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非常にまずい!

本作をお読みいただき本当にありがとうございます!




「置いて行かないで」


置いて行かないで、か。虎子はヒストグラマーのことが、このメンバーが本当に大好きだもんな。別れの寂しさも人一倍だろう。


「虎子ちゃん、また会えるよ。だから泣かないで」

「俺たちの末っ子は泣き虫だな」

「…ぐすっ、末っ子ポジは智夏パイセンでしょ」

「確かに」

「いやいやいや!末っ子は年齢的に虎子では!?」


なぜ俺が末っ子ポジなのか。しかも俺以外の全員がそう思ってるっぽいし。解せぬ。


「はぁ。もう末っ子ポジでもなんでもいいですよ。……俺から先輩方に言えることは、どうか健康に気を付けてお元気で、これだけです。健康一番」

「親か」

「ばあちゃんか」

「じいちゃんか」

「近所の小谷さんか」


最初の3つはともかく、最後の近所の小谷さんは誰なんだ。末っ子だったり親だったり俺のポジションころころ変わりすぎじゃないか?俺の不満げな顔にみんなが笑った。


最後はみんなで笑って、次の約束をする。


「それじゃあ、またね!」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「確かに「またね」って言った。言ったけどさ。さすがにまた次の日に会うとは思わなかったわ~。いくら天下無敵の陽菜乃さんと言えど、これは完全に予想外」


ははは~と乾いた笑いを零しながら陽菜乃先輩が言った。昨日の卒業式を終え、先輩方は今日は自分たちのクラスの集まりやらの予定が入っていたはずだが、天馬先輩以外のメンバーともう一人がカラオケ店にやって来ていた。


カラオケ自体は田中たちと来たことはあるが、今回は歌うことが目的じゃない。天馬先輩は引っ越し先に向かっているため、移動の車中からリモート参加だ。


すみれ先輩が持ってきたタブレット端末から、天馬先輩のげんなりした顔がよく見える。


カラオケの個室ブースのU字型になっている椅子に陽菜乃先輩、ザキさん、すみれ先輩(リモート天馬先輩)、虎子、俺の順に座っている。そして最後の一人、昨日機材を大学から借りて持って来てくれた颯馬が隅にあった小さな椅子を持って来て大きなテレビ画面の前に小さくなって座っている。




なぜ俺たちがこんなにも早く再会することになったのか。


それは昨日のライブの映像がかなりの人数に拡散されてしまったからだ。


「本当にすまん!」

「すまん?」

「すみませんでした!仲間内だけのチャットグループでなら大丈夫かと思ったんだよ…」


そもそも颯馬の大学のサークルから機材を借りる代わりに、俺と虎子が実際に機材を使っている姿を動画に撮って渡すことが条件だったのだ。あくまでも確認のためであって、拡散が目的ではなかった。はずなのだが。


「サークルの後輩が勝手に動画を拡散したらしくて…。俺が気づいて削除させた時には既に拡散された後で」


つまり自分は悪くないと?まぁ、俺たちも管理が足りなかったのは認める。けど。


「それだけじゃないよなー?」

「うっ!」


君自身、とんでもないことをやらかしているはずだよ?


「後輩君がブラックになってる」

「智夏パイセンの笑顔がこわ~い」

「天馬、見える?智夏君が年上を脅してるわよ」

「なにっ!?カメラをもっと右にしてくれ!違う、そっちじゃない、逆!」

「お嬢様、撮影しますか?」

「そうしましょ」


「ちょっとギャラリーはお静かに願います!!」

「「「はーい」」」


最初の話では、動画を撮るのはリハーサルまでだったのだ。それなのに拡散されている動画の中にはヒストグラマーの5人で演奏したものも含まれていたのだ。


本番(ライブ)も撮ってた?」


颯馬の目を見てにっこりと聞くと、ギギギと錆びた機械のような動きで目を逸らされた。


「撮って……………た」


素直に認めればいいものを。


「ごめん」

「………こう、素直に謝られると怖いというか。何かよくないものでも拾い食いしたのかなとか思いますよね」

「なんだよ!人がせっかく謝ってんのに!」

「調べてみたら、どうやらあの場にいた何人かが動画を撮ってたみたいですし。颯馬…さん一人だけを責めるわけにもいきません」

「俺さっき責められなかったか?」

「気のせいですよ」

「そうか……そうか?」


チッ、さっさと言いくるめられればいいものを!他人の言葉を素直に受け止めることができんのかね!俺もそうだけどさ!


「ていうかさ、動画が拡散して何が悪いんだよ。みんな「すごい!」って褒めてるんだぞ」


確かに普通は話題になったら喜ぶところかもしれない。開き直りのような颯馬の発言に陽菜乃先輩がパンパン、と手拍子を打ってリズムよく言い出した。


「拡散がダメなわけ、その1!」


パンパン


「私、一条陽菜乃、家族にバンド活動をしていたことがバレるのはあまり好ましくないから!次、拡散がダメなわけ、その2!」


パンパン


「俺、御子柴智夏、顔やら正体やら色々隠してるのでバレたら非常にまずい!」


拡散された動画は、体育館が暗かったこともあり、かなり画質が悪く、俺たちの姿は鮮明には見えないのが救いだ。


「そして~!虎子のYeah!Tubeチャンネルにデビューの誘いがレコード会社3社からすでに来ている~」


虎子は歌声で身バレしたらしく、バンドを組む前からやっていたYeah!Tubeチャンネルにオファーが来たらしい。


「まじかよ!すげぇな!それで、どの会社からデビューするんだ?」

「しないけど」

「へ?」


鳩が豆鉄砲を食ったような顔とはこういうのを言うんだろうかと颯馬の顔を見る。


「私達ヒストグラマーはデビューしない。話し合いでそう決めたのよ」

「まじかよ!?もったいねぇな!ってかお前ら全員俺より年下のくせにため口なんだな!」


デビューはしない。そう決めたけど、まさかオファーの話が来るなんて、しかも3社から!


「あ、4社目のオファーが来たよ~」


……4社から!



~執筆中BGM紹介~

鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMISTより「レイン」歌手:シド様 作詞:マオ様 作曲:ゆうや様

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