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6人分の幽霊部員



3年生になって1週間が経った。もとやんは最初からうちのクラスにいたのか、っていうくらいに馴染んでいるし、チキンカツを食べていた玉谷は告白していないし、穂希(ほまれ)はまだ俺の部活入りを諦めていなかった。


現に朝のSH前のわずかな時間にもこうして俺の教室までわざわざ足を運んできてくれているわけで…


「先輩っ!なんで部活に入ってくれないの!?」

「だから、俺はもう3年生だし。っていうか、何の部活なんだよ?」


一週間口説かれ続けているわりに、新しく作ろうとしている部活の内容を絶対教えてくれないのだ。


「………しんぶん部」

「へぇー、新聞部」


新聞部ならなんで今まで教えてくれなかったんだろうか?俺が馬鹿にするとでも思った?いかにも活字が嫌いそうな外見をしていても、馬鹿になんてしないのに。いや、見た目で判断しちゃダメか。ゴメン、穂希。


「俺、いま色々やることがあって、部活ができる余裕がないんだ」


『劇場版 ツキクラ』のBGM制作の仕上げ、4人のサウンドクリエイターで作る『四界戦争』のBGM制作、Luna(ルナ)×Runa(ルナ)に作った曲『星屑の軌跡』の連弾の練習、バンドの『ヒストグラマー』デビューに向けての準備、そして大学受験とやることがてんこ盛りなのだ。


「じゃあ、やっぱり入れない…?」


しゅーん、と落ち込む穂希に仕方ないとはいえ罪悪感が湧いてくる。


後輩がここまで言ってるのに俺は何もできないのだろうか。でも、これ以上やることが増えたら確実にキャパオーバーだし。うーん、どうしたものか。


「なぁしばちゃん。それなら名前だけ貸してやったら?」

「「名前だけ?」」


横で聞いていた田中が興味深いことを言ってきた。


「そ。しばちゃんは忙しくて部活に参加する余裕はないけど、なんとか力にはなりたいんだろ?」

「しぇんぱぁい…」

「抱きつくな!」

「先輩照れてるぅ?」

「照れてねぇよ」


力になりたい、の所で穂希が抱き着いてきたのでベリッと引き剥がす。なんでこいつは毎回抱き着いてくるんだ。女子に抱き着くのが気が引けるから俺に抱き着いてくるんだろうが、おかげで男子の視線が俺にグサグサ刺さるんですわ。


「話を続けるぞ?」

「「はーい」」


最初は穂希を見てぽけ~と見惚れていた田中も、俺を通して関わるにつれて変人だと悟ったようで、今ではこうして穂希も俺と一緒に頭を鷲掴みされるくらい雑な扱いになっている。…なんで俺まで頭を鷲掴みされてんの?


御手洗(穂希)は部活を作るために人数が欲しいなら、しばちゃんが名目上は部員になれば問題ないだろ?幽霊部員ってやつ」

「田中先輩って天才っ!そうだよ!幽霊部員って手があったじゃーん!じゃあ御子柴先輩、これにお名前書いてくれるぅ?」


そう言って穂希が俺に差し出したのは入部届だ。部活名の欄には堂々と「しんぶん部」と書かれてあった。なんで平仮名なんだよ。


「すんごい悪いことに加担してる気分なんだけど」

「えぇ~?別にお金を請求するわけじゃないからだいぶ~じょ!」

「だいぶ~じょ?」


ま、いっか。すぐ引退だし。そう思って名前を書いて穂希に入部届を返す。


「俺も部活入ってないから幽霊部員ならなれるぞ」

「田中先輩ホント!?じゃあこれに名前書いてっ!」

「俺の分も用意してあるとか怖いわ」

「鈴木先輩と井村先輩と玉谷先輩ともとやん先輩の分も用意してるよ?」

「「「え?」」」


こうして交渉1週間目にして穂希は俺たち6人分の幽霊部員をゲットしたわけである。


穂希がルンルンとスキップしながら教室を出て行ったのを見届けたこのときは思ってもみなかった。この判断を後悔する時がすぐにやってくるなんて…。


「なんで平仮名で『しんぶん部』だったんだろうな?」

「さぁな~?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ドリボの社員証を首から下げて、防音の重たい扉を開けて、仕事部屋に入る。


「おはようございまー…あれ?社長がなぜここに?」


室内には犬(犬飼)さんといつものメンツと、俺がいつも座っている席に我らがドリームボックスの社長である滝本渚が座っていた。それに普段はドリボの第2スタジオの方にいる瀬川さんたちまでいるとは。


俺が集まった人たちに驚いていると、社長が足を組みながら言った。


「社長はいつでもどこでも現れるものさ」

「そんなフットワークが軽い社長、知りませんよ」

「ちょっとしたお知らせがあってね。こうして『チーム夏くん』に集まってもらったわけだが」


懐かし!『チーム夏くん』って香苗ちゃんがテキトーにつけた名前じゃん!すんごい久しぶりに聞いた。


話は少し変わるが、俺はドリボにいる間は狐面をしていない。ずっと一緒にいる仕事仲間に素顔を隠す必要もないのだ。


「『月を喰らう』の制作で、我らドリームボックスの知名度は格段に上がった。それに伴いSNSでの情報発信に力を入れてきたわけだが。とあるリクエストが多くてな。わかるか、智夏?」


SNSでのリクエストってことは「こういう情報ください!」っていうことか?ドリボで欲しい情報…。劇場版の情報は随時発信しているらしいし……う~ん?


「制作秘話とかですか?」

「惜しいな。制作現場を見たいというリクエストが多かった。それに応えてちょくちょく原画をチラ見させたり、監督の話をちょこっと流したりしてたんだ。それで今度は君たちがBGMを作っているところをちょこっと撮らせてほしいというわけさ」


ほーん。なるへそなるへそ。


「ここはやっぱり年長者の犬さんが出るべきですよ」

「こんな年寄りが出たって誰も喜ばないよ。視聴者が求めているのは智夏君だよ」

「いやいや…。そうだ、新しい第2スタジオの様子を撮った方がいいんじゃありませんか?ね、瀬川さん」

「へ!?いや、視聴者目線で言わせてもらえれば俺は御子柴さんの言う通り犬飼さんの仕事の様子を見たい」


こんな感じで押し付け合いが始まったところで、社長が手を叩いた。


「はい、そこまで。犬飼さんも智夏も瀬川のとこの第2スタジオも全部撮るから。醜い押し付け合いは無駄よ」

「「「え~、そんな~」」」



~執筆中BGM紹介~

セントールの悩みより「Edelweiss」歌手:亜咲花様 作詞・作曲:白戸佑輔様

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