生徒会長
校長の長い長い長い話を右から左に聞き流し、SHでヨシムーの話を上の空でスルーし、やってきました放課後。生徒会室は校舎の最上階の隅に位置し、2年生の現在に至るまで近寄ったことすらない。
「田中、付いてきて」
「ご指名が入ったのはしばちゃんだろー?」
「どこのホストだよ」
「今日はお迎えに行く日だから無理」
「そっかー」
あ~行きたくない行きたくない。生徒会長直々に呼びに来るなんて厄介事の匂いがぷんぷんする。
「あ、ほらチャイム鳴ったぞ」
無情にもSHの終わりを告げる絶望のチャイムが。じゃ~な~とニヤニヤしながら去る田中を見ながら、俺も便乗して帰っちゃおうかなーとか考えていたとき。
「御子柴様、お迎えに上がりました」
目の前に突然男子生徒が現れた。
「お嬢様が生徒会室でお待ちです。ささっお早く」
え、お嬢様?生徒会室でってことは生徒会長のこと?生徒会長はお嬢様ってか。どこの少女漫画のパロディだ。いや、あれはメイド様か。
「あの、カバン返してください」
いつの間にか俺のカバンが謎の男子生徒の手の中に。あのカバンの中には五線譜などの仕事道具が入っているため他人に持たせたくはないのだが。
「では、参りましょうか」
無視かよ。というかこの状況的にあのカバンは人質に取られたとみて間違いないな。くそっ、すぐに助けてやるからな、待ってろよカバン。するとカバンが頷いた、ような気がした。
執事っぽい男子生徒にドナドナされながら現実逃避していたが、現実は厳しい。もう目の前には伏魔殿(生徒会室)が。
3回ノックをして扉を執事男子が開ける。目で「どうぞ」と促されたので気が重いが中に入る。
「やぁやぁこの私を待たせるとはいい度胸じゃないか。2年A組、出席番号28番の御子柴智夏君?」
「お待たせして、すみません。あのどのような用件で呼ばれたのでしょうか」
「性急だな。だがその質問はもっともだ。期末考査で学年8位の御子柴智夏君」
なんで俺の名前の前に個人情報をつけていくのか。生徒会室には会長と執事男子と俺の3人だけ。気まずい。
「『ピアノ陰キャ』と噂されているようだね。君は」
「不本意ながら」
こちらを探るような目で見る会長にたじろいでしまう。
俺の返答を聞いて、くくっと会長が笑う。
「ピアノ、かなりうまいんだって?」
「そう、なんですかね」
返答一つ間違えただけで何かに引きずり込まれそうな気がする。慎重に当たり障りのない言葉を選んでいく。
「私は一つ、君に謝らなければならないことがある」
「謝る?」
「君の経歴を少し調べさせてもらった」
「っそれは・・・」
一体どこまで・・・
「すまない。君の家庭事情と、ピアノコンクールの受賞歴について家の者に勝手に調べさせた」
そう言うと会長は頭を下げた。ついでに執事男子も。
「謝罪は受け入れました。それで、何故俺の経歴を調べたんですか?」
別に俺の過去がバレたところで、言いふらすような人たちでもないだろう。謝罪してくれたし。
「ピアノが本当に弾けるのかどうか調べたくてな」
「聞いてくれれば良かったじゃないですか」
わざわざ人に調べさせなくても、聞いてくれればコンクールの受賞歴なんて教えた・・・いや、教えなかったかも。面倒くさそうだし。
「私はお近づきになりたい人の経歴を調べさせることにしている」
「お嬢様の周りには、羊の皮を被った狼が寄ってくることもありますので、昔から周囲の人間の経歴は調べているのです」
「なるほど。それでなぜお近づきになりたいんですか?」
さっきから聞いてはのらりくらりと躱されているが、そろそろ俺を呼んだ理由を知りたい。
「ふむ。そろそろ本題に入ろうか。君のピアノの腕を見込んで頼みたい。私の、桜宮高校生徒会長一条陽菜乃のバンドに、キーボードとして入ってくれ!」
勢いよく椅子から立ち上がって、キラキラした目でこちらを見てくる。
「遠慮します」
「そうかそうか引き受けてくれるか・・・む?」
「遠慮します」
大事なことだから2回言おう。
「なぜっ、自分で言うのもなんだが、私は三大美女とも称されるほど器量は良いし、権力も持っている。それに何より男子が好むという、お、お胸も標準より大きい!!」
「いや、そこじゃないです」
自分の胸を下から持ち上げて何を宣言しているんだ。執事男子も何故止めない。そちらのお嬢様がご乱心ですよー!
すると俺の切実な思いが伝わったのか、執事男子が動き出す。
「お嬢様、どうやら御子柴様は女性より男性を好むご様子、ここはわたくしめが一肌脱いで・・・」
「いやいやいやいや、なぜ制服を脱ぎだす!?」
救世主に見えた執事男子がどえらい勘違いをして服を脱ごうとするので、全力で止める。
「おや?男性を好むことは否定なされないということは、やはり」
「あらそれなら私の魅力が通じないのも納得だわ」
「ちっがうわー!!」
御子柴智夏、魂の叫び。なんだこの話が通じない主従コンビは。
「会長の魅力がどうこうの話ではなくて、断ったのは俺自身の問題です」
「君自身の?」
「バンド、というものを組んだことは無いので」
あと、香苗ちゃんたちに相談もなく決められない。一応作曲活動でお金をもらっているわけだし。
「何事も経験だよ?それに永久的に組もうと言っているわけじゃない。学校祭まででいいんだ」
「学校祭で披露するんですか?」
「そうだよ」
「あと1か月くらいしかないですけど」
「大丈夫。キーボード以外のメンバーは既に練習している。後は君が入るだけだ」
「いや、入りませんて」
あれれ?おかしいな、言葉のキャッチボールができないぞ?
「君は学園祭でバンド演奏したいとは思わないのか!」
「思いませんね」
去年も無難に自分のクラスの出し物をして終わったし。
「では、この後用事があるので失礼します」
「そっか。今日は来てくれてありがとう。それと、諦めないから」
生徒会室を出る寸前に何か恐ろしいことを言われた気がするが、今日は終業式。明日から学校は休みのため、会うこともないだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やぁやぁ昨日ぶりだね、御子柴智夏君」
夏休み初日。家の前には白いワンピースが眩しい生徒会長が立っていました。
~第二回、執筆中BGM紹介~
夏目友人帳より「きみが呼ぶなまえ~夢のつづき」 作曲:吉森信様
おすすめの曲があったら感想欄に書いて教えてくださると嬉しいです。