今日も今日とて
「御子柴せぇんぱいっ!おはよ~!」
突然、後ろから抱き着かれたと思ったら聞き覚えのある声と髪色が見えた。
「穂希……離れてくれ」
「はぁ~い」
なにが楽しくて朝から男に抱き着かれなければならないのか。ケッ。
「ねぇ~え御子柴先輩!制服似合ってると思う?」
「残念ながら似合ってる」
「あ~ん、もうっ!一言多いっ!」
実際、彼がスカートを履いていても大して違和感は感じない。しかし、両手をあごの下に当ててぷんすかする様子はまるで教科書通りのぶりっ子だ。これではただただ女子の反感を買うだけの奴になってしまう。それでは彼を俺に託してくれやがった御手洗先輩に申し訳が立たない。
「穂希、もうちょっと落ち着きを持とうか」
「あー!!あなたたちって確か同じクラスの子だよね~?名前なんて言うの?穂希はね、御手洗穂希!稲穂の穂に希望の希で穂希!あなたは?」
こいつ俺の話をなんも聞いてないな。しかもこんなハイテンションで名前聞かれて深凪ちゃんの顔面が蒼白になっているし。
「御手洗ってもしかして御手洗先輩の妹さん?」
「そうでぇす!」
「姉より強烈な妹のキャラよ」
「てへっ」
田中が兄として助け舟を出してやるのかと思ったらこっちはこっちで勝手に話して何か納得してるし。
「た、たたたたたたたたたt」
「たたたた?面白い名前だねっ!」
「そんな名前あるか!」
けらけらと笑う穂希に思わずツッコミを入れてしまった。くっそ、負けた気分になるのはなんでだ!?
「田中、深凪です。よろしくお願ぃ……」
「みなぎ?漢字で書いたらどう書くの?」
「浅い深いの深いに、海の凪の凪で深凪」
「へぇ~。良い名前だねっ!」
「あ、ありがと…!」
おやおや?意外と穂希の奴、社交性が高いぞ。俺よりもよっぽどコミュ力が高すぎ君だ。
「ちょっとー!!いつまでこの私を無視する気!?」
穂希の社交性について驚いていたら、ずっと横で黙っていた姫がウガーッと怒り出した。でも、深凪の自己紹介が終わるまで律儀に黙って待っていたあたり、やはり根は良い子なのだ。
「あなたのお名前は~?」
「真壁姫よ!真空の真に鉄壁の壁、あとは普通の姫」
「「「普通の姫」」」
お姫様の姫、とか言うもんだと思ってたが、まさかの「普通の姫」とは。これまた意外な。
「2人ともおもしろぉい!」
「2人とも一番のオモシロ人間に言われたくはないだろうよ」
「御子柴先輩ひどーいー!」
と言って俺の腕にしがみついてきた穂希を剥がすのも面倒になって放置していたら、聞きなれた声が割って入って来た。
「チーちゃん、おっは~」
「おはよう、智夏君!」
「おはよ」
お~眼福眼福。エレナと香織とカンナが3人一緒で登校してきた。最近この組み合わせをよく見るが、たしか球技大会以来エレナとカンナが仲良くなったんだっけか。昨日の敵は今日の友を有言実行している青春ガールたちでございますな。
「おはよう、青春ガールズ」
「なにそれダッサ」
「すんませんした…」
すんごい流暢にエレナにダメ出しされた。真顔で言われると言葉の殺傷性って倍増する時あるよね。俺の豆腐メンタルはもう瀕死です。
「あれ~パイセンが美人に囲まれとる~」
確かに。朝からなんでこんなに女子に囲まれてるんだ、俺。って今の声。
「虎子、はよ」
「はよ~。ねぇパイセン。もうそろ学校に入んないと遅刻だよ~?」
「「「やばっ!」」」
その場にいた全員が虎子のごもっともな言葉に一斉に校舎の中に飛び込んでいく。こうして半ば強制的に俺の知り合いの女子たちが大集合した朝は終わったのだった。
今日から新しい3年の教室に向かい、扉をくぐると、とある一席に人だかりができていた。
ガタッと音を立てて人だかりの中心にいた人物が立ち上がり、目が合った。
「おはよう、もとやん」
「おはよう、師匠」
今日から3年ということは、もとやんが3年A組に加わる日ということだ。こうしてもとやんが俺たちの教室にいることにまだ違和感……もないな。よく遊びに来てたし。もうだいぶ前からうちのクラスにいなかったっけ?って思うくらいにもう馴染んでる。
「改めて、今日からよろしく!」
「こちらこそ」
少年漫画のように互いにがっちり握手を交わす。
「今日はなんかドジった?」
「間違えて2年A組の教室に入ったことくらい」
「今日も今日とて、もとやんだな」
1人増えた教室で、SHを迎えた。
~執筆中BGM紹介~
プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪より「イマココカラ」歌手:プリキュアオールスターズ様 作詞:青木久美子様 作曲:高取ヒデアキ様




