もはや詐欺では
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カラオケ店に集まって話している最中にも、俺たちのプロデビューのオファーが1社増え、合計4社からになった。
「オファーの話を蹴るとかホントにもったいねぇな。デビューしたくてもできない奴らなんか掃いて捨てるほどいんのによ」
ジュースをストローですすりながら、颯馬が悔しそうに言った。
「虎子はデビューしたい派なんだけどね~。でも、みんなそれぞれ進路は違うから~。物理的?に不可能なんだ~」
実際、天馬先輩はこの場に来れなかったように、みんなバラバラになっていくのだ。
「じゃあさ、なんでお前らこうやって集まってんの?」
……たまーーーーーに鋭いな、こいつ。普段はナンパすることか、バンドのことしか考えていないようなチャランポランなのに。
「おい、お前いま俺のことバカにしたろ」
こういう勘もよく働くようで。思わずため息が出てしまう。
「相変わらず失礼だな、イケメン野郎」
「その呼び方やめてくださいって何度言ったらわかるんですかね。その頭はお飾りですか?」
「後輩君、落ち着いて」
「そうだよ智夏君。見てる分には面白いけど、とりあえず落ち着いて」
面白いって……どうりで俺たちが口喧嘩している間、みんな静かだと思ったよ。
「話は戻る、というか、ここからが本題ね」
陽菜乃先輩が備え付けのマイクを握って話し出した。別にマイクがなくても聞き取れるのにな…。
「私達ヒストグラマーは、デビューはしない……そういう話でまとまってた。でも、オファーが来た会社の中の一つに、非常に興味深いものがあったのよね」
ザキさんが陽菜乃先輩の言葉に合わせて、カラオケのテレビ画面にスマホの画面を映し出した。……なにそれすごい!そんなこともできるんだ!やっていいことかどうかはわからんけども!
変なところで感動しながら、改めてテレビ画面に映った文字列を見る。これが今日俺たちがここに集まった本当の目的だ。
「そもそもオファーって、私らの演奏を見て”お金になる”と思ってしてくるものだと思うの」
「身も蓋もねぇな」
「でも事実だよね」
リモート参加の天馬先輩と、タブレットを持ったすみれ先輩が同意する。株式会社だしね。利益はきちんとあげないとやってられない。
「でも、1社だけおかしい内容のオファーが来たの」
「「「おかしい?」」」
「それがこれ。レコード業界で1、2を争う大手の会社からのオファー。ちょっと内容を読むわね。
『動画を拝見しましたところ、まだメンバー全員が学生であるとお見受けいたします。そこで、自社でゆっくりとデビューの準備を行ってはいかがでしょうか』
…という、明らかに胡散臭い内容のオファーが届いてます」
シーン、と場が静まり、もはや悔しさを通り越して呆れた様子の颯馬が沈黙を破った。
「ゆっくりと、って…。利益度外視でお前らにオファーしてるってことかよ。すげぇな」
タダほど怖いものはない。
「そう、利益度外視。そしてこれにはまだ続きがあるの。
『また、それぞれ進路があるかと思います。自社では副業・兼業可としています。働きながらでもデビューしてみませんか。もちろん無理はさせないと約束します』
…とまぁ、至れり尽くせりと言うか。これはもはや詐欺ではないかと思うくらい好条件なオファーが来たわけ」
………タダほど(以下略)
「え、こわこわこわこわ!」
「すみれパイセンが壊れた~」
「だって、条件良すぎでしょこれ!もはやオファー出した会社に利益なんて無いんじゃない!?もしかしてこの話受けた途端に奴隷として売り払われるんじゃない!?」
「奴隷はさすがにないでしょうけど」
「マジレスじゃん」
マジレス……たしか真面目に返事をすること。なるほどさっきのは冗談か。
「要はそれだけ怖いってことよ」
「うまい話には裏があるもんだしな」
颯馬なんか呆れを通り越して悟りを開いた顔してるし。なんかごめんな。
「とりあえず、このオファーを出してくれた人と話をしてみない?」
「そうですね。とりあえず話を聞いてみた方が早いかもしれません」
「そーだな」
ということで、至れり尽くせりのオファーを出した人と話をすることになった。
「なぁ、俺もう帰っていい?なんかいたたまれないんだけど。そもそも俺が呼ばれた理由もよくわからんしな」
「あ、はいどうぞ。あとコレ」
「なんだこれ」
颯馬に渡したのは紙袋だ。機材を借りてくれたお礼を、颯馬本人にしたいと思って思いついたものだ。
「和馬から、颯馬…さんのバンドのロゴデザインを考えてるって聞いて。何個か作ってみました」
何個かデザインを考えて、Tシャツにプリントしたものが紙袋に入っているのだ。
「っ!な、なぁ見てもいいか?」
「どうぞ」
颯馬だけでなく、陽菜乃先輩たちまで周りにやって来た。きちんと包装されたTシャツ3枚を割れ物でも扱うかのように丁寧に取り出していた。
「3つも作ってくれたのか!?」
「どれが気に入るのかよくわからなくて。あ、もちろん全部気に入らなかったら捨ててくれていいですから」
「そんなことするかよ!!」
「おわっ!?」
びっくりした…。噛みつくみたいに言われて、まだ心臓がバクバクしている。まさかこんなに喜んでもらえるとは思ってなかった。
「俺、今日のお前らの話聞いてさ、正直、自信失くしてた。演奏技術も人気も二流で、デビューなんか夢のまた夢だなって。でも、このTシャツ見てたらなんでもできる気がしてきた!ありがとう!本当に、ありがとうな!」
修学旅行先で初めて会って、それからずるずると腐れ縁が続いていたが、颯馬の本音を今ようやく聞けた気がする。だから俺も、それに応えなければ。
「気に入らなければ捨ててください……は訂正します。気に入らなければ俺に言ってください。修正します」
「おう!早速メンバーの奴らに見せてくるよ!じゃあな!」
未だ見たことがないくらい爽やかに笑って去って行った。
「御子柴パイセンって絵も上手なんだね」
「さすが俺の後輩だな」
「いやいや私の!後輩君だから!」
「私達の後輩でしょ」
しばらく談笑したり歌ったりして時間を潰していると、待ち人がやって来た。
~執筆中BGM紹介~
コードギアス反逆のルルーシュR2より「WORLD END」歌手:FLOW様 作詞:Kohshi Asakawa様 作曲:Takeshi Asakawa様
10月からOP・EDを変えて再放送するそうで。秋アニメ熱いですね~。




