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駆け上る

誤字報告ありがとうございます!




放課後、校門を出て駅に向かい、改札を通る前に何気なく見たスマホに一件の通知が来ていた。


差出人は彩歌さんから。たったの3文字。


『助けて』


と。何があったのか、説明も何もなくただ一言だけ。それが余計に不安を駆り立てて、気づいた時には帰路とは別の方向の電車に乗り込んでいた。


『大丈夫ですか?』

『何があたんですか?』

『今からいえに向かいます』


いつもなら送る前にきちんと誤字や脱字がないか確認するのだが、そんな余裕もなく、読みづらいメッセージを立て続けに送った。


ドクン、ドクン、と心臓が大きな音を立てて騒いでいる。冷や汗もかいているし、多分顔色も相当悪いだろう。


彩歌さんに送ったメッセージはまだ既読されていない。ということはメッセージに気付いていないのか、もしくはスマホを使える状況じゃないのか。


(大丈夫、絶対、大丈夫…)


そう頭の中で唱えていないと思考がどんどん嫌な方向に向かってしまう。


俺の中の最悪な記憶。父だったあの男に暴力を振るわれていた記憶でもなく、母に置いて行かれた記憶でもなく………たった1人の兄を、目の前で失った記憶。


目的の駅に着いて、電車の扉が開いた直後にできた小さな隙間を縫うようにして飛び出て、そのままの勢いで走って駅を出て彩歌さんの住むマンションに向かう。彩歌さんがマンションにいるかどうかもわからない。本当はどこかのアフレコ現場かもしれない。


これはただの勘だ。確証もない己の勘を頼りに、がむしゃらに息を切らして走る、走る、走る。


マンションに辿り着き、なかなか来ないエレベーターを諦めて、横にある階段を駆け上る。


心臓が爆発しそうなくらいに早鐘を打っているし、足なんてもう上がらなくなってきて何度も(つまづ)きそうになった。


ふらつきながらも彩歌さんの住む部屋の前に辿り着いた。一応インターホンを鳴らしたが、返事はない。


家に置いておくのも心配なため、ずっと持ち歩いていた彩歌さんの部屋の鍵を取り出して鍵穴に鍵を()す。


ガチャリ


鍵を90度回して扉を開ける。


「彩歌さーん」


ガサガサの声で玄関から中に呼びかける。部屋の電気は付いているので、どうやら部屋の中にはいるようだ。


少し待ってみたが返事がなかったため、靴を脱いで中に入ろうとしたときだった。


ドサッ、ガタガタンッ


慌てて動いてどこかにぶつけたような音が聞こえ、ラフな格好の彩歌さんがリビングのドアを開けて顔を出した。


「ち、智夏クンっ!?」


思ったよりも元気そうな彩歌さんの姿が目に飛び込んできて、全身の力が一気に抜けて、玄関の冷たい床にへたり込む。


「わー!?智夏クン大丈夫っスか!?」


急にしゃがみこんだ俺を心配して駆け寄ってしゃがみこんでくれた彩歌さんをそのまま抱きしめる。


「良かった。本当に、良かった…ッ!」


腕の中の確かな温もりを感じながら、安堵するのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ベッドで少し眠り、起きようかどうか悩んでいたとき、インターホンが聞こえたが動くのも億劫だったので居留守を使った。


そういえば、みーちゃんが来るのが遅いっス…。いつもだったら数分で駆けつけてくれるのに。まるでセ〇ムのような安心感。


智夏クンに合鍵をあげたことを教えたら、自分も欲しいとせがんできたのでみーちゃんにも合鍵は渡してある。だからインターホンは押さない、はず。


ガチャリ


え、うそ。鍵が開いたってことはみーちゃんか、智夏クンか、大家さんか、泥棒さんのうちの誰かってわけっスけど…。でも、智夏クンとは今ちょっと微妙な空気だし、そもそも今日来るとも聞いてな、


「彩歌さーん」


カッスカスの声が聞こえたが、この声は間違いなく智夏クンの声!


なんで、どうして、やばい、すっぴん&パジャマ、やばい


って悩んでる場合じゃない!とりあえず行かないと!


慌てて起きたせいで布団が落ちて、肩に引き戸がぶつかったけど、一旦忘れてリビングのドアを開ける。


するとやっぱり智夏クンが玄関にいた。しかも顔色最悪の状態で。


「ち、智夏クンっ!?」


プチ喧嘩状態だった、とかそんなことも忘れて彼の名前を呼ぶ。その途端に糸が切れたように智夏クンがしゃがみ込んでしまった。


「わー!?智夏クン大丈夫っスか!?」


体調が悪いんだろうか、心配で駆け寄って正面にしゃがんで様子を窺おうとした瞬間――。


ぎゅうっと。まるで私の存在を確かめるかのように智夏クンが抱きしめてきた。


「良かった。本当に、良かった…ッ!」


智夏クンは少し震えていて、でも何かに安心しているようだった。彼の背中に腕を回して力強く抱きしめ返すと、落ち着いてきたのかこうなった経緯を話してくれた。


「彩歌さんから『助けて』ってメッセージが来て、俺、もう怖くて…」

「…?…、…!」


ま、まさか。みーちゃんに送ったと思ったメッセージを、間違えて智夏クンに送ってた!?


自分のとんでもない間違いにようやく気付いたのだった。


「ごめんなさいっスー!!!」



~執筆中BGM紹介~

「迷い子」歌手・作詞・作曲:Eve様

読者様からのおススメ曲でしたー!

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