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「お前ら呼び出された理由はわかるよな?」


桜宮高校で一番怖いと評判の先生に名指しで俺、田中、鈴木、井村、玉谷、そして1年生の深凪(みなぎ)(ひめ)穂希(ほまれ)の合計8人が職員室に呼ばれた。


「わかりませ〜ん」


穂希が手入れした爪をいじりながら答えた。言い方はともかく、俺たちも呼ばれた理由がわからないため、これ以外に答えようがない。しかし、火に油を注いでしまったような気がしなくも無い。


「御子柴ぁッッ!」

「俺ですか?」


なぜ俺が呼ばれたのか。その理由は先生の次の言葉でわかった。いや、わかったけど理解は追いつかない。


「お前がこのふざけた部の部長だろうが!」


ぶちょう…?もしかしなくても部長のこと?この場合さっき名前を呼ばれた俺=お前=部長、そしてふざけた部=しんぶん部のことだろうか。


穂希の顔を思わず見ると、明らかに顔ごと目を逸らされた。


これは……穂希が俺を勝手にしんぶん部の部長にしたな?俺に内緒でやったから罪悪感で目を逸らしたんだな?


「しんぶん部の活動内容、なんだこれは!?こんな部活動を容認できるわけないだろうがー!!」


しんぶん部の活動内容が書かれているであろう紙をダンダンッと机に叩きつけながら唾を飛ばす先生。この先生の名前、なんだっけ…?


「その紙、見せてもらってもいいですか?」


無言で差し出された少し草臥れた紙を受け取って活動内容が書かれた欄を読む。そこには典型的な丸文字で大きく書かれていた。


『青春を存分におうかする部活動です♡』


これ、俺が書いたと思われてるんだろうか?この、謳歌って漢字で書けなかったから平仮名でおうかって書いたこれを。語尾のハートを。


俺が絶句していると、これを書いた張本人である穂希が口を開いた。


「人数も5人以上だし、部長も副部長も顧問もいるもん。何がダメなのぉ?部費の申請はしてないし、部室に使える空き教室ならまだあるじゃん!」

「御手洗、お前は姉と同じで目上の人に敬語が使えんのか!」

「いま敬語が使えるかどうかなんて関係ないでしょぉ?」

「第一、お前は男だろうが!男のくせに女子の制服を着るんじゃない!」


田中たちが驚きで目を見開いたのがわかった。なんせ、ずっと女だと思っていた穂希が実は男だったから。でも、穂希と同じクラスの深凪達は驚いてはいない。体育は男女別だから、知っているのは当たり前か。


が、かなり怒っていた。


これまでずっと黙ったままだった姫がこの場で初めて声を出した。


「男のくせに、ですって?そもそも最初の論点からかなり外れた話題を今持ち出すのもあり得ない!」


キッ、と失言をした先生を()め付ける姫。その表情は俺たちが初めて会った時よりもだいぶ険しい表情だった。


抗議したのは姫だけではない。こういう場での発言が苦手な深凪も怒りの表情で続いた。


「そ、そうですよ!校則には学校指定の制服を着用するように、としか書いていないのです!それに、男らしさとか女らしさとかそういうのってもう古いのでありますよ!」


登校日に1年生のこの3人が揃ったときはうまくやっていけるか心配だったが、どうやら無用な心配だったらしい。俺と彩歌さんが唯一の友達だった姫も、人前で話すことが大の苦手だった深凪も、穂希のために怒れるくらいに友情を育んでいたらしい。


「お前ら教師に向かってどういう口の利き方をしとるんだ!どういう育ち方をしたらそうなるんだ!親の顔が、」

「俺が深凪の育ての親ですが何か?」


食い気味に割り込んできたのは深凪の兄の田中だ。仕事で忙しい両親に変わり弟妹の面倒は彼が見てきたので、悪く言われてカチンと来たのだろう。


「こんな兄が育ての親ならこんな風に育つのも納得だな」


おっと?俺もカチンと来たよ?ていうかさっきからずっとカチンカチン来てたよ?


「申請した部活動の内容がお気に召さないのであれば部長と副部長だけを呼び出しても問題なかったのでは?部員全員が問題を起こしたのならともかく、まだ活動すらしていません。それなのに全員を、しかも校内放送で呼び出すのは適切な判断だったとは思えません。それに、」


昼休みに呼び出されたので昼食も食べずにやって来た。それに彩歌さんとのことでも判断力が低下しているのに、こんな風に嫌な先生と対峙しなければならないなんて。いっつも冷静に冷静に、って叶えてるけど、今は冷静なんてくそくらえだ。


「穂希の服装については以前校長先生から「好きなものを着たらいいさ」とお言葉を頂きました。これでまだ文句があるなら穂希ではなく校長先生にお願いします。敬語は敬う気持ちがあってこそ使うものです。俺が今先生に敬語を使っているのは年上だから一応使ってあげようかな、みたいななけなしの理性が働いているのであって、決して敬っているからではありません。本当に、敬ってはいませんから」


大事なことなので2回言いました。穂希が入学する前に校長先生に制服の許可を取っておいたのがこんな所で役に立つとは。穂希本人にも許可を取ったことは言っていなかったので、さっきから視線をかなり感じる。だって許可取ったよ、なんて言ったら調子乗りそうだし…。


俺に延々と文句を言われてろくに反撃できないうちに畳みかける。


「最後の「育ち方が~」とか「親の顔が~」とか人を(けな)す発言をしていた先生の方が、…ねぇ?明言はしませんけど俺たちよりよっぽど…」

「おまッ、お前ーーー!!!」


顔を真っ赤にして掴みかかってくる、前に後ろに忍び寄っていたヨシムーが先生を後ろから止めてくれた。


「暴力はいただけませんよ、沼田先生」

「離せッ!俺はこのクソ生意気なガキに(しつけ)をするんだ!!」

「沼田先生」

「うるせぇ!うるせぇ!どけ、…あ」


暴れる沼田の横には校長先生が。校長先生に「うるせぇ!」と怒鳴っていたことに気付き、おもしろいくらいに血の気が引く沼田。


「部活の申請は許可しとくから、今日はもう教室に戻りなさいね。ごめんねぇ。この先生、特別進学クラスのA組の子たちが嫌いみたいでねぇ。度々問題を起こすからちょっと遠くに飛ばしてみようかねぇ」


(((こ、校長先生かっけぇ~!!!)))


言葉の真相はともかく、頼もしいことこの上ない。それに、さっき見た紙をみて知ったのだが、校長先生はしんぶん部の顧問みたいだし。


よし、急いで教室に戻って秋人が作ってくれたお弁当食べよう!!!


~執筆中BGM紹介~

花束みたいな恋をしたより「勿忘」歌手:Awesome City Club様 作詞:atagi様/ PORIN様 作曲:atagi様

もう映画のタイトルがオサレ。

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