似ていたから
今日は3月14日ということで、バレンタインにチョコやお菓子なんかをくれた人たちにお返しを渡して学校を出た。向かう先は駅の近くのカフェ。
カランコロン、と聞き心地の良い音を立ててベルが鳴り、店員さんに案内された先にいたのは、卒業したばかりの先輩だった。
「お待たせしてすみません、御手洗先輩」
「待つ時間も楽しいものさ。呼び出して悪いね、御子柴」
御手洗先輩と俺は……どういう仲なんだろうか?知り合ったのは御手洗先輩が受験が終わったノリで告白してきたときで、その後も2年の教室にちょくちょく遊びに来てて、えーと……仲の良い先輩後輩、だろうか。
「いえ。先輩、これバレンタインのお返しです」
「飴ちゃんしかあげていない私にわざわざ用意してくれたのかい?」
「会うたびに飴ちゃんをくれましたからね。まぁ、日頃の飴ちゃんのお返しということでお納めください」
テーブルの上にチョコの箱を置いて、スススと滑らせて先輩の前に置く。
「ありがたく受け取らせていただくよ」
頼んだコーヒーが届き、ミルクを入れてくるくると混ぜる。最近、大人の男になるべくコーヒーを飲めるように頑張っているのだ。目標はブラックコーヒーを余裕で飲めるようになること。……いまはミルクを入れてじゃないと飲めないが。いずれは!ブラックで!飲めるようになる予定です!
「それで、御子柴をここに呼んだ理由なんだが、実は会わせたい人が…」
「どうも~御手洗穂希でっす!よろしくお願いしまぁす、御子柴せぇんぱい!」
御手洗先輩にそっくりの顔立ち、蜂蜜色のショートカットより少し長めの髪、あま~い声音。
「え~っと、まぁ、なんだ。私の、」
「妹でぇす!」
「御手洗先輩の……なるほど」
突然、御手洗先輩の背後の席から飛び出して乱入してきたのはどうやら御手洗先輩のご家族らしい。
「実は穂希ね、4月から桜宮高校1年生なの!」
「入学おめでとう」
「ありがとうせぇんぱいっ!」
とんでもない後輩が入ってくるなー。4月から楽しみだー。ははー。
「穂希、少し静かに」
「えぇ?姉さんひどぉい」
「…と、まぁこんな感じなんだ。だから4月からうまくやっていけるか心配でね」
「穂希はもう子どもじゃないよ!」
ぷんぷん、といった感じで頬を膨らませている穂希を心配げな様子で見ている御手洗先輩。
「学年の違う俺がどこまでできるかはわからないですけど、できる範囲でサポートしますよ」
「ほんとぉ?穂希、嬉しい!」
今度は俺に飛びつこうとしてきたので御手洗先輩が襟首をつかんで阻止してくれた。
「穂希、ちょっとメイク直してくるねっ!」
「あ、じゃあ俺もお手洗いに…」
「御子柴、先に謝っとく。すまん」
「?」
なぜ御手洗先輩に謝られたのだろうか。
疑問に思いながらお手洗いに行くと、先に行っていた穂希がトイレの中の鏡の前でにんまりと笑っていた。
「どうした?」
「!?」
なにが面白いのか不思議に思って聞いてみると、穂希が宇宙人でも見つけたかのような驚きの表情になった。
「ちょっ、はぁ?待って、先輩、穂希を見てなんとも思わないの?」
「ん?髪の色、綺麗だな」
「ちっがーう!!そうじゃない!穂希が男子トイレにいるのを見てなんで驚かないの!!」
さっきの頬を膨らませてぷんぷん怒る仕草ではなく、ダンダンッとヒールで地団駄を踏みながら迫ってきた。
「なんでって……男が男子トイレにいてなんで驚くんだよ」
穂希が女子トイレにいた方がびっくりだわ。
「!?!?!?!?」
え???今度はめっちゃ気持ち悪いものを見る目で見られたんだけど。なんなの、つら。
「ちょっと来て!」
「えぇ?さっきから何?」
腕をがっしりと掴まれて御手洗先輩の元に連行された。意外と筋肉付いてるな、穂希君。なにか筋トレをしているのだろうか。
「姉さん!こいつなんなの!?」
「高校の後輩だけど」
「こいつ穂希が男だって知ってたんだけど!姉さん喋った!?」
「へ~。御子柴、この子が妹じゃなくて弟だって気づいてたんだ」
穂希が自分で妹だと言ったときには「おや?」と思ったが、家族の形はそれぞれだし。そんなもんかなぁ、と思っていたのだが。
「だって、だって!今まで初めて会った人に男だってバレたことなかったのに!」
言えない。男だと分かった理由が、肩幅とか骨格が女装した自分の姿に似ていたからだなんて言えない…。
~執筆中BGM紹介~
「北風」歌手・作詞・作曲:槇原敬之様
読者様からのおススメの曲でした!




