表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/467

家族写真

今回から物語は4月です。



生命が芽吹く4月。


「夏兄!はやくはやく~!」

「いま行く!」


妹の冬瑚(とうこ)に急かされて、急いで靴を履いて玄関の外に出る。


「兄貴、やっと来たか」

「起こしてくれればよかったのに」


外に出ると、すぐ横から弟の秋人(あきと)が呆れた様子で声をかけてきた。


春の陽気に誘われるように、つい眠ってしまったのだ。今日は大切な用事があるのだからたたき起こしてくれても良かったのだが、自然に起きるまで待っていてくれたあたりがなんともうちの家族らしいと言いますか…。


「だーってあんなに気持ちよさそうに寝てたら起こせないよ」


三脚の高さを調節しながら香苗ちゃんが笑って俺を迎えてくれた。


「それじゃあ4人全員揃ったことだし、」

「ハルも連れてきたよ!」


冬瑚が腕に抱えている白猫は、我らが御子柴家の愛猫、ハルである。冬瑚の腕の中で大人しく丸まっている。顔だけキョロキョロと周囲を見渡し、お鼻とおひげがヒクヒクしているのが可愛い。


香苗ちゃんが冬瑚の言葉に頷き、今日のメインイベントの開幕を告げる。


「そうね。ハルも家族だもんね。じゃあ改めて!家族全員揃ったので、家族写真を撮りたいと思います!」


この前写真を撮ったのは確か、水族館に行った時だっけか…?そのときはハルはいなかったし、このメンバーで写真を撮るのは初めてかもしれない。冬瑚とハルの写真は各々撮りまくってはいるが。


今日の家族写真は冬瑚の提案で撮ることになったのだ。


「ほら並んで並んで~」

「俺と香苗ちゃんが外側で内側に冬瑚と秋人でいいか?」


秋人は成長期とはいえ、今はまだ香苗ちゃんの方が秋人より背が高い。だからうちで一番高身長の俺と次に高い香苗ちゃんが秋人と冬瑚とハルを挟んで立つ。秋人は香苗ちゃんの身長をいまだ越せないことを複雑に思っているようだ。


「それじゃあ撮るよー!ほら秋くん笑って!!」


少し不貞腐れたように口をとがらせる秋人。さすがにその顔で写真を撮るのも……それはそれで面白いけど…。


「秋兄!ハルを抱っこさせてあげるから笑って?」


しょうがない兄だなぁ、とでも言いたげに冬瑚がハルを差し出す。ハルもハルで、しょうがねぇ飼い主だぜ、みたいな目を秋人に向けている。あくまで想像だけど。


「…」


秋人は無言でハルを受け取ると、ひたすらハルをなでなでして、右手でハルを抱えたまま左手で冬瑚をなでなでし始めた。


な、なに~!?二重(ダブル)治癒(ヒーリング)、だと!?


我が弟ながらやりよる!


―――パシャッ


シャッターの音が聞こえて、3兄弟と1匹が揃って音のした方を見る。


「「「香苗ちゃん?」」」

「えへへ。あんまりにもみんないい顔してたから、思わず1枚撮っちゃった」


いい顔って、俺にとってはそんなによくない顔だろうな…。


「よしっ!じゃあ撮るよー!!」


三脚にセットしたカメラを操作し終え、急いで俺たちの元にやって来たと思ったら俺たち3人(と1匹)を後ろから抱きしめてきた。


「香苗ちゃん!?」

「並ばないの!?」

「キャハハハ!」

「みんな大好きー!ハイ、チー」


―――パシャッ


「いや待って?カメラ空気読んで?チーズ、って私が言い終えたら撮るでしょ。早いよ君」

「なんでカメラに真顔で文句言ってるのかな…」

「それは香苗ちゃんだからだよ」

「香苗ちゃんだからだよ!」


香苗ちゃんに呆れていると、秋人が答えになっていないような答えを言い、冬瑚が秋人のマネをして後に続いた。


後日プリントアウトした写真は俺たち兄弟がハルを中心に自然体で話しているものと、香苗ちゃんが俺たちを後ろから抱きしめているものなどなど。


撮った写真を写真立てに飾り、棚の上に置いていく。これからも家族の写真が増えていくのかと思うとほっこりする。


来年の春も家族みんなで、こうして写真を撮りたい。1年後に、俺がどんな進路に進んでいようとも。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ワクワクとソワソワとドキドキ。


今日から登校してくる新1年生からはそんな音が聞こえてきそうなほど。初めての高校生活に胸が高鳴る者、新しい環境にうまく馴染めるか不安な者、まだ見ぬ出会いに期待する者。


「、、さん!……しば、、!」


微笑ましく新入生を見ながら登校していると、聞き覚えのあるような声が後ろから…


「しばちゃーん。はよーっす」

「はよーっす、田中……と、深凪(みなぎ)ちゃん?」

「お、おはょぅ……‥」


ごにょごにょとフェードアウトしてしまった挨拶をしたのは、田中の一番上の妹の深凪ちゃんだ。彼女が身に纏っているのは俺たちと同じ桜宮高校の制服だ。ということはつまり。


桜宮高校(ここ)に入学したんだね」

「はぃ…」

「深凪、声がまた小さくなってんぞ」

「うぅ…。お、おはようございますです!しばさん!」


兄の田中に注意され、意を決して深凪ちゃんが改めて挨拶をしてきた。


「おはよう。制服よく似合ってるよ」

「我を褒めても何も出てこないでありますよ?」

「思ったことを言っただけだよ」

「さっすが、しばちゃん。朝から発言がイケメンだぜ」

「そりゃどーも」


田中の右に俺、左に深凪ちゃんと3人で並び、校門をくぐる。


「あー!!やっと見つけた!」


誰かと待ち合わせでもしていたのだろうか。女子生徒が大きな声を上げているのが聞こえた。朝から元気だなー。


「なぁしばちゃん。あの子、こっちに来てない?」

「へ?……あれ?あの子って、」


たしか正月にテレビ局で会った…


「見つけた!友達2号!」


そんな呼ばれ方してたなそういえば。奇怪な行動で周囲の注目を集めながらこっちに向かってくるのは、正月に出会ったお姫様だ。名前も姫だけど、性格も姫。これ本人に言ったら怒られるな…。




~執筆中BGM紹介~

夏目友人帳より「春の息吹」作曲:吉森信様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ