまる若さが暴走して、一人暮らしの彼女の家に行ってあんなことやこんなことしちゃったんじゃないの!?」

「高校生に何を言ってるんだ」


空になった微糖コーヒーの缶を握りつぶしながら、茂木さんが興奮気味に言ったのを年長者のじろぴょんが呆れた様子で止める。


あんなことやこんなことって……弱ってる彼女にそんなことをする奴はクズ野郎以外のなにものでもないだろう。まぁ、茂木さん達には彩歌さんが体調が悪かったことは言ってないので仕方ないことではあるのかもしれないが。


「そっか…。いまどきの高校生は彼女がいるんですねー」

「いやいや。高校生で彼女がいるのっていつの時代でも珍しくないでしょ」

「ほぇ?」


俺や井村は彼女がいるし、別れたとはいえ玉谷も彼女がいたし、俺たち以外にも高校生で付き合っている人間は少なくない。が、茂木さんは信じられない様子だった。


「俺が初めて彼女ができたのは中学1年のとき……いや、小6だっけ?」

「それは早すぎではないか…?」

「そう言う赤川さんはいつなんですかー?」

「そうだな…。たしか、大学2年のときに妻と付き合った」


コーヒーの効果なのかなんなのかはわからないが、じろぴょんとはこんな質問にも答えてくれるほどに仲良くなった。…質問したのは俺じゃないけど。でも多分、俺が聞いても答えてくれてたと思う。こうして俺の前で話してくれているわけだし。


絶対に仲良くできないと思っていた人とこうしてのんびり話ができるのは嬉しい誤算だ。


「へー!そうなんですね!!ということは大学から今まで奥様一筋ってことですか?すごいですねぇ」


頼れる大人の男性、というイメージだった茂木さんは実はお茶目で他人の恋話(コイバナ)大好きだし。第一印象って案外当てにならないのかもな。


「いや、1度別れたことがある」

「「「え!?」」」


何をそんなに驚いているんだ、という顔をされたが、そりゃ誰だって驚くだろう。


「つまらない理由で喧嘩してな。その場の勢いで別れて…。いろいろあって半年後くらいによりを戻した。……さて、そろそろ戻るぞ」

「いろいろの内容が気になって集中できそうにありません!」

「今後の参考までに教えてください!」

「ただ単純に気になります!」


茂木さん、俺、多田さんの順で詳しく聞こうとしたが、じろぴょんはそれ以上教えてはくれなかった。









今日で劇場版のアフレコは最後だ。


劇場版だけの特別キャラクターや、特別に増員したスタッフもいるため、このメンバーで集まるのも最後になる。


そう思うと数回しか会ったことのない人同士でも妙な感覚を覚えるわけで。


「御子柴君!連絡先交換しない?」

「今度食事でも行かない?」

「お姉さんが好きなとこ連れてってあげる」

「…」


この前、彩歌さんが嫉妬してプチ喧嘩状態みたいになった状況が今ここでこの瞬間、再現されようとしている。だがしかし、俺は過去の過ちから学ぶ男である。


「すみません」

「「「え~?」」」

「誤解されたくない人がいるので」

「「「…!」」」


悲しませたくない、大切にしたい。


「もしかして彼女とか?」

「それとも片思い?」

「どっちどっち?」


新人女性声優3人組、本当に息ぴったりだ。さすが3つ子の声をやっているだけはある。


詰め寄ってくる3人に一定の距離を取り、悪い笑顔で言い放つ。


「秘密です」


悪そうな男に見えた…だろうか?


女性声優3人組は俺の悪い顔を目の当たりにして固まっている。これは完全に引いているな。嫌われ作戦成功だ!


心の中でガッツポーズを決めていた俺と女性声優3人組を見ていたじろぴょんこと赤川さんと茂木さんが感心したように言った。


「落ちたな」

「策士ですね」

「天然なんスよね~」

「「…!?」」


会話にしれっと入って来た彩歌さんに2人が驚いて、さらにその言葉の内容に驚いた。


「ま、まさか御子柴君の彼女って…」


声優同士の中でも特に人気の高い鳴海彩歌。彼女の彼氏になろうとあらゆる男性声優たちがこれまでアプローチをしたと聞くが、うまくいったという話は全く聞かなかった。なのに、まさか!


「秘密です。…ふふっ」


さっき智夏が女性声優3人組に返したものと同じ言葉を2人に返す。


鳴海彩歌の悪い笑顔を見たのは、既婚者の2人だけだった。



~執筆中BGM紹介~

妖狐×僕SSより「sweets parade」歌手:髏々宮カルタ(花澤香菜)様 作詞:uRy様 作曲:CHI-MEY様

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